世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) キルギスに結んだ中央アジア日本語教育の輪

キルギス共和国日本人材開発センター
尾崎裕子

2008年中央アジア日本語教育セミナーの写真
2008年中央アジア
日本語教育セミナー

 キルギスは中国の西部に位置する中央アジアの小さな国です。人口520万のこの国で日本語を熱心に勉強している人が大勢いることはあまり知られていません。中央アジアでは総じて日本語熱は高いのですが、中でもキルギスは日本語好き、日本びいきの人達が多い国です。

 キルギスには1000人あまりの日本語学習者がいますが、毎年春と秋に行われている日本語弁論大会にはいつもたくさんの観客がつめかけ、会場は熱気にあふれます。そんなキルギスで今年日本語のとても大きなイベントが行われました。中央アジア日本語弁論大会と中央アジア日本語教育セミナーです。

 弁論大会は中央アジアの日本語学習者が集まって日頃の学習の成果を広く聴衆に発表する晴れの舞台であり、セミナーは年に一度の中央アジアの日本語教師のスキルアップと相互交流の場です。毎年ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスの3カ国が持ち回りで同時開催している二つのイベントですが、第12回目となる今年はキルギスの担当にあたり、ビシケクで開催されたのです。

2008年中央アジア日本語弁論大会の写真
2008年中央アジア日本語弁論大会

 弁論大会には上記3カ国にタジキスタンを加え、4カ国から計20人の出場者が参加しました。結果は、「Made in Kazakhstan」という題で、地下資源で経済急成長は遂げたものの、外国からの輸入に頼り、自国の産業が育っていないカザフスタンの現状について問題提起をしたカザフスタンからの参加者が優勝、2位はソ連崩壊後、ロシアや中央アジアで広がっている人種偏見と偏狭な民族意識の問題を取り上げたキルギスからの参加者、3位は結婚式に莫大な費用をかけるウズベキスタンの習慣についてユーモアと風刺の効いたスピーチをしたウズベキスタンからの参加者が入賞しましたが、各国いずれも厳しい国内大会を勝ち抜いてきた精鋭揃いで甲乙つけがたく、審査員泣かせのハイレベルの戦いでした。

 筆者は昨年に続いて審査員としてこの大会に参加しましたが、各国代表のスピーチにじっと耳を傾けていると、この中央アジア地域が抱える様々な社会問題やそこで暮らす人々の習慣やものの考え方について、学習者が自分の目で見、身近に体験したことから生まれた思いを自分の言葉で表現したいという一人ひとりの熱い気持ちがこちらにも伝わってきました。わずか2時間足らずのスピーチ発表の間に中央アジアという地域で暮らす人々の「今」について、ここで日本語を学んでいる若者達の悩みや希望について、じつに多くのことを知らされ、考えさせられました。

 弁論大会に先立って、前日には第12回中央アジア日本語教育セミナーが行われました。日本から山口大学の今井新悟准教授を招聘講師に迎え、筆者も「中級の教え方」のセッションを担当して、29名がいっしょに研修を行いました。今井講師のセッションでは「論理的な文章の書き方」と「テスト・クイズの作り方」についてワークショップ形式で参加者が課題をこなしながら、「脱起承転結」の論理的な明快な日本語の書き方を学び、実際に聴解テストを作ったりしました。

 日頃授業や準備に追われてなかなか勉強の時間が取れないこの地域の日本語教師にとって、今回のようなセミナーは貴重な自己研鑽の機会です。参加者はみな真剣な表情で課題に取り組み、また他の国や他機関の教師との協働を楽しみながらワークショップの作業を進めている様子でした。タジキスタンから初めてこのセミナーに参加した先生も「とてもよかった。またぜひ参加したい。」と話してくれ、「ぜひ来年はタジキスタンで弁論大会をやりたい」と意欲を語ってくれました。タジキスタンは2007年にはじめて中央アジア弁論大会と日本語セミナーに学生と教師が参加したのですが、その後日本人教師がいなくなったこともあり、今回の参加もどうなるかと大会関係者の間では心配されていました。それだけに、今後タジキスタンもレギュラーメンバーとして、中央アジア弁論大会を4カ国持ち回りの運営体制にする可能性も出てきたのは大きな前進でした。今回は参加できませんでしたが、最近日本語教育が始まったトゥルクメニスタンも今後仲間に加わりそうです。

 筆者は2007年2月からキルギス共和国日本人材開発センターで日本語講座の運営全般にあたるとともに、センターで教えている現地の先生に対して日々の授業への助言や指導をしたり、日本語教育を行っている他の機関を訪問して先生にアドバイスをしたり、教師会主催の教授法コースで講義をしたりして、現地の教師の技術と資質のレベルアップのお手伝いをしています。また、隣国の日本語教育専門家に協力して、セミナーの出張講義も行ったりしています。

 キルギスの熱心な学習者と熱心な先生に心励まされながら、今年ビシケクに結んだ中央アジアの日本語教育の輪をさらに大きく強くするために筆者はこれからも全力でがんばります。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け 1995年に支援委員会により設立され、2003年JICAに移管されたJICA日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語教育については一般人対象の日本語講座の運営とともに、キルギス国内の日本語教育機関、日本語教育関係者、日本語学習者に対する支援・協力を行い、キルギス全体の日本語教育の発展に努めている。  
ロ.派遣先機関名称 キルギス共和国日本人材開発センター
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
ハ.所在地 KNU, 2nd Floor, Building7, 109Turusbekov St., Bishkek
720033, Kyrgyz Republic
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家1名、指導助手1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 2003年

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