世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 今、キルギスで日本語が熱い!

キルギス共和国日本人材開発センター
尾崎裕子

2007年春キルギス日本語弁論大会の写真
2007年春キルギス日本語弁論大会

 3月17日、キルギスの首都ビシュケクにあるキルギス民族大学で2007年春季キルギス共和国日本語弁論大会が開かれました。200人近い観客で満杯の会場には熱気があふれ、ビシュケクの4機関、地方の2機関から出場した14人の弁士が、流暢な日本語でキルギスの社会問題や若者の生き方などについて力の入ったスピーチを披露。また、スピーチだけでなく、司会進行やアトラクションの歌や踊りの出し物、裏方も、キルギス人日本語教師、日本語学習者が力を合わせて準備し、立派に大会運営をしていることにも驚かされました。2月に赴任したばかりの私にとって、これがキルギスでの日本語学習熱の高さを肌で感じる始めての経験でした。

 キルギスは日本ではあまりなじみがなく、「キルギス」と聞いても、ピンと来ない方も多いでしょう。天山山脈を挟んで中国の西に位置する、中央アジアの人口520万のこの小さな国で、日本や日本文化に高い関心を持ち、熱心に日本語の勉強に取り組んでいる人達が大勢いることは日本ではほとんど知られていません。現在キルギスでは、1000人以上が大学や学校などの教育機関で日本語を学んでいます。人口全体に占める日本語学習者数の割合で見ると、キルギスでは5,000人に1人が日本語学習者ということになり、隣国のカザフスタンやウズベキスタンの15,000人に1人という数字と比べて、キルギスの日本語学習者人口の多さがわかります。

 「なぜ、キルギスで、こんなに日本語が人気があるの?」というのはだれもが持つ素朴な疑問ですが、これに対するはっきりした答えは見つかりません。キルギスには日本企業もなく、在留邦人も60人以下、日本人も日本のモノもほとんど目にすることのないこの国で日本語がこれほど盛んに学ばれているというのは不思議にすら思えます。実は、このキルギスでの日本語学習熱を支える大きな力になっているのが、キルギス共和国日本人材開発センター(以下「日本センター」と記述)の存在です。

 日本センターは1995年に設立されました。キルギスで日本語教育が始まったのは1991年のソ連崩壊以後のことで、大学の講座で正規の日本語教育が始まったのは90年代の半ば以降のこと。同時期に日本センターが設立され、一般向け日本語講座が開始。以来、日本センターは大学と並ぶキルギスの日本語教育の重要拠点として、この地での日本語教育の普及と発展に大きな役割を果たしてきました。

日本センター日本語初級Iクラスの写真
日本センター日本語初級Iクラス

 現在日本センターの日本語講座には12人の教職員(キルギス人講師7人、日本人講師4人、教務スタッフ1人)がおり、150人余りの学習者が初級I、初級II、中級I、中級II、ビデオコース(日本文化紹介と日本語入門の講座)、上級講座の各講座で日本語を学んでいます。この講座の運営を統括するのが基金派遣専門家の仕事です。日本センターの日本語講師の多くが20代~30代初めの若手教師で、教授経験も比較的浅い人が多く、この現地講師陣を指導し、日本語教授能力を向上させることも、専門家に課せられた責務です。

 日本語講座の責任者として、日本センターの講座をより質の高い魅力ある内容にするために、まず講座の現状を把握し、学習者のニーズ、カリキュラム、教授法、学習到達度などを再検討し、講座の問題点、課題を洗い出し、同僚の先生方といっしょに改善策を考え、できることからひとつひとつ実行していくという作業を行っています。

 また、講師陣のスキルアップを図るために、授業準備の段階で授業活動案や教授項目の教え方、語彙・表現の用法の説明などについての質問・相談に応え、アドバイスをしたり、小テストや試験問題の作り方や口答試験の評価法などについても指導したりしています。

 日本センターの日本語講座の業務以外にも、基金派遣専門家にはキルギスの日本語教育全体の支援も求められており、今後は地方にも出張して、ビシュケクと比べてまだまだ日本語教育環境の厳しい地方で日本語学習に取り組む学習者や現地の教師のためにできるお手伝いをしていくつもりです。

 日本センターは日本語学習の拠点であるだけでなく、日本文化のリソース・センターであり、日本文化の発信基地でもあります。日本センターが主催するこれらの行事やサークル活動には、日本センター内外の日本語学習者が積極的に参加しており、いわば彼ら日本語学習者がキルギスと日本の文化交流を中心的に担う役割を果たしています。

 5月12日には日本センターの春の祭り「さつき祭り」が行われましたが、この祭りでも、多くの日本語教師、学習者が参加・協力してくれました。日本語講座からも今回初めて子ども向けの日本語を使った遊びの体験コーナーを企画しました。ビシュケクの2つの学校から6年生と7年生の生徒が参加し、「こぶたぬきつね」の歌やじゃんけんを使った自己紹介ゲームや数字を使ったゲームなど、日本語を使った日本の遊びを楽しそうに体験していました。これらの生徒の中から、もしかしたら将来大学や日本センターで日本語を勉強したいと思う人が出てくるかもしれません。

 キルギスでの日本語熱はまだまだ続きそうです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1995年に外務省支援委員会(とキルギス民族大学)により設立され、2003年JICAに移管されたJICA日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語教育については一般人対象の日本語講座の運営とともに、キルギス国内の日本語教育機関、日本語教育関係者、日本語学習者に対する支援・協力を行い、キルギス全体の日本語教育の発展に努めている。  
ロ.派遣先機関名称 キルギス共和国日本人材開発センター
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
ハ.所在地 KNU, 2nd Floor, Building7, 109Turusbekov St., Bishkek
720033, Kyrgyz Republic
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名、日本語教育指導助手:1名

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