世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) Almaty-zhastar kolasy:「若者の都市アルマティ」で花開く日本語教育

アル・ファラビ名称カザフ民族大学
久木元 恵

天山山脈を背に建つアル・ファラビ像(民族大キャンパス内)の写真
天山山脈を背に建つアル・ファラビ像
(民族大キャンパス内)

 2008年の今年、カザフスタンは遷都10周年の記念の年です。アルマティからアスタナへの遷都により、政治の中心は新首都へと順調に移行していますが、学問やビジネスの中心は依然旧首都アルマティにあると言っていいでしょう。アルマティは、人口およそ125万人の国内最大の都市でありながら、四季を通じて雪に覆われた天山山脈が街のどこからも臨める美しい街です。
  そして、カザフスタンの人々がカザフ語で「Almaty-zhastar kolasy:若者の都市アルマティ」と呼ぶこの街には、いたるところに大学があり、全国から若者が集まっています。派遣先機関であるアル・ファラビ名称カザフ民族大学(以下、民族大)も「Almaty-zhastar kolasy」に点在する大学の1つです。建学は1934年に遡る由緒ある名門学府であると同時に、1992年の独立直後、カザフスタンで最初に日本語教育を始めた機関でもあります。卒業生は日本企業・機関に勤務する者、日本の大学で研究者の卵として学問を追究する者・・・各方面で日本とカザフスタンの架け橋として、華々しく活躍しています。
  そうした活躍の裏舞台には、カザフ人日本語教師の日々の尽力があります。ジュニア専門家の役割は、そうした先生と学生をサポートしていくことにあります。本レポートでは、カザフスタンでのジュニア専門家の仕事を「学生対象」と「教師対象」とに分け、ご紹介します。

学生対象の業務:大学院設立により専門日本語教育が開始

2年生授業風景 先生の話に興味津々の写真
2年生授業風景 先生の話に興味津々

 ジュニア専門家は通常業務として、全クラスに週に1コマずつ入り、日本語授業を行っています。学部1年生から4年生までは会話授業を行っています。カザフスタンはカザフ語を国語、ロシア語を公用語としていることから、都市の人々はほとんどがバイリンガル。そのせいか、外国語を話す恥ずかしさがなく、どの学生も積極的に発言します。また、2007年9月には大学院修士課程が開設され、第1期生として5名が入学しました。試行錯誤の1年目は、研究方法の習得を目標に授業を行ってきました。次年度はいよいよ修士論文執筆に向けた作業が開始し、2009年夏にはカザフスタンで最初の日本語関連の修士論文が誕生します。
  授業以外では、日本語弁論大会の指導を行っています。カザフ人は口を揃えて「人前でスピーチをすることが苦手!」と言い、悲しいことに大会成績は中央アジア(ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン)の4か国の中では強豪とは言い難い状況が長年続いてきました。ところが、2008年5月に開催された中央アジア弁論大会(於・キルギス)では、何と民族大の学生が悲願の優勝を果たしたのです。これは大きなニュースとして伝わり、カザフスタンの日本語関係者の間では阪神タイガースの優勝を思わせるようなお祝いムードに包まれました。
  また、日本大使館およびカザフスタン日本人材開発センター(以下、日本センター)主催の文化行事をきかっけに、機関を超えて盛り上がっているのが「よさこいソーラン」です。「よさこいソーラン」は、カザフ人のダンス好きに見事はまったようで、夢中になる若者が続出。1度も海を見たことのない草原の国の学習者が、大漁を祈願する歌詞と日本人にはおなじみのあのメロディーに合わせ、鳴子(なるこ)を鳴らし「どっこいしょ! どっこいしょ!」。「よさこいソーラン」がカザフスタンの名物になる日はもうすぐです。

教師対象の業務:「カザフスタン日本語教育ワークショップ」の取り組み

 2007年9月からカザフスタンの日本語教師を対象に日本センター所属の久野日本語教育専門家と共同で「カザフスタン日本語教育ワークショップ」に取り掛かりました。「カザフスタン日本語教育ワークショップ」とは、月に1度日本語教師を対象に、四技能の教え方、教材分析、クラスコントロールなどをテーマに実施する勉強会です。教授経験が浅い参加者が多いことから、セッションの中で一方向型のレクチャーの時間も設けています。しかしながら、基本は双方向型のワークショップを採用し、内省とインターアクションを通した他者からの学び、協働学習を促すことを主軸としています。この形式は、レクチャーに慣れた参加者にとって、当初は戸惑いが見られたものの、後半は意見を出し合うようになりました。また、授業の合間にも本ワークショップで取り上げられたことが話題になったり、それを自分の授業に取り入れたといった声が聞かれたりするまでになりました。
  この取り組みは、始めてからまだ1年しか経っていないことから、明確な効果は出ていませんが、大切なことは、今後も継続すること。そして、いずれはカザフ人日本語教師が主体となって実施していくことの2つです。本ワークショップがカザフスタンの日本語教育の自立化の一助となればと考えています。

 2006年は小泉前首相のカザフスタン来訪、2008年の今年はナザルバエフ大統領の訪日もあり、両国の関係は年々緊密になっています。「地理的にも心的にも遠い国」と言われた関係は卒業し、今後は日本語学習者が活躍できる舞台も広がりを見せていくでしょう。我々はその裏方として、何をしていくべきか自問しながら日々活動しています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
カザフ民族大学東洋学部日本学科は、カザフスタン国内で最も歴史ある日本語・日本学専門課程である。設置目的は、日本語・日本学研究者及び教師、企業において日本語で業務が行える人材、日本語通訳・翻訳者の育成であり、言語のみならず、歴史や文化などの専門科目にも重点を置いた教育が行われている。卒業生は、日本語教師、日本史教師、日本企業・機関の現地スタッフ等、カザフスタン国内の幅広い分野で活躍している。ジュニア専門家は、日本学科での日本語教授、シラバス作成に対する助言、現地教師への助言・サポートを行う。
ロ.派遣先機関名称 アル・ファラビ名称カザフ民族大学
Kazakh National University named after Al-Farabi
ハ.所在地 Amangeldy St. 61a, Almaty 480121 Republic of Kazakhstan
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋学部日本学科、国際関係学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1992年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1995年
(ロ)コース種別
専攻、副専攻、選択必修
(ハ)現地教授スタッフ
常勤15名(うち邦人1名:ジュニア専門家)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻:102名、副専攻:107、選択必修:10名
(2) 学習の主な動機 日系企業への就職希望、日本文化への憧れ
(3) 卒業後の主な進路 大学院進学、日本関係各機関への就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級合格程度
(5) 日本への留学人数 10名程度(私費込)

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