世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語教育事情 IN POLAND 2003年版

ヤギェロン大学日本中国学科
派遣専門家 横野 登代子

I ポーランドに於ける日本語教育の特徴と問題点

青空講義の写真
青空講義

 ポーランドの日本語教育は日本学科を持つ大学とその他の機関とでは 大きくその目的、性格を異にする。

 1919年ワルシャワ大学に日本学科が設立され、この国に於ける日本語教育が始まった。

 当時は123年にわたって地図上から姿を消していたポーランドという国が復活したばかりで、日露戦争でロシアを弱体化させてくれた日本への関心、日本研究の必要性が高まっていた。語学だけではなく、広く日本学一般を対象とする伝統は、その後1987年に創設されたアダム・ミツケビッチ大、ヤギェウォ大にも引き継がれ、文献を読む力の育成を目指し、漢字教育(3年余りで常用漢字1945字習得)は必須である。

 主専攻以外での大学、高校では多くは単位認定がなく、授業コマ数も少ないため、初級を終了するのは難しい。この国では日本語はマイナーな言語であり、特に課外活動としての位置付けしかなされていない高校レベルでは、時に学校行事によって授業そのものがつぶされてしまうこともある。

 これまで、これらの機関での日本語教育は主として海外協力隊員の若さとガッツによって支えられてきた(写真1:ブロツワフの隊員から書道を教わるポ日情報大の学生)。

 しかし、 2002年度から協力隊は徐々に撤退の方向にあり、民間ボランティア団体からの派遣教師や現地在住日本人に交代されつつある。(資料1:国内日本語教育機関 参照)

II 派遣先ヤギェロン大学について

練習の写真
練習

 クラクフにあるこの大学は、ヤギェウォ王朝により国家維持に有能な人材を育てる目的で創設されたもので、天文学のコペルニクスや現ローマ法王が学んだ学府でもある。

 学生達に日本学科を選んだ理由を尋ねると、難しそうな言語だったからという答が日本文化・文学に対する興味とほぼ同率で表れる。経済的に優位な言語をというアジア型の動機とは大きく異なる。

 学生の選抜は英語と面接で決まる。英語力は「ポーランド語ー英語―日本語」という流れの中で、ポ日辞書の語彙数の少なさを補う為の道具として必要だからである。と同時に語学センスを測るための指標でもある。面接は1人20分程度、面接官3人から興味を持っている日本の事柄について質問を受ける。ここでは motivationの高さが測られ、12人だけが入学を許される。

 入学後はもっと厳しい。期末試験は素点で75点以下は落第。1年生には留年制度すらない。日本語に向かないと見なされた者は早い段階で進路変更を余儀なくされる。「日本学科の学生になったと実感したのは 1年生の学年末テストの時」というある学生の言葉から、彼らがどれだけ勉強するかを推察されたい。

III 私が見たポーランド 2003年

 赴任して2年、当初頻発した停電はめっきり減ったし、イライラするほど遅かったインターネットの通信速度も気にならなくなった。少しずつではあるがインフラ整備は進んでいる。

 来年のEU加盟の賛否を巡り6月第一週に行なわれる国民投票は土日2日間、しかも高校生も投票権があるという。なんとかEU加盟を果したいという政府の必死の姿勢が見て取れる。

 しかし、車窓から見るこの国の農業は 未だに牛や馬に耕作させる原始的手法であり、家族総出の手作業である。高く売れる商品作物を作るわけでもなく、近代農法のような経済性もない。また、市内を走るバスのラッシュアワーは3、4時台。帰宅後、夏なら日が落ちる9時過ぎまでの長い時間をゆったりと過ごす。だからGNPが上がらないんだ、もうちょっと働け、と日本人としては発破の一つもかけたくなる。ポーランドのポーランドたる所以ではあるが、市場での競争に不慣れなこの国が加盟後に直面するであろう混乱は産みの苦しみ以上かもしれない。

May 31, 2003

別紙機関リスト
機関名 所在地 学習者数 授業形態 使用テキスト コマ数/週 教師数 教師の種類 その他
ワルシャワ大 ワルシャワ 昼106 夜 46 日本学科
主専攻
初級日本語(東外大)他 会話、漢字、 日本事情など 16 日本人教師3名 ポーランド人教師13名 夜間部あり 国内日本学研究拠点
アダムミツケビッチ大 ポズナン 41 日本学科
主専攻
初級日本語他 会話、漢字 日本事情等 11 日本人教師4名(内協力隊員1名) ポーランド人教師7名 2002年より毎年募集 アイヌ語研究拠点
  言語学科   文法、日本文学 4 ポーランド人1名、日本人3名  
ヤギェウォ大 クラクフ 70 日本学科
主専攻
初級日本語他 会話、漢字 日本事情等 10 日本人教師3名 ポーランド人教師7名 基金派遣 初常勤助教授1名誕生
ポ日情報工科大 ワルシャワ 85 選択
単位認定なし
JFBP 90分×1 (全8クラス) 2 ポーランド人教師1名 JICAシニアボランティア1名 公立大 夜間部あり 3年制
ワルシャワ経済大 ワルシャワ 26 単位認定 初級日本語 90分×2 1 日本人教師(ワルシャワ大と兼務) 日本事情、日本文化も含む
ワルシャワ商科大 ワルシャワ 13 単位認定  選択必修第2外語 みんなの日本語 90分×2 2 民間派遣のボランティア教師2名 私立4年制大学 
ポズナン経済大 ポズナン 60 単位認定 Japanese For Today 90分×2 1 日本人教師 有料コースを考慮中
コペルニクス大 トルン 125 単位認定 みんなの日本語 初級145分×1  初級390分×2 3 協力隊員(10月から現地日本人) ポーランド人教師(文法漢字歴史2名) 自由選択授業
ウッジ大 ウッジ 45 副専攻 やさしい日本語 日本事情ゼミあり 60分×1 1 非常勤日本人教師(ヤギェウォ大兼務) 日本経済等は集中講義 語学留学のレベルに達しない
ウッジ工科大 ウッジ 160 単位認定 みんなの日本語 90分×1 1 協力隊員(10月よりボランティア日本人 4年生で初級26課終了程度
ウッジ第3大学 ウッジ 40 単位認定 自主教材 60分× 3 日本人教師2名 ポーランド人教師1名 社会人、高齢者、身障者対象 修士課程のみ。生涯教育
グダンスク大 グダンスク 80 単位認定 みんなの日本語 日本語で話そう123 初級90分×2 中級90分×1 1 協力隊員(10月より現地日本人) 経済学部2,3年生第2外語
ブロツワフ第4高校 ブロツワフ 35 課外授業 がんばれ日本語 みんなの日本語 90分×1 1 協力隊員(10月より民間派遣ボランティア)  
ブロツワフ第5高校 ブロツワフ 25 課外授業 がんばれ日本語 90分×1 1 協力隊員( 同上) 昨年より開講
ブロツワフ第8高校 ブロツワフ 40 課外授業 がんばれ日本語 60分×1 1 協力隊員(同上) 昨年より開講
クラクフ第2高校 クラクフ 35 課外授業 みんなの日本語 がんばれ日本語 45分×1 + 45分(自主講座) 1 協力隊員 教室確保の困難性
クラクフ第13高校 クラクフ 休止 課外授業 がんばれ、みんなの 45分×1 1   出席率の低さ
グダンスク私立高校 グダンスク 2 課外授業 みんなの日本語・ 90分×2 1 協力隊員 4年生はみんなの日本語・
ノビタルク第1高校 ノビタルク 55 課外授業 がんばれ日本語、 みんなの日本語 45分×3 1 協力隊員(10月より未定) 興味を継続させること
ウッジ第2高校 ウッジ 120 課外授業 自主教材 45分×1 1 民間派遣日本人教師 7クラス ‘02年 10月より民間派遣
ワルシャワ第63高校 ワルシャワ   課外授業     1 民間派遣日本人教師 ‘02年 10月より民間派遣
ポ日協会ウッジ支部 ウッジ 35 市民講座 自主教材(初級) 新日本語の基礎(中級) 1年120分×1 2年100分×1 3 日本人教師 1名  ポーランド人教師 2名 講座運営が難しい
ポ日協会ポズナン支部 ポズナン 6 市民講座     1 ポーランド人教師  
ポ日クラブ シュチェチン   市民講座          
市民講座 グダンスク他 13 市民講座 みんなの日本語 90分×2 1 協力隊員 1年半で21課程度
日本美術技術センター クラクフ 24 8 市民講座 個人レッスン J for college students自主教材、新日語の基礎 90分×2(大人) 60分×2(子供) 5 ポーランド人教師 2名 個人レッスンは在住日本人3名 一般コースは理系の学生が多い。子供は10~15才が6名
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 ヤギェヴォ大学はポーランドに於ける日本学研究機関の一つ。日本語以外に、文学、日本史、日本地理、東アジア文明等、広く日本学一般を教授対象としている。日本学科が設立されてから15年になるが、これまで日本研究者、日本語教師、通訳、翻訳者を送り出してきた。近年は日本企業への人材提供が増えている。
専門家の業務内容は、・ 通常授業(日本語教科書を使って、初級~上級)週5~10コマ程度 ・ ポーランド人日本語教師との連携 ・ 大学間交流等の連絡窓口 ・ 基金の各種報告書作成 ・ 基金の各種申請書作成 ・ネットワーク設立に向けての準備
ロ.派遣先機関名称 ヤギェロン大学文献学部東洋学研究所日本中国学科
Jagiellonian University Faculty of Philology
Institute of Oriental Studies,
JapaneseChinese Department
ハ.所在地 ul.Pilsudskiego 13, 31-110 Krakow  POLAND
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1978年(選択科目として)
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1987年
(ロ)コース種別
主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤 7名(内 邦人3名) 非常勤  2名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年15名、2年13名、3年15名、4年13名、5年14名
(2) 学習の主な動機 ・難しそうな言語だから、・日本文化への興味、・日本企業への就職
(3) 卒業後の主な進路 日本学、日本語研究者、日系企業就職等
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
能力試験1級程度
(5) 日本への留学人数 国費6名、私費2名

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