世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ポーランドの日本語教育現場から ―2005~2006年を振り返って―

ヤギェロン大学
菅生早千江

 ポーランドにおける日本語教育は90年の歴史があり、アカデミックな日本学研究を頂点としながら、一般市民や中高校生まで裾野の広がりを持つ形を形成してきました。
日本語教育は、1919年、ワルシャワ大学で日本語講座が開講されたことに始まります。70年代以降は、ポズナンのアダム・ミツキエヴィッチ大学と現在私が派遣されているクラクフのヤギェロン大学にも日本語講座が開設され、この3校が主専攻として日本語を学べる日本研究の拠点となっています。

派遣専門家としての業務について

 私の業務は、任校における教師としての業務と、ポーランドの日本語教育に関する情報収集や調査、それに「ポーランド日本語教師会」の活動のコーディネーションといった、任校を離れた業務に大別されます。クラクフの「日本美術・技術センター」の日本語学校に昨年から国際交流基金より派遣されている日本語教育指導助手を必要に応じてサポートすることも、業務のひとつです。

任校における業務について

学科長による授業(1年生)の写真
学科長による授業(1年生)

 ヤギェロン大学の日本学科(正式名称は日本・中国学科)は、全学生数が73名(休学者含む)、一学年13名程度で、少人数制を採っています。入学試験の倍率が毎年十数倍という、人気のある学科でもあります。狭き門をくぐって入学してきた彼らの多くは、アニメ、武道や歌舞伎などの伝統芸能、ポーランド語に訳された日本文学などをきっかけに日本に興味を持った学生たちです。ひらがなから始めて1年で漢字を500字勉強し、1年数カ月で初級教科書を終了するという進度にも遅れることなく、よく勉強しています。3年終了時には、日本語能力試験の2級程度のレベルに到達しているといっていいでしょう。
任校での私の業務は、日本語演習の授業をポーランド人の同僚と連携しながら行うこと、教材の選定、カリキュラムや進度の決定等に携わること、国際交流基金の助成プログラムへの応募や奨学生の推薦を行うことなどです。また、文部科学省の「日本語・日本文化研修留学生(日研生)」の試験や、ポーランドで2004年から実施されるようになった日本語能力試験の対策勉強会を、希望者を対象に行うことも業務に含まれます。日本人と接触する機会の少ない学生たちに、日本からの留学生との交流の場を設けたり、日本からの来賓があった場合に懇談の場を設けたりすることも、同僚と協力して適宜行っています。

任校を離れた業務について

 任校以外の業務で大きくかかわっている「ポーランド日本語教師会」とは、所属を超えたネットワークを構築することを目的に、2003年10月に発足したメーリングリストのことで、約40名の日本語教師が登録されています。このメーリングリストは、しばらくは大使館からの連絡や情報交換などに限って使用されてきました。この一年では、大使館のご理解もあり、教師会としての活動や組織作りを発展させることができました。
2005年6月には、会合と併せた勉強会を、また12月には、ワルシャワでの日本語能力試験の試験監督を引き受けることと併せて会合を持ちました。また2006年3月のポーランド日本語弁論大会では、主催側の一員となり、実施要綱の見直しや審査基準の検討を行ったほか、当日は審査側にも加わりました。

 一番大きな展開は、2006年5月、ポーランド日本学研究会がワルシャワで設立された際に、日本語教師会をその一セクションとして位置づけるという組織の形態が認められたことです。詳細は今後詰めていくところですが、組織の形が整えばセミナーを主催することなども可能になるという点で、意義深いことでした。

業務の課題について

大学祭での日本学科紹介コーナー(2年生)の写真
大学祭での日本学科紹介コーナー(2年生)

 任校内の業務も、任校を離れた業務もいずれも大変刺激に富んだやりがいのある仕事であると同時に、課題も少なくありません。
学内では、学習者の半数がいわゆる中上級であるという点で非漢字圏としては珍しいため、ニーズに合った教材選びも難しく、現在、初級終了後の教材を見直そうとしています。授業以外にも、卒業生の動向調査や国際交流基金のこれまでの支援等に関する記録の整理も必要です。基金派遣者が代々引き受けていた業務を、現地の先生方にも分かるように、情報の共有を意識しながら進めていかなければなりません。

 任校以外の、日本語教師会に関する業務では、私が中心となっている形から、現地の教師が主体となって活動できるような会のあり方に変えていくことが何よりの課題です。それは「基金派遣者が現地の方々にすべてを委ねる日が、いつかは来る」ということを意識してのことです。それは、例えば、日本語能力試験や弁論大会など、ポーランド全体の日本語教育にかかわる諸事の実施や連絡が「実施機関」と「教師会」の協力でスムーズに運ぶことや、助成金を申請してのセミナー開催等、現地に開かれた機会が大いに利用されることです。そして、これらのことが現地の先生方だけで実現できるように教師会がネットワークとして機能するということが、理想的なあり方ではないでしょうか。

 私の派遣期間も残すところあと1年となりました。学内の業務もその他のことも、周囲との対話を積極的に行うよう心がけ、誠実に取り組んでいきたいと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容

派遣先機関の位置付け
ポーランドに於ける日本語主専攻の大学のうちのひとつ。
日本語以外に、文学、日本史、日本地理、東アジア文明等、広く日本学一般をカリキュラムに取り入れている。

業務内容
(1) 通常授業および留学試験対策勉強会など。週8~10コマ程度
(2) ポーランド人日本語教師との連携
(3) 大学間交流等の連絡窓口
(4) 国際交流基金の各種プログラムへの申請、応募などの連絡窓口
(5) ポーランド国内の日本語教育事情調査
(6)ポーランド日本語教師会活動の支援

ロ.派遣先機関名称 ヤギェロン大学
Jagiellonian University, Institute of Oriental Philology, Department of Japanology and Sinology
ハ.所在地 ul.Pilsudskiego 13, 31-110 Krakow  POLAND
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   講座開始:1978年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1987年
(ロ)コース種別
日本語主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
1 名(内 邦人4名) 非常勤
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年14名程度、休学含む合計73名
(2) 学習の主な動機 アニメ、武道や歌舞伎などの伝統芸能、ポーランド語に訳された日本文学など
(3) 卒業後の主な進路 博士課程進学、留学、日系企業での企業内通訳・翻訳など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
2級、留学経験者は1級
(5) 日本への留学人数 国費7名、協定校1名

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