世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ノボシビルスクにおける日本語教育

ノボシビルスク国立大学
石田 英明

ノボシビルスク日本文化の夕べの写真
ノボシビルスク日本文化の夕べ

 ノボシビルスクはロシア中央のオビ川沿いに位置し、シベリア鉄道の拠点として知られるシベリア地方の中心都市です。人口140万人以上という大規模な都市ではありますが、ロシアの首都モスクワから飛行機で約5時間、在外公館も日本企業もないといった土地柄から、在住日本人は稀少です。また、約6ヵ月間は雪に覆われ、-20℃以下が当たり前という厳しい冬はまさに「シベリア」といえるでしょう。

 さて、私の派遣先「ノボシビルスク国立大学」はノボシビルスクの郊外、車で約45分の学術研究都市アカデムガラドクにあります。当大学の人文学部東洋学学科では、3名のロシア人教師と1名の日本人教師が専属の教員として日本語の指導に当たっています。日本語を学習している学生の専門は歴史学で、日本語は必修選択科目となっています。学生の中にはホームステイプログラムで知り合いになった日本人とメール交換を続けている者もいますが、上記のように日本との関係が希薄な環境のため、学生が生活上で日本語を実際に使用する場はほとんどありません。また、モスクワでの日本語能力試験への参加も実際上できません。そのため日本語学習の動機は主に文化的・語学的関心で、経済的な理由を挙げる学生は少ないようです。一方、「シベリアはアジアに隣接している」といった意識からもアジア言語への興味が大きいようです。

 本来、派遣専門家がここで期待されている役割は、ロシア人教師が担当するクラスの会話授業と作文添削、教師自身の日本語力のブラッシュアップと教授法のコンサルタント、日本文化・文学等の特設授業の開設などです。しかし、本年度は教師の一人が日本での研修プログラムに参加したため、私はそのクラス(4年)の担当を受け持ち、代わりに特設の授業は行いませんでした。この学生たちにとっては「日本語で教えられる日本語文法」は全く初めての経験であり、はじめ戸惑っていたようでしたが、慣れてくるに従い生き生きと質問してくるようになりました。

 日本から遠く離れているがゆえに文字情報が極端に重視されてきたこの土地では、「聞く・話す」を含めた総合的な日本語能力の育成の重要性がなかなか分かってもらえないこともあります。また、文献研究中心の考え方から音声面が軽視されていることも事実です。しかし、実際に学生の口頭表現能力が上達していくに従い、人々の意識も少しずつ変化してきたようです。

 今年4月には、日本語科の学生が自主的に企画・運営した「日本文化の夕べ」が催されました。3つの創作劇や空手のデモンストレーションなど、全て学生の手によるものです。教師は日本語面の援助指導のみ行いました。図らずも、学生達はタスク達成型の学習を自らに課し、達成したといえます。この活動から、普段は関係を持とうとしない他学年の学生とも協力し、結びつき、日本語科としての学生間の連帯感も生まれ始めたように思われます。この催しの成功は、学生にとって大きな自信となりました。

ノボシビルスク大学4年生授業風景の写真
ノボシビルスク大学4年生授業風景

 ノボシビルスクには日本語教師会も結成されています。ノボシビルスクでの日本語教育は30年前ノボシビルスク国立大学から始まりましたが、現在8大学と14の初・中等学校で日本語コースが開設されています。日本語教育は確実に根付き、広まっているといえます。教師会では月に1回勉強会を開き、派遣専門家を中心に具体的な教授法について討論をしています。その他、「ノボシビルスク子供の日本語テスト」「ノボシビルスク子供のスピーチコンテスト」「ノボシビルスク学生の日本語テスト」「ノボシビルスク学生のスピーチコンテスト」が4月から5月にかけて行われます。試験問題は派遣専門家が準備し、運営は日本語教師会です。これらの行事は主に都市の中心にある「シベリア北海道文化センター」で催されています(この施設は現在、日本文化紹介の拠点的存在になっています)。ただ、勉強会ではまだ消極的参加に留まっている教師も多く、今後どのように活性化させていくかが課題です。教師間相互の信頼関係の構築や、教師自身の日本語力を認めた上での助け合い、民主的な教師会の運営への方向付けなどに留意しつつ援助していきたいと考えています。

 日本語学習者数が「日本ブーム」や「日本経済」に大きく左右される現状の中、ノボシビルスクでの日本語教育の着実な発展は注目に値すると考えられます。ノボシビルスク地域の多くの学習者に、(私を含めた)「生の」日本人との接触の機会を作り、できるかぎり「生の」日本を体験させることで「道具として使う日本語」を意識してもらいたいと考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 ノボシビルスク国立大学人文学部東洋学学科日本語講座は、ロシア連邦シベリア地域における日本語教育の中心だといえる。この地域において日本語レベルの頂点にあると同時に、ノボシビルスクのみならず周辺都市で活躍する日本語教師・日本研究者を輩出してきた。学生の学習能力も高い。また、ロシア有数の国立大学でもあり、特に理数系の学部では、ロシアのトップ大学の1つ。専門教育が中心で、東洋学学科では日本語に力を入れている。
 派遣専門家の業務内容は、各クラスの会話授業と作文の添削、日本語や日本文化に関する特設選択授業の開催、ロシア人教師支援としてセミナー開催と教授法コンサルタントなどである。
ロ.派遣先機関名称 ノボシビルスク国立大学
Novosibirsk State University
ハ.所在地 Pirogova st., 2, Novosibirsk, 630090, Russia
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部、東洋学学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1970年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2000年
(ロ)コース種別
必須選択
(ハ)現地教授スタッフ
常勤4名(うち邦人1名)
非常勤0名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   39名(1年9名、2年13名、
3年8名、4年9名、5年0名)
(2) 学習の主な動機 日本文化・日本語への興味・関心
(3) 卒業後の主な進路 公務員、地元企業、大学院、他
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
H13年度:日本語能力検定2~3級、
H14年度:検定2級
(5) 日本への留学人数 累計4名

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