世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語学習者のコミュニティづくり 

アル・ファラビ名称カザフ国立大学
大西由美

カザフスタンは中央アジアに位置する世界第9位の面積の広い草原の国です。日本での知名度はあまり高くなく、カザフスタンにおいても在留邦人が約120名と非常に少ないのですが、カザフスタンには日本や日本文化に関心がある人が多くいます。街で出会った人に日本から来たことを告げると、大変驚かれ、歓迎されます。カザフ語と日本語が文法的に近いことを伝えると、ぜひ日本語を勉強してみたいと関心を示す人が多いです。

カザフスタンで日本語を専攻する大学生の多くが、子供のころにアニメや武道などを通じて、日本文化や日本語に興味を持ち、もっと勉強してみたいと、大学の専門として選んでいます。カザフスタンの大学教育では、教育省から専門ごとに必修、選択必修科目が指定され、学年ごとにカリキュラムが決められています。日本の単位制とは大きく異なり、語学も自分のレベルや興味関心に合うクラスに入れるのではなく、1年生から卒業まで、クラスメートと常に同じ授業を受講します。カリキュラムには日本語以外の科目の比重が大きく、日本語授業担当教員は授業内でできうる努力をしていますが、日本語の授業時間数が少なすぎ、なかなか目標が達成できません。授業時間の少なさを補うべく、課題を多くする必要があり、学生は日々の宿題に追われています。

カザフスタンは日本との経済的・人的交流がまだまだ少なく、日本語学習の「孤立環境」と呼ばれる地域です。日本国内や、日本との交流が多い地域では授業で習った日本語をすぐに使って、「できた!」という実感が得やすく、動機も高まります。反対に「孤立環境」で授業以外で使う機会がないと、このような自己効力感は得にくくなります。そのため、「孤立環境」では、教科書で学ぶだけではなく、日本語や日本文化に触れること、日本語を用いた交流の機会を作ることが大きな学習者支援になると考えられます。ここでは、それらの取り組みをご紹介します。

日本語交流室開室

日本の大学と異なり、カザフスタンでは部活やサークルがありません。学生は授業があるときだけ大学に来て、授業が終わるとすぐに帰宅してしまいます。カザフ国立大の日本語講座があるキャンパスには学生が気軽に利用できるスペースがないからです。

勉強したり、日本人留学生とおしゃべりをしたり、好きなマンガを読んだり… そのような部屋が作れないか日本語講座で話し合い、主に授業を行う教室として使われていた筑波大学アルマティオフィスを「日本語交流室」として使わせていただくことになりました。

交流室では、カレーライスやたこ焼きなどの料理教室を開いたり、書道教室も行いました。日本人留学生が指南役として参加してくれ、学生たちはおしゃべりを楽しみながら作っていました。

ここでは、教師に質問するよりも先に、学生同士や、学生が日本人留学生に、後輩が先輩に、質問することが多く見られます。質問すること、教えることでより知識を深める学び合いの場となっています。

また、日本語に関心のある高校生を招待したサマーコースでは、学生が講師役になって高校生に留学生活についてのプレゼンテーションや折り紙指導をしてくれました。このように、学習者が受け手としてではなく、主体となって活動できる場として、交流室が活用されています。

高校生サマーコースでの折り紙指導の様子画像
高校生サマーコースでの折り紙

大学行事の関係で開室できない日もありますが、今後はもっと開室時間を長くし、学生の要望を受けて、様々な活動を取り入れたいと考えています。

Facebookコミュニティ開設

カザフスタンの日本語学習者の交流の場として、「カザフスタン日本語コミュニティ」 https://www.facebook.com/groups/kazjpcommunity/を、2016年4月に開設しました。1年で登録者は260名を超え、今後もさらに発展することを願っています。

KJCのビジターセッション、料理体験にもこのコミュニティ参加者の在留邦人が複数参加してくださいました。現在は、日本人からの投稿が多い状況ですが、これからは学習者も投稿しやすいように呼び掛けていきたいと考えています。

日本語教師会会報創刊

日本語教育について、在留邦人からよく「どんな人たちが日本語を勉強しているの?」「どうやって勉強をしているの?」とご質問をいただきます。カザフスタンの日本語教育について広く伝えよう、そして学習者の日本語で表現する機会を作ろうと、日本語教師会で会報を創刊することになりました。弁論大会の入賞者や、日本での留学、研修プログラム参加者から感想を募集しています。また、日本人会、日本人留学生からもカザフスタンでの生活についてご寄稿いただき、学習者にとっても読む楽しみとなっています。

会報は年3回の発行を目指しています。こちらhttps://goo.gl/pFrp1fから最新号までご覧いただけます。

会長挨拶の掲載されたカザフスタン日本語教師会 News Letter 創刊号紙面の画像
教師会会報創刊号の会長挨拶

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Al-Farabi Kazakh National University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
カザフ国立大学東洋学部極東学科日本語講座は、カザフスタン国内で最も歴史ある日本語・日本学専門課程である。設置目的は、日本語・日本学研究者及び教師、企業において日本語で業務が行える人材、日本語通訳・翻訳者の育成であり、言語のみならず、歴史や文化などの専門科目にも重点を置いた教育が行われている。日本語専門家は、学習者の日本語能力向上及び現地講師への日本語教育の質の向上に対する支援を行う。また、学習者を増やすため、学校訪問、日本文化紹介などの広報活動も行う。
所在地 95a Karasai-batyr str., Almaty, 050012, Republic of Kazakhstan
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋学部極東学科日本語講座
日本語講座の概要
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