世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語教育事情 IN POLAND 2004年版

ヤギェロン大学日本中国学科
派遣専門家 横野 登代子

I ポーランドの日本語教育の特徴と動向

書道の指導を受ける学生達の写真
書道の指導を受ける学生達

 ポーランドに於ける日本語教育の特徴を一言で表すなら、高等教育機関に於ける質の高さになろう。
国内では ワルシャワ大、ヤギェウォ大、アダム・ミツケビッチ大の3つの国立大学に日本学科(A・M大は日本学専攻)が置かれているが、ここでの日本語は日本学を遂行するための道具として位置付けられる。文献を読める力として漢字は必須で、どの大学の学生も3年間で常用漢字(1945字)を覚えることに追われている。学生の中には画数の多い漢字にファイトを燃やしている変わり種もいる。

 ともあれ、3大学の日本学科学生総数(約290名)の内、今年度の文部科学省の留学生試験に合格した学生が27名おり、入学した学生の半数以上が卒業までに国費留学を果たすようになったことは小数精鋭教育の成果とも言える。

 主専攻以外の大学では、経済や法律の学生で且つ日本語が少し話せる人材が求められており、日本語講座が徐々に増えると予想される。

 高校等中等教育機関ではヨーロッパ言語に比べマイナーな日本語を単位認定している
ところはなく、課外活動の一つとしての位置付けしかなされていない。ここには日本語教師として協力隊員が派遣され、日本語教育のみならず、日本の若者文化を伝えるアンテナとしての役割を担ってきた。また、新たに昨年度からポーランド人教師による高校での日本語教育が表れ始めた。日本学科の卒業生が母校からの要請で教えているもので 今後このような形での新しい展開が見込まれる。

 一般市民講座も開講が続く。今年初めにウクライナ国境の小さな町に新たに日本センターができ、行く行くは日本語講座も開設の予定である。また、クラクフマンガセンターでは、アンジェイ・ワイダ監督の長年の夢だった日本語学校がこの10月にオープンする。すでに建物はほぼ出来上がっており、最新のLL器材を備えて学習者を募る準備が進む。将来的にはポーランド南部に進出して来ている日本企業で働く人達のためのビジネス日本語講座開設も予定されており、国内でも屈指の日本語センターになるであろう。(資料1参照)

II 教師ネットワークへの動き

日本地理授業の写真
日本地理授業

 2004年1月、基金の巡回セミナーが広島大の迫田久美子先生等を講師に国内の日本語教師40名の参加で開催された。新教材や教授法の新しい試みなどの紹介があったが、ここでの刺激の結果、4月に1回目の自主勉強会がワルシャワで開かれ、7名が参加した。ポーランド人教師による「発音指導の工夫」についてで、普段教室で直面する音声上の問題点をどのような工夫で乗り切っているかという情報交換がなされた。これからも各自が自主的に勉強会を提案しようということになった。

III 派遣先ヤギェロン大学

 ポーランドの南クラクフにあるヤギェロン大学は14世紀の終わりに創設された中欧ではチェコのカレル大に次いで2番目に古い大学で コペルニクスや現ローマ法王も学んだ学府である。学問に対する厳しさは伝統で、日本語学科の16倍の入試を通った学生達にはさらに厳しい期末試験(素点で75点以上)が待ち受け、1年生は1単位でも落とすと学部追放となる。ここでは各学年ともポーランド人教師とのチームティーチングになっていて、ポーランド語での説明と翻訳が取り入れられ、曖昧な理解を避ける工夫がなされている。
その他、歴史の深いこの大学の図書館の蔵書は膨大で、例えばオランダ展の際には、17,18世紀に世界を航海したオランダ船が各地で見た様々な植物動物や風景等が描かれた大型の手書き彩色本などが展示されていた。その中にはチューリップの原型や江戸の大水を描いたスケッチなどもあって、まさに貴重な研究資料の宝庫である。

IV 私が見たポーランド2004年

 2004年5月1日。新聞には「ヤルタは終った」「ヨーロッパに戻った」との見出しが躍った。EU加盟から1ヶ月。目立った変化はないが、国境に何キロも繋がっていた輸送トラックの列がうそのように消えた。市場はそれほど目立った値上がりもなく、人々の暮らしは何も変わっていない。旧西側へ行く航空券が取りにくくなったのは、出稼ぎに行く若者が増えたからである。新しい風が温風か冷風かはまだ誰にもわからない。

(資料1)ポーランド国内日本語教育機関リスト (2003年12月現在)
機関名 所在地 授業形態 学習者数 使用テキスト コマ数/週 教師数 教師の種類 その他
ワルシャワ大 ワルシャワ 日本学科主専攻 昼100夜 65 初級日本語(東外大)他 会話、漢字、日本事情など 16 ポーランド人教師16名日本人教師3名 5年前より夜間部。昼間部と同カリキュラム ECTS単位制
アダムミツケビッチ大 ポズナン 日本学科主専攻 55内5名留学 初級日本語他 会話、漢字日本事情等 11 ポーランド人教師7名日本人教師4名(内協力隊1名) 1年で初級終了 アイヌ語研究拠点 ECTS単位制
言語学科単位認定 32 みんなの日本語 90分×4 日本人教師3名 1年後進度 みんなの日本語23課程度 ECTS単位制
ヤギェウォ大 クラクフ 日本学科主専攻 71内9名留学 初級日本語他 会話、漢字日本事情等 10 ポーランド人教師7名日本人教師3名 基金派遣 常勤助教授1名のみ 初級終了まで1年半
週末コース3年制 17 J.F .Busy People 会話 漢字日本事情等 ポーランド人教師3名日本人教師1名 全員昼と兼任 2003年10月より開講成績上位者は終了後本科編入
ワルシャワ経済大 ワルシャワ 単位認定 40 初級日本語 90分×2 日本人教師(ワルシャワ大と兼務) 日本事情、日本文化も含む
ワルシャワ商科大 ワルシャワ 単位認定 必修第2外語 22 げんき 90分×2 日本人教師2名 私立4年制‘02より民間派遣ボランティア
ポズナン経済大 ポズナン 単位認定   Japanese For Today 90分×2 日本人教師 有料コースを考慮中
コペルニクス大 トルン 単位認定 54 みんなの日本語 初、中級5クラス各90分×2 協力隊員(03年12月まで)ポーランド人教師(文法漢字歴史2名) 自由選択授業JICA派遣終了後元隊員採用
ウッジ大 ウッジ 副専攻単位認定 昼49夜18 やさしい日本語日本事情ゼミあり 60分×1 専任日本人教師 日本経済等は集中講義語学留学のレベルに達しない
ウッジ工科大 ウッジ 単位認定 50 みんなの日本語 90分×1 日本人教師1名佐々木志保 隊員の出身校より JICA派遣終了後 2003年からボランティア
ウッジ第3大学 ウッジ 単位認定 80 自主教材 60分× ポーランド人教師2名日本人教師2名 社会人、高齢者、身障者対象修士課程のみ。生涯教育
グダンスク大 グダンスク 単位認定 34 新日本語の基礎日本語第一歩 初級90分×2中級90分×1 11月(‘03)より再開日本人教師1名 経済学部2,3年生第2外語JICA派遣終了後現地在住者
ポ日情報工科大 ワルシャワ 単位認定なし 89 JFBP 90分×1(全8クラス) ポーランド人教師1名JICAシニアボランティア1名 公立大 夜間部あり 3年制02年11月よりJICA派遣
ポローニア大 チェンストホバ 単位認定 70 げんきI II 45分×4 日本人教師1名 2003年10月より開講
ブロツワフ第4高校 ブロツワフ 課外授業 30 がんばれ日本語みんなの日本語 90分×1 民間ボランティア派遣 協力隊員から引継ぎ
ブロツワフ第5高校 ブロツワフ 課外授業 30 がんばれ日本語 90分×1 第4高校に同じ 2002年より開講
ブロツワフ第8高校 ブロツワフ 課外授業 28 がんばれ日本語 60分×1 第4、5高校に同じ 2002年より開講
クラクフ第2高校 クラクフ 課外授業 50 みんなの日本語がんばれ日本語 45分×2 協力隊員(2004年7月まで) 教室確保の困難性JICA派遣7月終了後任未定
クラクフ第13高校 クラクフ 課外授業 休止         2002年まで開講 その後閉鎖
グダンスク私立高校     中等部 グダンスク 単位認定 45 みんなの日本語グダンスク大テキスト 90分×2 協力隊員(2003年12月まで) 隊員撤退後は現地在住日本人が継続
ノビタルク第1高校 ノビタルク 課外授業 休止         隊員撤退後講座閉鎖
ウッジ第2高校 ウッジ 課外授業 80   45分×1 民間派遣日本人教師 7クラス ‘02年 10月より民間派遣
ウッジ第8高校 ウッジ   休止         隊員撤退後 2002年より休止
ワルシャワ第63高校 ワルシャワ 課外授業       民間派遣日本人教師 ‘02年 10月より民間派遣
ワルシャワ第9高校 ワルシャワ 自由選択 25 みんなの日本語 90分×2 ポランド人教師2名 ワルシャワ大卒業生が母校で
ウッジ36,42中学 ウッジ 課外活動 20 特になし 45分×2 協力隊員(青少年活動隊員) 日本文化紹介、簡単な会話
ポ日協会ウッジ支部 ウッジ 市民講座   自主教材(初級)新日本語の基礎(中級) 1年120分×1
2年100分×1
日本人教師 1名 ポーランド人教師 2名 講座運営が難しい
ポ日協会ポズナン支部 ポズナン 市民講座       ポーランド人教師  
ポ日クラブ シュチェチン 市民講座   自主教材   ポーランド人教師、日本人教師 夫婦で市民講座を運営
市民講座 グダンスク他 市民講座 13 みんなの日本語 90分×2 協力隊員 1年半で21課程度有料
日本美術技術センター クラクフ 市民講座個人レッスン 大人10子供5 みんなの日本語ひろこさんの楽しい日 90分×2(大人)60分×2(子供) ポーランド人教師 1名日本人教師 1名 大学生。高校生2004年日本語学校開講予定
ポ日情報大市民講座 ワルシャワ 市民講座 21 自主教材 90分×2 ポーランド人教師1 日本人教師1 有料公開講座 2003年より
ワルシャワ大付属ポーランド日本学基金 ワルシャワ 市民講座於 ワルシャワ大 36 みんなの日本語 90分×2 ポーランド人教師2名日本人教師1名 1年以上学習者14名。高校生大学生、ビジネスマン
Empik日本語教室 ワルシャワ 市民講座 100 J. for young people24 tasks for Modern J 90分×2 ポーランド人教師1名日本人教師1名 1年60名、2年25名3年15名
ブロツワフ大市民講座 ブロツワフ 市民講座   自主教材   ポーランド人教師2名 ヤギェウォ大、ポズナン大卒業生が教師 4年前より開講

今後開講予定:ポズナン経済大学

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
派遣先機関の位置付け
ポーランドに於ける日本学研究機関の一つ。
日本語以外に、文学、日本史、日本地理、東アジア文明等、広く日本学一般を教授対象としている。
日本学科が設立されてから15年になるが、これまで日本研究者、日本語教師、通訳、翻訳者を送り出してきた。近年は日本企業への人材提供が増えている。

業務内容
(1)通常授業(日本語教科書を使って、初級~上級)週5~10コマ程度
(2)ポーランド人日本語教師との連携
(3)大学間交流等の連絡窓口
(4)基金の各種報告書作成
(5)基金の各種申請書作成
ネットワーク設立に向けての準備

ロ.派遣先機関名称 ヤギェロン大学文献学部東洋学研究所日本中国学科
Jagiellonian University
Faculty of Philology Institute of Oriental Studies,
Japanese、Chinese Department
ハ.所在地 ul.Pilsudskiego 13, 31-110 Krakow  POLAND
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1978年(選択科目として)
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1987年
(ロ)コース種別
主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤 8名(内 邦人3名) 非常勤  2名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年12名、2年13名、3年17名、4年11名、5年9名
(2) 学習の主な動機 (1)難しそうな言語だから、(2)日本文化への興味、(3)日本企業への就職
(3) 卒業後の主な進路 博士課程進学、日本留学、日系企業就職等
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
能力試験1級程度
(5) 日本への留学人数 国費8名、筑波1名

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