世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)キルギスの高原を吹く風のように、飛び去っていく日々

キルギス共和国日本人材開発センター
山口 紀子

キルギスで日本語?「コンニチハ!」毎朝アパートを出る時、守衛さんと交わす挨拶です。1階にあるスーパーに寄ると、そこでも店員さんが「コンニチハ」と迎えてくれます。キルギスは親日国の多い中央アジアの中でも日本語学習者率が特に高い国。ちょっとだけでも日本語をかじったことがあるという人はかなりの数に上るでしょう。

キルギス共和国日本人材開発センター(以下、センター)は1995年の開所当初から、一般成人向けの日本語講座を設置しています。現在、所属学習者数ではキルギス最大の日本語教育機関となりました。2013年8月からはJFスタンダードを核とした全コースのカリキュラムの再編成を行い、日本語と日本事情・文化を楽しく学ぶ入門者向けのクラスもできました。キルギスには日本語を使って働く場はあまりありませんが、学習者の学習動機をみてみると、日本や日本語そのものへの興味からセンターに入ってくる人が多く、また近年は特に小中学生向けのコース開設の要請や、日本語を使って何かしたい!というような多様な要望が寄せられるようになりました。そうしたニーズに応え、今年度はジュニア向けの4ステップコースやパワーポイントプレゼンテーションで発表&ディスカッションをする隔月の企画を実現しました。センターの受講生以外にも参加希望者が多く、初めての日本語入力、初めてのパワーポイントに苦労しながらも力作を発表してくれています。


授業の様子
日本語でプレゼンテーションに挑戦中

センターでの日本語専門家(以下、専門家)は「教頭先生」のような仕事です。教務もすれば経理も見る、というように日本語講座全体の運営を管理します。新コースを立ち上げる場合、全何時間にするか、カリキュラムはどうするか、教材の選定、教員と教室の確保、受講料の設定、人件費の試算、広告の作成、受講生の獲得など準備することがたくさんありますが、これらを頼もしい2人の専任講師とともに解決していきます。 またセンターには若手からベテランまで5人の非常勤講師がおり、毎日2~5クラスの授業が開講されていますが、今年は特に新カリキュラム導入のため、授業の全教案をチェックしてコンサルティングをするのも専門家の日課となりました。講座運営には山のような事務仕事もつきもので、たった3人の常勤では手が回らない…と思うことはほとんど毎日ですが、非常勤の先生方の協力もあって何とか乗り切れています。

キルギス全体の日本語教育支援への貢献も大いに期待されています。キルギスには1999年に日本語教師会が設立され、現在37名の会員が所属しています。教師会は国内弁論大会や日本語能力試験、教育セミナーや作文コンテストといった様々な企画を主催しています。大きな企画の前には6-7名の実行委員会が組織され、毎週会議を開いて実施準備をしますが、話し合いは2時間から3時間に及ぶことも稀ではありません。年間通してイベントが多い教師会ですが、そんな企画の全てに全体の運営進行管理として関わるのが専門家です。今年5月には3年に一度回ってくる、中央アジア日本語弁論大会と日本語教育セミナーの開催国になりました。中央アジア5か国の弁論発表者や引率教師、日本からの講師を「キルギス・ホスピタリティーをもってお迎えする」をモットーに教師会員総出で準備、運営した大会には各国参加者から満足と感謝の声が寄せられました。


第18回中央アジア日本語弁論大会の様子の写真
第18回中央アジア日本語弁論大会の様子

教師一人一人が自身に任された仕事を責任を持って果たしたことがこの評価につながったと思います。欲を言えば、任された仕事だけでなく、全体を把握して進行管理できる指導者的教師が育ってほしい。そのためにこれから何をすべきか、風のように過ぎ行く毎日の中で考え続けています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 キルギス共和国日本人材開発センター
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年JICAに移管された国際協力機構(JICA)日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語講座は2013年8月より国際交流基金との共催事業となり、JFスタンダードを核としたカリキュラムによる日本語コースを提供している。日本語専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス全体の日本語教育に対する支援・協力を行う。
所在地 KNU Building7, Turusbekov St.109, Bishkek 720033, Kyrgyz Republic
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年
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