世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ルーマニアで日本語教育に携わる

ブカレスト大学
酒井理恵

ブカレスト大学 外国語学部の写真
ブカレスト大学 外国語学部

 東欧の国ルーマニアにやってきて1年余り。この国で行われる日本語関係の行事を一通り経験して、ルーマニアでの日本語教育に必要なことがだんだんと見えてきました。

 日本から遠く離れたルーマニアでは60年代に始まってその後細々と続いていた日本語教育が89年の革命以降、急速に発展し、教育機関数も学習者数も大幅に増えました。主に大学のみで行われていた日本語教育もその後高校や中学校、さらに子供宮殿という一種の塾のような組織でも行われるようになりました。学習者の人数は1200人と言われ、東欧ではもっとも日本語学習者が多い国です。去年から始まった日本語能力試験には250名ほどの受験者がありました。

 専門家としての仕事は多岐にわたりますが、まずあげられるのが大学での業務です。ルーマニアには現地に住む日本人の日本語教師はいないため、日本人はすべて日本からの派遣者です。わたしが勤務するブカレスト大学には日本人教師はわたししかいませんが、ルーマニア人の先生と役割分担をし、授業をはじめ留学生の学内選考の試験作りと実施、日本人ボランティアの方との連絡、カリキュラムの編成のお手伝いなどがわたしの担当になっており、少し前から教科書作成も始まりました。ルーマニアでは大学制度が変わり、現行4年制の学士課程が2005年秋より3年制に移行し、ブカレスト大学の日本語コースには今までなかった修士課程も設置されることになりました。それにともない、大学ではカリキュラムを始め、様々なことが変わりつつあります。これからどのようになっていくのか、大学全体でもはっきりしたことはまだ見えておらず、大変ではありますが、それが授業のあり方についても根本的に考えるきっかけになっているのは喜ばしいことと言えるでしょう。

 ルーマニアには日本人もそれほどおらず、学生が授業以外で日本語を使う機会はほとんどないといってもいいのですが、ブカレスト大学にはありがたいことに日本人のボランティアの方が定期的に日本語を話しに来てくださっています。今年は日本食を学生に食べてもらいたいと思い、ボランティアの方にもお願いしていっしょに日本食を作り、簡単なパーティーをしました。そのほか日本の陶芸展をいっしょに見に行ったり、カフェに行って自然なコミュニケーションを取れるような雰囲気で授業をしたり、教室の授業の時間だけでは伝えきれない日本をできるだけ学生にも紹介したいと思っています。

 授業以外では他の教育機関で日本語を教える先生や大使館の方と協力して日本語関係の行事を計画、運営しています。教師の人数が日本からの派遣者も合わせて30名にも満たないルーマニアでは組織の枠を超えて日本語教育に携わる人が協力して日本語関係の行事を行うことが必要になってきます。ここでは日本語能力試験も去年から行われるようになり、毎年3月に行われる日本語弁論大会とともにみんなで協力してやっていけるよう、以前からあった日本語教師会の立ち上げの話も具体的になり、ルーマニア日本語教師会がもうすぐ発足することになっています。

学年末日本食パーティーの写真
学年末日本食パーティー

 日本語教師会の活動としては、上記の行事の運営のほか、日本語教育に関する知識を深めるための勉強会やセミナーを開催したり、自分の研究を発表する機会を作ってそれを本の形にしたりすることを考えており、それによって日本語教師としての質をそれぞれが高められる機会を提供することも目標の一つにしています。

 ルーマニアではまだまだ日本語教育が広まる可能性があるといわれています。特に高校で日本語教育を始めたいという声がちらほら聞こえてきます。しかし、需要があっても待遇や場所の問題もあり、教師がすぐに見つかるとは限りません。また教師になりたいと思っている人にも、どこにいけば教師になれるのか情報が行き届いていないようにも見受けられます。日本語教師会には学生にも広く門戸を開いて会員になってもらい、将来の日本語教育を担う人にも情報や知識を提供できるようにしていきたいと思っています。

 ルーマニアの日本語教育は今後日本人の手を離れて現地の先生の力でやっていかなければならない日が遠からず来ます。そのときに日本人がいなくてもルーマニア人の先生方だけで協力して日本語能力試験や弁論大会を運営していけるように、また勉強会や外から先生を招いて開くセミナーを通して教師全体の質を向上させていくことができるように持って行くことが必要だと感じています。教師の仕事と同じで、当事者の代わりに何かをやるのではなく、独り立ちしていけるようにお手伝いするのが専門家の仕事だと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ルーマニアには、日本語を主専攻としている大学が2校(ブカレスト大学及びヒペリオン大学)、日本語を副専攻としている大学が3校(スピルハレット大学、デェミトリア・カンテミル大学及びバベシュ・ボヨイ大学)がある。その中においてブカレスト大学の日本語講座は、ルーマニア国内の日本語教育、日本文学研究の中心であり、常に他の日本語教育機関からその存在を意識されている。学生に対しては、日本語だけでなく日本文学、日本文化について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 ブカレスト大学
Bucharest University
ハ.所在地 Bulevard Mihai Kogalniceanu nr.36-46, Sector5, Bucharest
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
ブカレスト大学外国語外国文学部東洋言語学科日本語専攻
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   副専攻:1975年から
専攻:1987年から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1978年
(ロ)コース種別
主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤6名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生:37名 2年生:26名 3年生:17名 4年生:8名
(2) 学習の主な動機 日本文化への憧れ、日本語そのものへの興味
(3) 卒業後の主な進路 ガイド、日本語教師、留学、日系企業に就職など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 2~4名程度

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