世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 学生が社会に出ていく前に

カザフ国立大学
因 麻衣子

 日本人には、「カザフスタン」という国についてあまり知らない人が多いようです。どこにあるかご存知ですか。ぜひ、地図を開いて場所を確かめてみてください。ユーラシア大陸の真ん中に広がる大きな国であることに驚かれるのではないでしょうか。また、広い国土の地下に眠る資源の豊かさは世界有数で、これからの経済発展が注目されている国です。そういう国で毎日日本語の勉強に励む若者たちがいます。

どうして日本語を勉強するの? 

 私が教えているカザフ国立大学日本学科は、日本語や日本の歴史を専門として勉強する学生が在籍しています。どうして、彼らは「日本」を選んだのでしょうか。

 カザフスタンで、「日本」は近くて遠い国だと言われています。カザフ人と日本人は顔立ちなどがとても似ていて、私もよくカザフ人に間違われるぐらいです。そのため、カザフ人は日本人に親近感を持っているようですが、彼らにとって「日本」は距離も存在自体も遠い国です。

 上述したように、日本人の多くは「カザフスタン」という国をよく知りませんし、また、観光地も少ないため、日本人観光客もあまり来ないようです。私が住んでいるアルマティという街に住んでいる日本人は60人ぐらいで、そのほとんどがビジネスマンです。ですから、街で日本人の姿を見かけることはほとんどありませんし、カザフ人も日本人のことをあまり知りません。

アルマティ在留邦人との交流会においての写真
アルマティ在留邦人との交流会において

 このような環境の中で、大学の専門という一つの人生の選択において、「日本」を選ぶ学生たちがいます。最近では、日本のアニメや漫画などのポップカルチャーに魅かれて入学する学生も多いですが、大学の専門ですので、やはり卒業後は日本の企業や日本語通訳など日本関係の仕事に就くことを希望する学生が多いです。しかし、日系企業がまだ少ないこともあり、なかなか希望の仕事に就ける学生は少ないです。そのような中、少しでも希望の職種で活躍できる卒業生を増やしたい、と考えています。

日本に関係する仕事がしたい!!

 なぜ、学生は日本関係の仕事に就けないのでしょうか。①そもそも日系企業が少ない。②企業は日本語ができる学生を求めていない(英語とロシア語ができればいい)。②はこちらの日系企業の方から何度も聞きました。しかし、②は裏を返せば、仕事で使えるほどの日本語能力を持っていない、ということです。カザフ国立大学では毎年、4年生の企業実習があり、私たちの学科からも優秀な学生は日系企業に実習に行きます。しかし、実習日誌がきちんと書けない、基本的なビジネススキルが足りない、というような指摘を受けてきました。

 そこで、そのような反省点を踏まえて、2012年度は企業実習のための準備コースを作ることにしました。仕事で使うための日本語スキルを伸ばすことだけではなく、「働く」ということはそもそもどのようなことなのか、カザフ人と日本人との意識の違いなども授業で取り上げました。例えば、カザフ人は日本=技術国と思っていますが、いまの日本が技術大国になったのは、もの作りに必死に取り組んだ人たちがいたから、ということを知ってほしくて、『プロジェクトX』を見せ、レポートを書かせたりしました。また、日本の企業文化を知ってもらうために「お茶くみ」というタイトルの日本事情のテキストを読んで、ディスカッションしたりしました。こういった企業文化は、日本だけではなく、どこの国にもあるのではないでしょうか。学生は、教室の中からいきなりこのような企業文化の中に放り込まれて、職場の人とコミュニケーションがうまく取れなくなってしまう場合もあります。ですから、準備体操が必要だと思います。

 また、実習日誌の書き方も取り上げました。教室の中で書く「作文」とは全く違います。箇条書きの書き方、情報の取捨選択、また反省点や改善点なども書かなければなりません。

 ほかに、アポイントがきちんと取れない、という指摘も頂いていたので、自分で日本人にメールや電話連絡をして、インタビューをする、という活動をしました。学科に日本人をお呼びして交流会を催すことはありますが、この場合は、教師が日本人に連絡をしています。自分でアポイントを取り、場所を決めて会いに行く、という経験はほとんどなかったため、このような活動を取り入れました。

企業の方に講義して頂きましたの写真
企業の方に講義して頂きました

そして、コースの最後には、実習生の受け入れ経験がある企業の所長に来てもらって、講義をしてもらいました。実習生が会社に来る前に準備すべきこと、企業で働く際に必要なスキルなど、現役の方からお話を聞くと、やはり学生の反応も違っていました。

 このような活動が実を結ぶのは長い時間がかかるかもしれません。しかし、学生たちが日本語を使う仕事に就職できなかったとしても、こういった活動は社会に出た後、必ず役に立つと考えています。私たち大学教師は、学生が社会に出ていくための支援をする役割があると思います。大学は、知識を頭の中に入れるためだけに存在している機関ではないはずです。そして、もちろん日本語能力だけを身に付ければいいとは思いません。彼らが社会に出たとき、少しでもカザフスタンの社会の発展に役立てるような人材になることを願って、今後も活動していきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kazakh National University named after al-Farabi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
カザフ国立大学東洋学部日本学科は、カザフスタン国内で最も歴史ある日本語・日本学専門課程である。設置目的は、日本語・日本学研究者及び教師、企業において日本語で業務が行える人材、日本語通訳・翻訳者の育成であり、言語のみならず、歴史や文化などの専門科目にも重点を置いた教育が行われている。卒業生は、日本語教師、日本史教師、日本企業・機関の現地スタッフ等、カザフスタン国内の幅広い分野で活躍している。専門家は、日本学科での日本語教授、シラバス作成に対する助言、現地教師への助言・サポートを行う。
所在地 95a Karasai-batyr str., Almaty, 050012, Republic of Kazakhstan
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋学部韓国日本学科(主専攻)・国際関係学部(副専攻)
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   主専攻:1992年~
国際交流基金からの派遣開始年 1995年
コース種別
専攻(日本学科)・副専攻(国際関係学部)
現地教授スタッフ
主専攻:常勤11名(うち邦人0名)副専攻:常勤1名(邦人0名)
学生の履修状況
履修者の内訳   主専攻:87名(1~4年生、修士課程)
副専攻: 30名
学習の主な動機 日本文化への関心と、日本留学や日系企業就職の希望
卒業後の主な進路 日本留学、日本国大使館や日系企業、ほか現地企業等への就職
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2~N3合格程度
日本への留学人数 1年間6~7名程度

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