世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ポーランドの日本語教育現場から2013

ヤギェロン大学
田中 香織

ポーランドに派遣されている国際交流基金(以下、基金)の日本語専門家(以下、専門家)は、ポーランド第2の都市クラクフにあるヤギェロン大学文献学部東洋学研究所日本中国学科に所属しています。

大学では学生の日本語の運用能力を高める授業を担当する他、学生主体の課外活動のサポート、現地教師の教材・試験作成への協力などをしています。また、同じく基金から派遣されている日本語指導助手の所属する同市の日本美術技術博物館の日本語教育に関する活動を支援することも業務の一貫です。その他、任国全体に関わる業務として、ポーランド日本語教師会の支援、大使館と教師会の共催する弁論大会や年に二回実施されている日本語能力試験への協力などもあります。

先輩から後輩へと受け継がれる主体的な活動

国際日本学学生ワークショップ(以下、合宿)が開催されるようになり、今年で5年。先月(2013年4月)、5回目の合宿が無事終了しています。本イベントは200名弱の国内外の日本学専攻の学生と指導者が参加して行われるもので、初回こそヤギェロン大学の教師が中心に始めたものの、その後は国立3大学(アダムミツキェヴィチ大学、ニコラウスコペルニクス大学、ヤギェロン大学)の学生が順番で実行委員を担当して実施しています。4回目からは、ワルシャワ大学の学生も参加するようになり、益々日本学専攻学科と学生たちのネットワークを強める絶好の機会となっています。実行委員の学生たちは、先輩から後輩へとそのノウハウを受け継ぎ、このように大きなイベントを成功させています。

専門家は合宿の構成部分の一つである日本語・日本文化の授業をコーディネートする役割で、毎年他校の先生方と共に実施に協力しています。合宿の授業のためには教師も普段の教室ではできない様々な授業(日本の遊び、方言、落語など)を準備しますが、ポーランドの各地に留学中の日本人留学生、特別講師の協力も得て、バリエーション豊かな授業を企画しています。今年も特別講師によるソーラン節の授業や、留学生によるネットスラングやアニメ、日本の大学生の実態を扱った内容など、楽しい授業が実施されました。

会話を楽しむ学生たちの写真
会話を楽しむ学生たち

学生の主体的な活動といえば、合宿ばかりではありません。ヤギェロン大学では、2011年から始まった日本語会話サロン(市内在住の日本人の参加協力を得て、日本語で会話を楽しむ場)が、学生の日本語能力の向上に大きな貢献を果たしています。今年のオーガナイザーの学生は、SNSを利用して学生と協力者間の連絡を繋ぎ、面白いトピックやゲームを準備して活動を支えてくれました。

また、現在学内では、今年卒業予定の先輩たちが着付けや書道など、それぞれが大学で学んだ文化的な技術も後輩たちに伝えています。日本から遠く、日本語能力が将来に直結するとは限らないポーランドのような国では、日本文化への興味は日本語学習者の動機の大きな部分を占めています。こういった学生による主体的な活動を応援することも専門家の大切な仕事と考えています。

日本語教育を核に繋がる全国の教師

教師会会員による研究・実践発表会の写真
教師会会員による研究・実践発表会

年に二回の教師会勉強会を企画、運営するのは専門家の重要な業務の一つです。広いポーランドの各地で日本語を教える先生方が集まる数少ない機会が有意義であることを第一に企画しています。国外から講師を招いて最新の教授法に関する研修を開く他、昨年12月の勉強会では初の試みとして、参加者による発表会を実施しました。11名の会員が実践をシェアし、正に会員による会員のための、素晴らしい勉強会となりました。

近年では、以前から教師会を支えていらっしゃる高等教育機関の先生方に加え、語学学校の先生方の入会も増え、日本語教師会は教育機関の種別を越えて仲間同士が集まる場となっています。活動の内容も益々活発化しており、34回の実績を誇る弁論大会に加え、今年は新たに高校生スピーチコンテストも実施されました。このような日本語教育関連事業や勉強会を通じてできた会員同士の繋がりは、各機関独自のイベントへの相互協力などの形で、益々強くなってきていることが感じられます。

ポーランドにおける日本語教育の課題

これほど高い日本語レベルを持つポーランド人日本語話者の能力ですが、まだ十分に発揮されていないと感じています。彼らの技術が生かされること、日本語学習の成果が将来のチャンスに結びつく可能性を高めることは、この国での日本語学習者の動機を持続させ、学習者数を安定させていくことにも繋がるのではないかと思います。そのためには、社会に向けて人材育成の成果を発信していくことが不可欠であり、教育現場の教師たちは日本語を教える以外に、そういった面での政策能力も必要ではないかと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Jagiellonian University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ポーランドにおいて主専攻で日本学を研究できる国立4機関の一つ。
業務内容
(1) 通常授業(約週8コマ)及び課外活動等支援 
(2)ポーランド人日本語教師との連携  
(3)国際交流基金の各種プログラムへの申請、応募などの連絡窓口
(4) ポーランド日本語教師会活動の支援
所在地 ul. Pilsudskiego 13, 31-110 Krakow, Poland
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   選択:1978年から
専攻:1987年から
国際交流基金からの派遣開始年 1987年
コース種別
主専攻
現地教授スタッフ
常勤13名(うち邦人4名) 非常勤3名
 
学生の履修状況
履修者の内訳   1年21名、2年19名、3年15名
修1年19名、修2年8名
学習の主な動機 文学、文化、アニメ、ゲーム、映画、J-pop、武道などへの興味
卒業後の主な進路 就職(観光業、日系企業、翻訳、その他)、博士課程へ進学
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
N2程度
日本への留学人数 10名強

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