世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)急成長する日本語教育

キルギス共和国日本人材開発センター
坂本 美知

近年では日本のメディアでも「親日国家」「日本人と顔がそっくり」と取り上げられることも多くなったキルギスですが、まだまだ遊牧民族としての文化がクローズアップされ日本人にとって決して馴染み深い国とはいえません。しかし、実は人口に対して日本語学習者の数は多く、キルギスの日本語教育水準の高さは中央アジアでも有名です。そして、そのキルギスで現在、日本語教育は更に急成長しつつあります。

キルギスの日本語教育を支えているキルギス日本語教師会の報告によると、この1年で学習者数は1.5倍に急増、日本語能力試験の受験申し込みは2018年の夏、大幅に増加、過去最多となり、願書が足りなくなるほどでした。

日本語専門家(以下、専門家)はキルギス共和国日本人材開発センター(以下、センター)に派遣されており、そこでJFスタンダードに基づいた一般向けの日本語講座を運営しながら、教師会と共に急成長するキルギス日本語教育全体へのサポートを行っています。

子どもたちに広がる日本語教育

キルギスの日本語教育の中心となっているのは首都圏の高等教育機関であり、日本語を専門に学べる学部では経験豊富な教師陣によって質の高い日本語教育が行われています。センターの日本語講座も現地では高等教育機関と肩を並べて高い評価を得ていますが、近年、キルギスの日本語教育で最も盛り上がりをみせているのは中学生や高校生といった10代の若い学習者です。今年3月に行われたキルギス国内弁論大会ではジュニアを中心とした初級部門に出場枠を大幅に超える申し込みがあり、出場権を手に入れた発表者は当日、中上級部門に負けない熱のこもったスピーチを披露しました。

若い世代に日本語が広がる背景には、地方で活躍する青年海外協力隊など日本からのボランティアの存在がありますが、専門家もセンターでの講座運営のかたわら、キルギス人講師と一緒に首都近郊のシュコーラ(小中一貫校)を訪問したり、地方の子どもセンターを訪れて学習者と交流したりするなど学習者の裾野を広げる活動を行っています。

多様化する学習者のニーズに応えるために

若い学習者が増える一方で、キルギスに目を向ける日本企業も増えてきました。ビジネス人材育成を柱にするセンターには日本語学習者向けの求人や企業からの語学研修の問い合わせなども寄せられます。現在のキルギスでは安定して一般の学習者を受け入れられる教育機関は多くないため、キルギスが必要とする日本語教育を提供できるような講座を考え開設することも専門家の重要な役割です。本年度は毎年恒例になりつつある夏休みの『まるごと』ジュニアコースに加え、新たな需要に応えるため仕事の日本語コースなどを開講する予定です。

多様化し、それぞれに急成長する日本語教育現場をどのようにつなげていくのか。それが現在のキルギス日本語教育と専門家の大きな課題です。キルギスは決して大きな国ではなく、学習者数が増加しているとはいえ、日本語を学びたいと思う学習者にとって選択肢はそう多くありません。日本や日本語に興味を持ってくれたキルギスの人々の期待に応えるためには、地方の学校で行われているクラブ活動から首都圏の高等教育機関、一般向けの語学学校などが協力して学習者をサポートできる環境を作っていく必要があります。

日本人ボランティアとの出会い、日本の伝統文化やサブカルチャーへの興味、留学やビジネスなど様々な理由で日本に興味を持つ人々が日本語を通してつながっていけるようなそんなネットワークづくりを現地の先生方と一緒に目指していきたいと思います。

夜の日本語講座の写真 詳細は以下
夜の一般向け日本語講座にも若者が目立つ

日本や日本語を紹介する巡回日本語講座の写真
現地の学校で日本や日本語を紹介する巡回日本語講座

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年JICAに移管された国際協力機構(JICA)日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語講座は2013年8月より国際交流基金との共催事業となり、JFスタンダードを核としたカリキュラムによる日本語コースを提供している。日本語専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス全体の日本語教育に対する支援・協力を行う。
所在地 KNU, Building 7, Floor 2 720033 Kyrgyz Republic 109 Turusbekova Street, Bishkek.
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年
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