世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)「日本大好きポーランド」

ヤギェロン大学
青沼國夫

「日本人ですか。私、日本好きです。今、日本語勉強してます。」とあるスーパーで買い物をしていた時、レジ係の店員にかけられた言葉だ。

ポーランドの南部にある古都クラクフの街では、大学生ばかりでなく高校生や社会人も日本語を学んでいる。ポーランド人の日本好きはあまり日本人には知られていないが、日本人とわかるとニコッと微笑んだり声をかけてくれたりする人が少なからずいる。ポーランドに来て9ヶ月が過ぎた。赴任当時は見えなかったポーランド人の優しさや琴線に触れる出来事を活動とともにお伝えしたい。

1.「ヤギェロン大学での授業」

知的好奇心の旺盛な学生たちである。「難しくてもいいから、面白い授業、興味をそそられる授業を受けたい。」修士課程1年生の最初の授業での学生の希望だった。授業では、「日本の近代化」「戦後の復興」や「ヨーロッパの移民・難民問題」等をテーマに文献を読み、議論する形式の授業を行っている。学士課程3年生の作文の授業で大学についてどう思っているかを書かせると、「アカデミックレベルが高い。勉強は難しくて大変だが満足している。学生も先生も優しく、困っている学生を助けてくれる。雰囲気がいい。大きな家族のようだ。」と書いた学生もいた。

日本学科の授業には、「文学系」「翻訳系」「言語系」があり、日本語専門家(以下、専門家)は、言語学や日本語学と並んで、「実用日本語」という日本語スキルを育成する科目の一つを担当している。特に「会話」と「作文」がメインだ。通常の教科書だけでは足りず、補助教材を作成しながら行っている。通常の教科書も古くなってきており、教科書採択の見直し、新教科書の作成の機運が教員の間にも起こり、検討段階に入っているところだ。

大学本部横に立つコペルニクス像—コペルニクスはヤギェロン大学で学んだ—の画像
大学本部横に立つコペルニクス像—コペルニクスはヤギェロン大学で学んだ—

2.「日本語サロン」

ヤギェロン大学では、専門家が「日本語サロン」という課外活動をオーガナイズしている。前々任者から受け継いでいるものだが、今期は毎月1回程度、日本学科の学生が日本人と話す機会を作っている。在留日本人を招待して、日本語会話を行うのである。これまでの会話のテーマは「大学生活を充実させるために工夫していること」「将来の夢」「外国語習得法」「日頃の疑問、身近な質問」であった。ワールド・カフェ形式で、小テーブルを囲んで、喫茶店にいるようなリラックスした雰囲気の中で話せるようにしている。2、3回テーブルを回って、いろいろな人と話し、のちに全体で内容を共有するというものだ。また、話し合いの途中のメモ書きや最後の感想をまとめて、ウェブサイト上に掲載している。3月3日には日本語サロンならぬ「日本食サロン」と称して、日本人留学生の協力のもと、ちらし寿司を食べながら、ひな祭りの講釈を受け、「お花をあげましょ、ぼんぼりに♪」とみんなで合唱した。いつもとは違う雰囲気で、学生たちは日本文化の一端に浸った。

日本語サロン〜ヤギェロン大学生と日本人留学生の集い〜の画像
日本語サロン〜ヤギェロン大学生と日本人留学生の集い〜

3.「日本美術技術博物館マンガ日本語学校」

マンガ日本語学校には国際交流基金(以下、基金)から指導助手が派遣されており、授業及び運営の支援を行っている。専門家はその指導助手のサポートを行っている。前年度はカリキュラムの改訂を行い、今年度はそれを受けて実践している。今期、2度ほど実践の様子を見学させていただいたが、ベテランも若手も優秀な教員が揃っていて、学生たちも生き生きと学習に励んでいた。さらなる発展が期待できそうである。

4.「各種イベントのサポート」

4-1 ポーランド日本語教師会の活動支援

教師会は年2回「日本語教育セミナー」を行っている。12月は「日本語教師としての成長」というタイトルで講演を行った。

3月には弁論大会を主催し、その中で、審査基準を策定し審査の統括を行った。出場した高校生、大学生とも、スピーチの内容、表現ともレベルが高く、会場を魅了した。審査は困難を極めるほどの接戦だった。

4-2 クラクフ勉強会

クラクフ市とその近郊で活動している日本語教師の勉強会である。前任者が会を立ち上げた。今年の1月再結集して勉強会の継続を確認し、隔月で開催することとなった。初回は「言語習得のために文法をどう教えるか」というテーマで講義をし、参加者で話し合った。3月は「プレゼンの授業」と題してヤギェロン大学の講師が実践報告をし、5月は指導助手が「これでいいのか中上級」というタイトルで勉強会を行った。非常に内容が充実していて、有効な勉強会になっている。今後さらに参加者の数を増やし、充実した会にしていきたい。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Jagiellonian University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
位置づけ:ポーランドにて日本学を主専攻とできる国立4機関の一つ。 
業務内容:(1) 学部生、大学院生に対する日本語教育。主に「実用日本語」の授業を担当。(2) カリキュラムや教材選択においてアドバイザー的な役割。(3) ポーランド日本語教師会の活動を支援。(4) ポーランド国内の日本語関連のイベントのサポート。
所在地 Aleja Adama Mickiewicza 3 Krakow Poland
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
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