世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)専門知識を活かし、日本人コミュニティとつなぐ

ブカレスト大学
黒田朋斎

国際交流基金の専門家に求められる役割。それが何であるのか日々自問しています。今回は2014年8月に着任して以来、私が果たしてきた専門家として最も基本的な役割を2つご紹介します。それは専門知識を生かした支援と現地日本人との接点作りです。

1. ルーマニア人学習者のための文型解説書制作

私の肩書は「日本語」専門家です。望むと望まざるとにかかわらず、現地教師からは日本語文法に関する専門知識が求められます。こちらでも着任してすぐにブカレスト大学の専任講師から中級学習者のための文型解説書制作を手伝ってくれないかという申し出がありました。

昨今の日本語学習者の増加により日本で出版されている教材や参考書にさまざまな言語の翻訳が付き、特にアジア諸国ではそれぞれの国でも出版されるようになってきました。しかし、そういった日本で出版されている教材をルーマニアで入手することは困難ですし、入手できたとしてもルーマニア語の翻訳や解説が付記されたものはありません。特に中級学習者は基本的な文型の学習を終え、辞書には載っていない表現を学習することになります。ルーマニアの中級日本語学習者がそのような表現の意味や使い方を理解するためには、授業中に現地教師のルーマニア語での説明を聞くか、入手しづらい参考書の、母語ではない英語の説明を読んで理解するしかありません。現地教師の説明は授業中だけしか聞けませんし、知りたいと思ったときにいつでも質問できるわけでもありません。また、ルーマニア人がいくら英語が得意だと言っても、中級以降学習する文型のニュアンスや類似表現の違いを英語だけで深く理解するのは難しいようです。そこで、その専任講師がこれまで2,3年生の授業で使用していたプリントをもとにして文型解説書として1冊の本にまとめて出版することにしました。

教材制作の打ち合わせの写真
教材制作の打ち合わせ

まとめるにあたって2つのコンセプトを決めました。1つ目は勉強のときに手元に置いていつでも参照できるような検索しやすい参考書にすること、2つ目は読む人が機能を意識しやすいように、意味・機能別で文型を分類することです。特に2点目は、このような意味・機能別で分けられたルーマニア語での文型参考書がまだないことから、専任講師も私もこだわっています。作業の中で私は主に文型の意味や機能を反映した例文を作成したり、それぞれの文型を意味・機能別に分類したり、それに沿った索引の作成を担当しています。また、専任講師と文型の機能や類似表現の違いについてディスカッションしています。これは日本語学の専門性を活かした役割だと言えるでしょう。完成までまだ先は長いですが、この解説書の出版がルーマニアの中級以降の日本語学習者への朗報となるよう一歩ずつ進めていきたいと考えています。

2. 現地の日本人と学習者をつなぐ

もう1つ期待されている役割は、現地に在住している日本人との接点作りです。ルーマニアには、在留邦人数が381人(2014年海外在留邦人数調査統計; 外務省)と非常に少なく、日本人と接する機会はほとんどありません。学生たちは日本のポップカルチャーには詳しいものの、日本の生活や日本人の考え方については意外と知りませんし日本人講師以外と日本語で話すことにも慣れていません。バーチャルではない、リアルな日本人とのコミュニケーションを体験してこそ学ぶことが多いはずです。

日本人学校教諭へのインタビュー活動の写真
日本人学校教諭へのインタビュー活動

そこで、2015年4月に日本人学校の先生方を招き、インタビューを実施しました。学生たちは、「ルーマニアで感じたカルチャーショック」や「大学時代の思い出」など、それぞれ興味のあるトピックについてインタビューしたのですが、先生方から得た回答によってこれまでとは異なった日本人の考えを知ったようです。中には、今後の大学生活へのアドバイスをもらった学生たちもいました。その中で、どの先生も「住みやすい」、「ルーマニア人は親切」、「旅行するのにとてもいい」など、ルーマニアに非常に良い印象を持っていることが学生たちには意外だったようです。そうしたことも実際に話を聞いてみないと分からないことではないでしょうか。

このインタビュー活動をきっかけにして日本人学校との交流の計画が進み、近く学生が日本人学校を訪問することになりました。そして、今年度いくつかの交流を日本人学校の協力のもと計画しています。こうした現地の日本人コミュニティと学習者をつなぐ役割も専門家の基本的な業務です。

今回は「日本語」専門家として専門知識を活かした業務と日本語学習者と現地の日本人とをつなぐ業務を紹介しました。これらは派遣専門家として基本的な業務です。これを最初のステップとして今後も様々な業務に取り組んでいきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Bucharest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブカレスト大学の日本語学科は、ルーマニア国内の日本語教育、日本文学研究の中心であり、日本語だけでなく日本文学、日本文化について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語学科での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師へのアドバイス等を行う。
所在地 Bulevard Mihai Kogalniceanu nr.36-46, Sector5, Bucharest
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ブカレスト大学外国語外国文学部日本語学科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 副専攻:1975年から
専攻:1987年から
  国際交流基金からの派遣開始年 1978年
 
コース種別
  主専攻、選択
 
現地教授スタッフ
  常勤5名(うち邦人2名) 非常勤3名(うち邦人1名)
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年生:約50名
2年生:約50名
3年生:約35名
  学習の主な動機 日本文化への憧れ、言語そのものへの興味、など
  卒業後の主な進路 大学院進学、留学、ガイド、日本語教師、日系企業に就職など
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N3程度
  日本への留学人数 10名程度

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