世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 若い力に支えられる大学日本語教育

アル・ファラビ名称カザフ民族大学
久木元 恵

 カザフスタンの旧首都アルマティーは、一年中雪に覆われた天山山脈が見える、緑豊かな街です。「洋の東西のぶつかる場所」という表現がふさわしく、カザフスタン固有のものも残しつつ、中国とロシアなどの周辺国の特色が混じり合った料理や習慣も見られる、とても魅力的な街です。またカザフスタンは天然資源に恵まれていることから、近年日本企業の進出もめざましく、アルマティーを訪れる日本人は増加の一途をたどっています。
 そのアルマティーの中心に位置するカザフ民族大学(以下、民族大)は、1992年の独立直後、カザフスタンで最初に日本語教育を行った機関として、現在も先駆的役割を果たしています。ここでの日本語教育ジュニア専門家の仕事は、学内と学外とで大きく2つに分かれます。

学内:少人数クラスでみっちり勉強!

「皆さん、よく見てください!」の写真
「皆さん、よく見てください!」

 ジュニア専門家は、通常業務として全学年全クラスを週に1コマずつまわり、会話授業を行っています。その他に、カリキュラム編成や教務アドバイス、学内行事の準備などにも関わっています。
 民族大の授業は、ずばり「家庭的雰囲気」です。それは、カザフスタンがカザフ語・ロシア語の二言語併用の多民族国家であることに起因します。民族大も学生の母語により、クラスを編成しています。そのため、5、6人の少人数クラスとなる上、入学から卒業まで4年間持ち上がりクラス。個性的な面々の集まるクラスも、まるで兄弟姉妹のように仲良く勉強。だから、まるで家族なのです。これは語学授業には、とてもいい環境であると言えます。会話練習での恥ずかしさはほとんどなく、みんな積極的に発言し、クラスメイトと助け合う協働学習の場面が日常的に見られます。
 他方、民族大日本語学科の1期生として卒業し、そのまま教壇に立った教師たちは、他国ではまだ若い層に入るかもしれませんが、ここではベテラン教師です。ここ数年では、若手を育てるという気運が芽生え始め、現在、民族大では公開授業や実践研究などの勉強会に取り組み始めました。このようにカザフスタンの大学日本語教育は、現地の先生たちの若い力に支えられていると言えるでしょう。
 一つ問題があるとすれば、慢性的な人材不足という点が挙げられます。特に邦人教師は不足しています。カザフスタンには日本語学習者数は約1,400名と言われていますが、邦人教師数が10名を超えることはありません。これらはひとえに教師の待遇改善が進まないことにあります。この問題が解決されれば、カザフスタンの日本語教育はますます発展し、ひいては両国の友好関係にも寄与できるのではないでしょうか。
 カザフスタンでの日本語教育は、今年でちょうど15年です。これまでジュニア専門家が行ってきたカリキュラム編成などの業務は徐々に現地の先生の手に移りつつあることから、萌芽期は過ぎ発展期に移行したと言えるでしょう。したがって、今後さらにジュニア専門家ができることは何か? ということを模索していかなければならない時期が来たと考えています。

学外:中央アジア日本語弁論大会開催「Almatiga kosh keldeiniz!(アルマティーへようこそ!)」

第11回中央アジア日本語弁論大会の写真
第11回中央アジア日本語弁論大会

 学外では、カザフスタン日本語教師会の活動に参加しています。主な活動は、勉強会と弁論大会の開催です。勉強会は、各大学の教師から実施を望む声があり、やっと実現にこぎつけたところです。弁論大会は、1年で国内大会、中央アジア大会、全CIS大会という3つの大会が催されています。
 2007年4月28日には、第11回中央アジア日本語弁論大会が開催されました。この大会は、中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタン、キルギスそしてタジキスタンの学習者が参加しており、開催国は毎年持ち回りとなっています。2007年の今年は、カザフスタンが開催の年。年明けから教師会一同、わくわくどきどき各国の皆さんのお迎えの準備に取りかかりました。
 待ちに待った大会当日。弁論の内容は、自らの夢を語る者、「生きる」ことについての問いかけをする者、はたまた自国の社会の悪しき習慣を指摘し、どうしたら改善されるか考える者・・・バラエティーに富み、どれも考えさせるものばかりで、審査は困難を極めました。結果はウズベキスタンの学生さんが優勝、という少々残念なものではありましたが、各国の皆さんの白熱した弁論の様子は、カザフスタンの学習者の大きな刺激と励みになったことは間違いありません。そして翌日実施したグループ活動の市内散策では、学生たちは国を越え、友情を育みました。また、おかげさまで今大会は、たくさんの在カザフスタンの邦人の方々が駆けつけてくださいました。そこで「日本語学習者の日ごろの勉強の成果を見、感動した」という声を多くいただいたことも収穫の一つではないかと思います。
 木々の緑がまぶしく、陽光に綿毛が風に舞う春の日。学生たちとキルギス一行のバスを手を振り見送ったときには、ちょっと寂しかったですが、充足感で胸がいっぱいになりました。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
カザフ民族大学東洋学部日本学科は、カザフスタン国内で最も歴史ある日本語・日本学専門課程である。設置目的は、日本語・日本学研究者及び教師、企業において日本語で業務が行える人材、日本語通訳・翻訳者の育成であり、言語のみならず、歴史や文化などの専門科目にも重点を置いた教育が行われている。卒業生は、日本語教師、日本史教師、日本企業・機関の現地スタッフ等、カザフスタン国内の幅広い分野で活躍している。ジュニア専門家は、日本学科での日本語教授、シラバス作成に対する助言、現地教師への助言・サポートを行う。
ロ.派遣先機関名称 アル・ファラビ名称カザフ民族大学
Kazakh National University named after Al-Farabi
ハ.所在地 Amangeldy St. 61a, Almaty 480121 Republic of Kazakhstan
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋学部日本学科・中国学科、国際関係学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1992年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1995年
(ロ)コース種別
専攻、副専攻、選択必修
(ハ)現地教授スタッフ
常勤12(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻:112名、副専攻:107、選択必修:10名
(2) 学習の主な動機 日系企業への就職希望、日本文化への憧れ
(3) 卒業後の主な進路 大学院進学、日本関係各機関への就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級合格程度
(5) 日本への留学人数 8名程度(私費含む)

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