世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)子どもたちに教える日本

ブカレスト大学
栗原 幸子

前年のレポートの最後に、ルーマニアでは、日本への関心が年少者の間にも広がりを見せていることを書きました。今回のレポートでは、私たち日本語専門家(以下、専門家)、日本語指導助手(以下、指導助手)が関わっている、ルーマニアにおける年少者への日本語・日本文化教育の事例について書いていこうと思います。

学生が教える日本

専門家と指導助手の派遣先であるブカレスト大学外国語・外国文学部日本語学科では、日本語教授法の授業が開かれており、その中で専門家も指導助手とともに、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)やJF日本語教育スタンダードなどに関する授業を担当しました。

そのような中、2017年5月の3日間、ブカレスト市内の小学校で、Şcoala Altfelと呼ばれる特別プログラムの一環として、「日本学校」が開かれ、ブカレスト大学日本語学科の1、2年生が、小学生たちに日本語・日本文化を教えることになりました。日本語教育の授業に参加している学生たちを中心に、生徒たちの年齢にあわせて、授業の内容、活動、教え方などを考え、教材を作成しました。「日本学校」開催のきっかけは、この小学校でブカレスト大学日本語学科の卒業生が教えていることで、こちらの先生が担任をしているクラスでは日本語の歌、日本語の挨拶などが教えられています。

「日本学校」の開会式には、在ルーマニア石井日本国大使、国際交流基金ブダペスト日本文化センター多田所長、教育委員会の代表もお迎えして、小学校の生徒たちも日本語の歌を歌いました。

3日間のプログラムには、小学校0年生(1年生になる前の準備クラス、5歳)から4年生(10歳)まで、10クラスを超える約300人の児童・生徒が参加し、日本語学科の学生たちが子どもたちの年齢に合わせた様々な活動を行いました。あいさつや自己紹介、ひらがな、カタカナ、動物、色、野菜、果物の名前などの日本語に関する授業や、日本文化に関しては、折り紙、日本の昔話、お箸の使い方、歌やダンスなどを取り上げました。また、日本語学科の日本文化に関する様々な学生クラブの中から、今回のプログラムでは、お寿司、太鼓、ダンス、藍染、書道、折り紙の各クラブが日本文化のワークショップを担当しました。

塗り絵で色とくだものの名前を覚えようとしている学生の写真
塗り絵で色とくだものの名前を覚えよう

最初学校に入っていったときには、ちょっと不思議そうな顔をしていた子どもたちも、すでに1日目の後半には私たちを見ると我先に「こんにちは」と声をかけてくれるようになりました。このプログラムは大変好評で、教育省で実施されたŞcoala Altfelのコンテストでブカレスト市内で1位となり、全国レベルでも上位に入りました。他校のŞcoala Altfelではヨーロッパ文化が中心で、日本をテーマにしたプログラムは新鮮で異文化理解の一端となったようです。同校では、7月のサマースクールでも日本語・日本文化のクラスを開き、こちらでもブカレスト大学の学生たちが小学生に教えました。

他の小学校でも

また2018年3月には2日間にわたって、ブカレスト市内の別の小学校で、日本語・日本文化の特別クラスが開かれ、日本語学科2年生の有志が子どもたちに日本語・日本文化を教えました。今回は、小学0年生が対象でしたので、学生たちも小さい子どもたちに関心を持ってもらえるような授業を考え、ダンス、折り紙、風呂敷、紙芝居、うちわに絵を描く、日本のジェスチャー、スライドを見せながら日本について説明する、紙芝居、塗り絵などの活動を行いました。

日本のジェスチャーを勉強している学生たちの写真 詳細は以下
鼻?いいえ「私」!日本のジェスチャー

教えることを通して学ぶ

日本語学科の学生たちは、日々大学で日本語・日本文化を学んでいますが、子どもたちに教える際には、自分たちが大学で学んでいるように教えるというわけにはいきません。年齢、興味の対象も異なりますし、また母語のルーマニア語の読み書きもスタートしたばかりの子どもたちもいます。子どもたちの年齢によって、教える内容や活動だけでなく、クラスマネージメント、活動の長さや順番、話し方なども考えていく必要があります。

私たち教師も感じていることですが、教えることで学ぶことは多く、今回のプログラムは、日本語学科の学生たちにとっても、自分たちが学んでいる日本語・日本文化を振り返る機会となり、子どもたちに教えることの楽しさに気づいた学生も多くいたようです。また、支援をしている私たちの方にも、学生たちが子どもたちに教えようと選んだ内容や活動を見て、また普段の大学の授業とは異なる学生たちの姿からも、様々な気づきがありました。

このような交流活動はこれからも続いていきます。継続的に実施していくために、子どもたちの年齢や興味にあわせた活動の提案や、教材作成などの支援が必要とされています。教える側の学生たち、子どもたちの双方向にとって、より充実した交流が行えるよう今後もサポートを続けていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Bucharest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブカレスト大学の日本語学科は、ルーマニア国内の日本語教育、日本文学研究の中心であり、日本語だけでなく日本文学、日本文化について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語学科での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師へのアドバイス等を行う。
所在地 Strada Pitar Moş nr. 7-13, Sector 1, Bucharest
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ブカレスト大学外国語外国文学部日本語学科
日本語講座の概要
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