世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) どうして、キルギスで日本語教育? =人材育成と相互理解=

キルギス共和国日本人材開発センター
黒滝 力

もみじ祭り(秋の交流文化祭)参加者と記念写真の写真
もみじ祭り(秋の交流文化祭)参加者と記念写真

 キルギスは春が短く、先週まで外套を着ていたかと思うと、今日には照りつける日差しに眉をひそめるほどになる。秋も同様で、日が短くなり始めるころには急に寒くなる。とはいえ、季節の変化があるというのは日本人にとっては過ごしやすい。

 首都ビシケクは緑豊かで、キルギス日本人材開発センターも大学の一角のそんな深い緑の中にある。このセンターは10年前の1995年に日本の外務省支援委員会によって開設され、2003年外務省からJICA国際協力機構に移管された。ステータスとしては現地法人だが、運営はJICAプロジェクトによっている。このセンターの主たる活動は市場経済化に資する人材の育成、日本語教育、相互理解促進活動で、同様の目的を持った「日本センター」がJICAプロジェクトにより、カザフスタン、ウズベキスタン、モンゴル、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーなどに開設されている。

 さて、業務について筆者の契約書の付属書「業務の内容」というのを見ると「日本語コースの企画・運営・管理を行い、キルギスの日本語教育の向上に努める」となっている。主たる業務としては、やはり一般人向けの日本語コースの設計・運営ということになる。このセンターの日本語コースは一般コースが初級I、初級II、中級I、中級II各1年で修了、4年間で中級修了レベルの日本語を習得する。これとは別に既に4年のコースを終えた者や、大学で同等レベルの課程を修了した者に対して上級クラスを設置している。また、3ヶ月の短期講座を設け、基礎的な日本語会話と日本紹介を行っている。2005年からは通訳講座、観光ガイド講座等特化したクラスや、目的別クラスなどを設置していく予定。

 ところが、この主たる業務である日本語講座運営にかかる時間、労力等は全体業務の二、三割に過ぎない。首都及び地方の大学等日本語教育機関支援、日本語教育ネットワーク促進のためのキルギス日本語教師会の活動促進と活性化、各機関の現地講師・邦人講師への協力、助言、支援、指導、日本への研修・留学についての機関・個人に対する支援・補助、現地政府関係諸機関への日本語教育の広報活動、日本語弁論大会実施運営、学習発表会実施、周辺諸国との連携・連絡等。また、現地のニーズを調査し、国際交流基金、日本外務省、JICA等の各機関との連携の中で支援の方策を立ていくことも重要な仕事の一つである。この他、教師や学生に対する精神的フォロー、カウンセリング、不適応者(日本人)への対応等も行っている。

 中央アジアの他の国の日本語教育の問題点の一つとして挙がるのが「せっかく日本語を身につけても、それを活かせる仕事がない」ということである。「だから、ニーズの創出が必要だ」と声高に言う日本語関係者もいる。たしかに、もっともなことではあるが、本末転倒の感が否めない。日本語教育の目的が実利のみであるならば、そして、そこに日本語教育が実利に結びつく機会がないのであれば、日本語教育などやめてしまえばいい。ただ、本来需要としてあるべきものが、社会的インフラが未整備のため、ニーズとして表出していないというのであれば、インフラ整備と並行させてニーズの発掘は行われるべきであろう。キルギスでも日本などによる観光開発プロジェクトが進められており、それと並行させて当センターでも通訳養成講座や、観光ガイド養成講座が開設される予定である。

 ただ、忘れてはならないのはもっと広く、大きな視野で日本語教育の意味を捉えることである。言葉を学ぶということは異文化と交わることであり、他の国・地域の習慣やメンタリティを理解し、その空気に身を曝すことなのだ。それは人間そのものを豊かにする。またそれは、キルギス、日本両国の相互理解を促進し、ひいては世界平和に繋がる重要な意味を持つと信じている。

 そういった信条もあり、センターの活動のもう一つの柱である「相互理解促進活動」にも力を入れている。年に2回のキルギス日本友好文化祭の実施、和太鼓、書道、折り紙等の文化サークルの運営補助等を行い、また、今は30年来続けている軽音楽活動の経験を活かし、和太鼓演奏の指導にも当たっている。また、今年からは「地方展開」として、これらの相互理解促進活動を地方都市、村落等を巡回し行うことも企画している。

 以上の活動についてはもちろん専門家一人では対応できない。現地人、在留邦人等多くの協力者があって成果が上げられる。そして、将来的にはそのほとんどの活動について、日本センター現地スタッフ、キルギス日本語教師会等現地の人々に技術移転し、活動そのものを現地の人々が主体的に推進するようになる方向で、支援・協力を進めていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1995年に外務省支援委員会により創設され、2003年JICAに移管されたJICA日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進活動を活動の主眼としている。日本語教育については一般人対象の日本語講座の運営とともに、国内の日本語教育機関、日本語教育関係者、日本語学習者に対する支援・協力を行いキルギス全体の日本語教育の向上に努めている。
ロ.派遣先機関名称 キルギス共和国日本人材開発センター
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
ハ.所在地 KNU, 2nd Floor, Building 7, 109 Turusbekov str.,
Bishkek 720033, Kyrgyz Republic
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家 1名

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