世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語・日本文化を通してつながる

ブカレスト大学
栗原幸子

2016年9月にルーマニアに着任してから、早くも8か月が経とうとしています。派遣先のブカレスト大学は、ルーマニア国内の日本研究・日本語教育の中心であり、学部から大学院まで200名弱が学んでいます。学生たちは、日々、日本文学、日本文化などの日本研究科目や、漢字、文法、会話などの日本語関連科目を学んでおり、日本語専門家(以下、専門家)や指導助手は同僚たちと協力して日本語教育を担当しています。通常の授業に加えて、学習者にとって外国語である日本語を学ぶことを通じた、いろいろな人たちとのつながりを支えていくことも、私たち専門家の役割の一つだと考えています。今回は、派遣先のブカレスト大学日本語学科の学生たちが、日本語・日本を通して、どのようなつながりを作っているのか、2つの例をご紹介いたします。

在住日本人とつながる「ブカレスト日本人学校との交流」

前年の黒田専門家のレポートにもありますように、ブカレスト大学は、ブカレスト日本人学校との交流を続けています。今回も2年生と日本人学校を訪問しました。

当日は、開会式に続いて、授業見学が行われ、国語、社会、理科、算数などの授業を順番に見学しました。訪問後に聞いた学生たちの感想からは、特に先生方の教え方や、先生と児童生徒の皆さんとの関係など、自分たちが経験してきたルーマニアの学校との違いを感じたようです。

百人一首に挑戦の画像
百人一首に挑戦

授業見学の後には、日本人学校の児童生徒の皆さんと一緒にアクティビティーを行いました。今回の交流プログラム内容を考える際には、交流内容と、大学での学習内容との連携を持たせようという日本語学科のスタッフの意向を入れて、百人一首に挑戦することになりました。日本人学校訪問前には、まず百人一首とは何かという話から始まり、競技かるたの動画を見たり、かるたの遊び方を説明したうえで、実際に何回か練習を行い、できるだけいくつかの句を覚えるようにして、準備をしました。日本人学校の児童生徒の皆さんとの対戦は、日本語学科の学生にとって大きな挑戦であり、子どもたちの速さに驚いていたようでしたが、上位数名は表彰を受け、これからまた頑張ろうという意欲向上につながる経験となったようです。

ブカレスト市民とつながる「道開き」

ブカレスト大学日本語学科の学生たちは、学んでいる日本語・日本文化を通して、ブカレスト市民ともつながっています。例年、日本語学科は、「道開き」と呼ばれる日本文化祭を開催しており、今年で8回目を迎えました。日本語学科には、書道、華道など伝統文化に関するものから、演劇、コーラス、かるたなどの日本語に関するもの、ポップカルチャーに関するものまで、様々な種類の学生クラブがあって、課外に活動を行っています。「道開き」は、これらの学生クラブが中心となって、準備にあたりました。「道開き」は学生主体のイベントであり、私たち教員は運営や活動への後方支援を行います。また、私はコーラス部の一員として活動に参加しました。

子どもたちに太鼓を紹介の画像
子どもたちに太鼓を紹介

美しい春の晴天に恵まれた「道開き」当日は、会場となったブカレスト市内の植物園に、在ルーマニア日本国大使夫人をお迎えし、一人は浴衣、一人はルーマニアの民族衣装に身を包んだ司会者のもと、コーラス、演劇、ソーラン節のパフォーマンスで開会しました。

プログラムの内容は多岐にわたり、折り紙、塗り絵、紙芝居など、子どもたちにも人気の体験コーナーや、メイドカフェ、アニメなどのポップカルチャー、茶道、華道、太鼓のデモンストレーション、書道、藍染、折り紙やふろしき、かるたのワークショップ、日本語のクラスなども開かれました。着付け、お寿司の販売などは、参加者の皆さんが列を作るほどの大人気で、着物を着つけてもらい、植物園の美しい庭園で、いろいろなポーズで写真をとる参加者の皆さんが見られました。ほとんどのプログラムは無料で体験できますが、メイドカフェ、お寿司などの販売での売り上げは毎年チャリティー団体に寄付されています。今年は、恵まれない子どもたちを支援する団体と、ホームレス支援団体に寄付されました。

このところルーマニアの子どもたちの間では、けん玉が大きなブームとなっており、日本文化、日本語への興味が広がっています。今後、ルーマニア国内の年少者への日本語教育の支援も一つの課題となってくると思われます。これからも、ルーマニアの日本語学習者のいろいろな形でのつながりを支援していけるよう、努力を続けていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Bucharest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブカレスト大学の日本語学科は、ルーマニア国内の日本語教育、日本文学研究の中心であり、日本語だけでなく日本文学、日本文化について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語学科での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師へのアドバイス等を行う。
所在地 Strada Pitar Moş nr. 7-13, Sector 1, Bucharest
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ブカレスト大学外国語外国文学部日本語学科
日本語講座の概要
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