世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)標高800メートルで「こんにちは!」

キルギス共和国日本人材開発センター
宗像みなみ

キルギス共和国は中央アジアに位置し、約600万人の人口と日本の半分ほどの面積を有する山国です。キルギス語が国語、ロシア語が公用語とされており、首都であるビシケクでは、ふたつの言語を織り交ぜながら雑談を交わす人々の姿がよく見られます。

キルギスで私が日本人だとわかると、空港の入管審査官、売店の店員、タクシーの運転手など様々な人が、「日本語であいさつはどのように言うの?」、「この車は日本製なんだよ」と気さくに語りかけてくれます。日本で考えられている以上に、キルギスの人たちは日本を身近に感じてくれているようです。そんなキルギスでの日本語教育事情について、少しご紹介したいと思います。キルギスにおける日本語学習者数は、把握できる範囲だけでも1,000名前後。日本まで片道丸1日もかかる遊牧民の小さな国で、この数字は決して少なくありません。

キルギス共和国日本人材開発センター 日本語講座

筆者の配属先は、キルギス共和国日本人材開発センター(以下、センター)です。ビジネスコース、日本語コース、相互理解促進事業の3つの事業が柱となっています。

センターでは、年に2回日本語コースを運営しています。『まるごと-日本のことばと文化-』シリーズを用いた、入門から中級2までの6~7クラスがコースのメインですが、2017年2月からは中級2レベル以上の受講生を対象に中上級コースも実施しています。高校生から社会人、さらにはすでに仕事を引退した方と、多様な背景の人びとがセンターで日本語を学んでいます。学習のきっかけも、「小さい頃から日本のアニメが好きだった」、「日本の技術に興味がある」、「日本に留学がしたい」と様々。一つのクラスは5名~30名程度、全体的に大規模な日本語コースとはいえませんが、少人数だけに受講生ひとりひとりの発言も多く、笑顔の絶えないクラスばかりです。センターではコース実施のほかにも、巻き寿司づくりを通したクラス間交流、日本語カラオケ大会、書き初め大会、日本語でプレゼンテーション会やビシケク市内学校訪問など、様々な試みを実施しています。

まるごと入門クラスのグループ会話。学んだばかりのことばを紡ぎますの画像
まるごと入門クラスのグループ会話。学んだばかりのことばを紡ぎます

キルギス共和国日本語教師会

各機関の日本語教師43名(2017年5月時点)が参加している、「キルギス共和国日本語教師会」(以下、教師会)も、当地の日本語関連活動には欠かせません。

教師会は1999年に発足して以来、キルギスの日本語教育に大きく貢献してきました。現時点の主な活動内容は、日本語弁論大会の企画運営、日本語能力試験(以下、JLPT)の実施、年2~3回の教師会会報の発行、地方への出張授業などです。特に弁論大会とJLPTは、日本から遠いこの国で、学習者にとって「力試し」の貴重な機会となっているようです。

第21回中央アジア日本語弁論大会・中央アジア日本語教育セミナー

2017年4月29日、キルギスにおいて第21回中央アジア日本語弁論大会が実施されました。キルギスの他、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの全5ヵ国から、計17名の学習者が出場しました。弁論のレベルは全体的に非常に高く、来場者を驚かせました。

翌日の30日には中央アジア日本語教育セミナーが実施されました。ウズベキスタンおよびカザフスタン専門家による、動機づけに関するレクチャー・ワークショップのほか、中央アジア全体の実践報告や研究発表が行われました。

企画段階から運営を担った実行委員会のメンバー、運営にあたって多くの支援をしてくださった各機関、出場者・引率教師・応援者のみなさまには、感謝の念に堪えません。

第21回中央アジア日本語教育セミナーで。タジキスタン日本語教師会立ち上げについての発表の様子の画像
第21回中央アジア日本語教育セミナーで。
タジキスタン日本語教師会立ち上げについての発表の様子

日本語専門家の課題として

近年、キルギスの日本語教師の活動範囲は紀要『キルギス日本語教育研究』の発行や、国際セミナーの実施など、研究分野にも広がってきています。日本語専門家には現場と研究、双方の場でイニシアチブを取り、近隣諸国と協力し合って、中央アジア全体の日本語教師を牽引することが求められています。

学習者が活躍できる機会を提供し続けること、JLPT受験者数を増やすこと、教師研修の実施、国内出張、そして国内外の関係機関との連携。取り組まなければならないことは少なくありませんが、任期中にひとりでも多くの先生、学習者のみなさんのお役に立てるよう、力を尽くしたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年JICAに移管された国際協力機構(JICA)日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語講座は2013年8月より国際交流基金との共催事業となり、JFスタンダードを核としたカリキュラムによる日本語コースを提供している。日本語専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス全体の日本語教育に対する支援・協力を行う。
所在地 KNU, Building 7, Floor 2 720033 Kyrgyz Republic 109 Turusbekova Street, Bishkek.
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年
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