世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ルーマニアで求められる母語話者教師

ブカレスト大学
平野 美恵子

ルーマニア日本語学習者が抱く日本人像

 「アニメは好きですか?」「いけばなを教えてください。」「着付けをお願いできますか?」

 これらは、私が実際に受けた質問やお願いです。残念ながら、私はアニメのことはよく分かりませんし、いけばなも着付けもできません。このように返答すると「どうして?日本人なのに。」と不思議な顔をされます。アニメに代表されるポップカルチャー、いけばなや茶道などの伝統文化に精通している人、ルーマニアで日本語を学ぶ人々はそんな「日本人像」を持っているようです。

日本語教育専門家の業務

所属機関の任務:ブカレスト大学

ブカレスト大学日本語専攻の3年生の写真
ブカレスト大学
日本語専攻の3年生

 国際交流基金派遣の日本語教育専門家(以下、専門家)は、ブカレスト大学に所属し、日本語専攻の学部・修士課程での授業担当やカリキュラムや教授法に対する助言、日本人ゲストのアレンジなどを業務としています。学部3年制が導入され今年で2年目となり、効率よく日本語が学べるようカリキュラムの見直しが続けられています。特に、初級テキスト終了後の中級への移行を円滑に進めることに焦点を置き、同僚と相談しながらカリキュラムと実践の向上に取り組んでいます。授業は、ルーマニア人教師が文法説明、専門家が運用練習を担当し、チームティーチングで行います。定期的な授業報告の機会を増やし、進度や定着度に教師全体で注意を払うことで、実践の効果を高めるよう努めています。昨年は専門家主導で会議を開くことが多かったのですが、最近は、ルーマニア人教師間で自発的に相談や報告を行うようになってきました。

 2008年秋より日本語教育指導助手(以下、指導助手)の派遣が開始され、助手の業務を調整することも専門家の大切な役割となりました。比較的力が入れられていなかった1年生の経験者用授業、日本語能力試験(以下、能力試験)対策や、新しく開設された専攻外の選択授業などを担当してもらっています。学部の3年間である程度の日本語力を養うことは至難の業ですが、こうした指導助手の授業がもたらす効果は大きく、特に授業内に能力試験対策をしなければならなかった教師の負担が軽減され、合格率が格段に上がりました。

 以前から取り組んでいた初級用教材集の作成は、校正と最終修正の段階に入りました。その他、ルーマニア人教師の間で中級や語彙等のテキスト作成案も出ています。カリキュラムの充実と並行しながら、質の高いテキストが完成されればと思います。

学外の任務:ルーマニア日本語教師会を中心に

シンポジウム基調講演で行われたワークショップの画像
シンポジウム基調講演で行われたワークショップの様子

 ルーマニアの母語話者教師は全体の約一割で、そのほとんどが任期付き派遣教師の為、現地に根付いて活動しているのはルーマニア人教師です。主に、ルーマニア日本語教師会をサポートすることで、ルーマニアの日本語教師に対する支援を行っています。

 教師会の主な活動には、シンポジウム開催、日本語能力試験協力、弁論大会主催(大使館との共催)、勉強会の実施などがあります。専門家は、各行事の運営に関する助言、招へい講師の調整、勉強会企画への提言などを行います。2008年のシンポジウムには、お茶の水女子大学の岡崎眸教授をお招きし、「持続可能性日本語教育」と題する基調講演とワークショップをして頂きました。また、09年の弁論大会審査員として招へいしたブルガリアの駒田聡日本語教育専門家に、『日本語文型辞典』やオンライン辞書の編纂に関する講義をして頂きました。いずれの講演も教師達の良い刺激となったようです。今後は、現地教師による講演題目への提案が期待されます。

 2008年5月に専門家の提案で開始した『24週日本語文法ツアー』の読書会は、あと数週で最終章を迎えます。読書会は好評で継続を求める声が高く、ルーマニア人教師の間で次に読むテキストが検討されています。

 その他、ルーマニア日本語教育全体を把握し、教師会の活動を効果的に支えるために、日本語教育機関を視察します。教師会主催で行われる行事は主に首都ブカレストで行われる為、地方都市の日本語教師は頻繁に参加することができません。そこで、専門家が地方にある教育機関(クルージュナポカ、トゥルグムレシュ、ヤシ、ティミショアラ)を中心に訪問して、情報交換・助言を行い、その結果を教師会に報告しています。

ルーマニアで求められる母語話者教師

 ルーマニア人教師が抱く「母語話者教師像」として、日本語の構造や日本文化について全て論理的に説明でき、新しい教授法を常に取り入れ、行事の運営方法を心得ている、そのような期待を感じます。専門家は、こうした知識を一方向的に情報提供するのではなく、現地の教師達が自立して日本語教育を担っていけるよう導いていくことが肝要だと思っています。専門家主導の業務や活動がまだありますが、少しずつルーマニア人教師に受け継がれ、ルーマニア日本語教育の発展につながることを願います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ルーマニアには、日本語を主専攻としている大学が2校(ブカレスト大学及びヒペリオン大学{第一外国語;主専攻はルーマニア語})、日本語を副専攻としている大学が3校(スピルハレット大学、デェミトリア・カンテミル大学及びバベシュ・ボヨイ大学)がある。その中においてブカレスト大学の日本語講座は、ルーマニア国内の日本語教育、日本文学研究の中心であり、常に他の日本語教育機関からその存在を意識されている。学生に対しては、日本語だけでなく日本文学、日本文化について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う
ロ.派遣先機関名称 ブカレスト大学
Bucharest University
ハ.所在地 Bulevard Mihai Kogalniceanu nr.36-46, Sector5, Bucharest
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名、日本語教育指導助手:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
ブカレスト大学外国語外国文学部東洋言語学科日本語専攻
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   副専攻:1975年から
専攻:1987年から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1978年
(ロ)コース種別
主専攻、選択
(ハ)現地教授スタッフ 常勤6名(うち邦人0名)
 
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生:65名 2年生:50名
3年生:35名 選択:18名
(2) 学習の主な動機 日本文化への憧れ、言語そのものへの興味、など
(3) 卒業後の主な進路 大学院進学、留学、ガイド、日本語教師、日系企業に就職など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 3~4名程度

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