世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 創作劇の上演

ブカレスト大学
山口 明

 ルーマニアの日本語学習機関にはたいてい文化祭があり、色々な展示、デモンストレーション、ワークショップが行われます。2012年5月のブカレスト大学日本語学科の文化祭「道開き」では、折り紙、書道、生け花、踊り、カラオケ、寿司の販売、アニメ上映、マンガ喫茶などのほかに、学生による二つの創作劇が上演されました。

 1年生グループによる「風の面」(指導助手が担当)と2、3年生の混成グループによる「空手の授業」(日本語専門家が担当)を紹介します。

1.「風の面」 

風の面の写真
「風の面」

 一年生の演劇グループは五名プラス助っ人数名で、コスチュームや小道具から台本まで全て自分たちで作り上げました。劇のタイトルは「風の面」。侍やお姫様、鬼などが出て来る時代劇です。

 はじめは、前年の十月から日本語を始めたばかりの一年生が、オリジナルの脚本を自分達で作りたいと言うのですから、教師としては「すごいな、がんばれ!」と思う反面、「大丈夫なのかな、できるのかな・・・。」と不安にもなりました。できあがった脚本の第一稿をもとにみんなで話し合い、「この劇を通して何を伝えたいのか」を軸に劇のストーリーを推敲していきました。

 忙しい学生たちが授業の合間をぬってようやく脚本を完成させたのは五月初めでした。当初よりも大分シンプルなストーリーにはなったものの、全員が納得する脚本がようやく出来上がりました。一番肝心なのはラストシーンの鬼と侍の決闘シーンです。殺陣の振り付けなんて私も含めてもちろんみんな分かりません。しかし、少しだけでも剣道や空手を習ったことがある他の一年生も寄り集まって一緒に「カッコいい」殺陣を考えました。

 コスチュームは、以前デザインを勉強していた学生を中心に羽織や袴、鎧なども自分たちで考えたそうです。伝統的な和服というよりは、多少独創的な感がありましたが、それもまた良かったと思います。メイクは同じく一年生の中でお化粧が趣味という学生が助っ人に入りました。鬼の化粧は顔中真っ赤にぬって歌舞伎の隈取のようなとても派手な物で、反対にお姫様は白塗りに赤い口紅となかなかきれいでした。

 文化祭当日は、朝と夕方の二回公演をみんなで無事終了させ、祭りの幕開けと有終の美の両方を飾ったのでした。学生の感想では、「大変なことも多かったが、友達との絆が深まったし、とてもよい思い出になった。」「この経験を通して更に日本語を勉強することが楽しくなった。」という声が聞けました。また、来年は忍者の劇を作ろうという声もあり、時間がなく上手く出来なかったことなど反省点は多々あるものの、日本語・日本文化で遊び、慣れ親しむという目的は十分に達成されたと思います。

2.「空手の授業」

空手の授業の写真
「空手の授業」

 2、3年生の混成グループの方はなかなか公演の内容が決まらなかったのですが、最終的に二年生の一人が台本を書き、空手の練習風景を描いた喜劇となりました。

 日本の空手教室の設定で、掃除夫が、練習場に置いてあった空手の先生の道着を見つけ、それを着て先生になりすまし、新しく入った人達を相手に練習を始めます。そこに日本語ができないアメリカ人が入ってきて、ダンスの練習と思い込んで加わります。男性の一人がカンフーと勘違いして暴れだし、アメリカ人は空手の型をアレンジしたダンスを踊ります。そうこうするうちに遅れてやってきた本物の空手の先生が現れ、掃除夫はあわてて逃げ出し、本物の先生が最初から練習を始めるところで幕となります。

 台本の初期の段階から日本語を訂正していきましたが、読み合わせの練習をしていくうちにどんどん内容が変わってきました。普段は授業時間が多く、練習の時間はあまりありません。休みの時は地方の学生は実家に戻ってしまうので、全員が集まることができず、なかなか練習の時間をとることができませんでした。

 それでも、日本語とルーマニア語による発声練習と滑舌のトレーニングを用意して、何回か基礎練習を行いました。「学芸会」にならないようにするには、普段の発声とは異なる「観客に聞かせる話し方」を目指すことだと考えました。セリフがなかなか覚えられず、苦労していたようですが何とか上演にこぎつけました。

 日本大使はじめ大勢の観客の前でかなり緊張したようですが、二十分ほどの一幕劇を無事演じ切り、予想以上に笑いをとることもできました。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
UNIVERSITY OF BUCHAREST
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ルーマニアには、日本語を主専攻、あるいは副専攻としている大学が5校ある。ブカレスト大学の日本語学科は、ルーマニア国内の日本語教育、日本文学研究の中心である。日本語だけでなく日本文学、日本文化について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語学科での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。2005年に東アジア研究の修士課程が設立され、日本語学科の学生の多くが進学する。また2010年にブカレスト大学日本研究センターも設立された。日本語学科はさくら中核メンバーとして毎年日本語教育関係の事業を主催している。十数校の日本の大学と協定を結び、交流を行っている。
所在地 Bulevardul Mihai Kogalniceanu nr.36-46, Sector 5, Bucharest
国際交流基金からの派遣者数 日本語専門家:1名、日本語指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ブカレスト大学外国語外国文学部日本語学科
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   副専攻:1975年から
専攻:1987年から
国際交流基金からの派遣開始年 1978年
コース種別
主専攻、選択
現地教授スタッフ
常勤5名 非常勤1名(うち邦人0名)
 
学生の履修状況
履修者の内訳   3年生:50名 2年生:50名 1年生:60名
学習の主な動機 日本文化への憧れ、言語そのものへの興味、など
卒業後の主な進路 大学院進学、留学、ガイド、日本語教師、日系企業に就職など
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2程度
日本への留学人数 毎年10名程度

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