世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本センターとカザフスタンの日本語教育

カザフスタン日本人材開発センター
荒川友幸

日本語学習者の「頭上げ」

 私がアルマティに赴任して1年余りが経過した。ここでの生活にも徐々に慣れ、カザフスタンの社会に対する認識も深まってきた。カザフスタンの一人当たりのGDPは約3000ドルで、発展途上国の中では比較的に豊かな方に属する。アルマティの高級レストランに入ると、若いカザフ人のカップルたちがあちこちで楽しそうにお互いを見つめ合っている。道を歩いていても、すれ違う人たちはみんな幸せそうな笑みを浮かべながら、いっしょに歩く人と話している。日常生活では、みんなが幸せそうにみえるのだが、この国にも問題はある。たとえば、就職難。若年層の失業率は10%以上といわれており、こうした状況が日本語学科の卒業生にも影を落としている。私も、優秀な日本語学科の学生に就労の機会を与えるのにはどうしたらいいのかをずっと考えている。そこで、日本センターでは、今年から「日露通訳講座」を開講することとした。学部卒レベルの優秀な日本語学習者を対象とし、カザフに進出している企業などで一定の需要のある日露通訳を養成する試みである。これは、優秀な日本語学習者のレベルをさらに上げることを目標としているので、私はこれを「日本語学習者の『頭上げ』」と呼ぶことにした。

日本理解者の底上げ

カザフスタンでの日本語教育の現場写真

 一方、日本センターは、一般の社会人が日本語を学習できる唯一の機関である。語学教室はどこもそうであるが、日本センターにおいても、初級レベルの学習者の人数が一番多い。換言すれば、多くの学習者は初級レベルの日本語を学習して日本センターを去ることになる。昼間仕事をしながら、週2回夜日本センターに通ってくるのは学習者たちにとって大きな負担であることはいうまでもない。そこで私は、こうした人たちのために、授業の中に、積極的に日本事情、日本文化の紹介をとりいれることにした。具体的には、学生にNHK衛星放送のニュースを見せる、私が執筆した日本事情についての記事を定期的に読ませる、などを行っている。愛知の万博についてのニュースを見たときには、学生たちは日本の、高度なロボット技術に心底驚いていた。また、カザフでは氷を食べる習慣がないそうで、カキ氷を見て、あんなものを食べて健康を害することはないのか、などという質問が出た。また、日本事情紹介の時間に、日本の平均的家族を、成瀬巳喜男風に、ややモノトナスに描写してみたところ、若い学生たちにはちょっと薬が効きすぎたようで、「先進国の家族関係はこんなに冷たいのか」などという驚きの声が上がった。それぞれが個人主義的に、独立的に行動する日本の家族関係が、相互扶助的な大家族主義が支配的なカザフスタンから見るとショックだったようである。私としては、学生たちが現実の日本の状況について理解を深め、日本に対して特別な親しみを持ってもらうことを目的として、こうした講義を日本語の授業の中に入れることにした。「日本理解者の底上げ」ということである。

カザフスタンの日本語教師

 カザフスタン人の日本語教師はそのほとんどが20代の若い人たちである。日本センターの日本語教育専門家はこうした教員たちから、日本留学や具体的な指導技術などに関連し、さまざまな質問を受ける。院レベルの日本留学に当たっての研究計画の書き方、特定の文型の導入の仕方、「楽しくてためになる」授業の進め方、などである。日本センターは、センターの講座の運営以外に、カザフスタン全体の日本語教育のレベルを向上させる責任も負っている。

アルマティの生活

 アルマティの生活は快適である。地域暖房によってすべてのアパートのすべての部屋にお湯の通っているパイプが設置されているので、冬の厳寒時、外はマイナス20度まで下がっているのに、部屋に入ればぽかぽかとした暖かさで、毛布一枚で気持ちよく寝ることができる。また、春になって、木々に新緑が芽生え、リンゴの白い花やライラックの紫の花が咲き乱れるのを見たときも、厳しい寒さの後だけに大きな喜びを感じた。アルマティの街は美しい自然の中にある。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
JICAにより、市場経済化支援のため2002年9月設置された。日本語コース、ビジネスコース、相互交流が3本柱である。日本語コースは初級から上級まで一般成人を対象として4つのレベルがある。また現役のカザフ人日本語教師を対象としてトレーニングコースが開かれている。こうした学習者を主な対象とし、日本事情、日本文化を紹介する活動を行う。これまで書道、生け花、茶道、武道などの紹介、日本に関する講演などを実施した。本年より日露通訳講座を開講した。
ロ.派遣先機関名称 カザフスタン日本人材開発センター
Japan-Kazakhstan Center for Human Development
ハ.所在地 Kazakhstan Erconomic University
55 Jandosov St., Almaty, Republic of Kazakhstan
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
 
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2002年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年
(ロ)コース種別
一般成人対象
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(邦人0)、非常勤9名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級:168名、中級:56名、上級以上:21名
(2) 学習の主な動機 日本理解、仕事のため、など
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
(5) 日本への留学人数

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