世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ロシアにおける日本語教育アドバイザー 広いロシアの細い糸

モスクワ国際関係大学
萩原幸子

ロシアにおける日本語教育アドバイザー

モスクワ日本語教育フェスティバルの写真
モスクワ日本語教育フェスティバル
「侍になってみたい!」
黒沢明監督映画「乱」から

 広大なタイガ(大森林)に落とされた一粒の芥子にも似て、ロシアにおける日本語教育アドバイザーの存在はあまりにも小さくロシアはあまりにも広い。しかし広いからこそ散らばっている点を結ぶ何らかの糸が必要かもしれないと考え、01年8月モスクワに赴任した。国際交流基金事務所や日本語センターといったものもまだなく、在露日本大使館広報文化部内の一角を拝借し、モスクワ国際関係大学で教えながら各地を訪問、実情を目にし関係者の声に耳を傾けて、アドバイザーとしてなし得る、あるいはなすべき役割をさぐってきた。まだ日も浅く漸く大使館の管轄内(サンクトペテルブルグを除くロシア主要部から西シベリアまで)にある日本語教育機関訪問を終えたところだが、以下モスクワとその他の地を例にアドバイザー活動の一端をご紹介する。

モスクワ市とその近郊で

 「モスクワはロシアではない」とよく言われるが、日本語教育に於いても他の地と実情を異にする。従来国際交流基金の支援は高等教育機関を中心に行われてきており、主要大学のレベルは高く教育環境も大体恵まれている。第一人者を任じるモスクワ大学付属アジアアフリカ諸国大学(以下ISAA)では今年度から大学院に日本語教授法講座も開設された。

 他方初中等教育機関における日本語教育は数年前に比べほぼ半減に近く、大学の附属リセを除くとコースの基盤も脆弱だ。激化する受験競争の中で入試に関係のない日本語を学ぶゆとりはなく、低賃金ゆえに教師になろうとする若手もいない。アドバイザーとしては先ず現在教えている教師を支えるのが急務であると考え、大学教師を中心にしてきた勉強会のほかに初中等教育機関の教師(以下学校教師)を中心に、教材・教授法研究会を始めた。回を重ねること半年、この4月には「日本語教育フェスティバル」と銘うった模擬授業集会を組織し、歌やドラマや遊びを含めたフェスティバルとして生徒と共に楽しんだ。この催しには、学校長や父兄を招待、ISAAの初中等教育研究室長や日本人学校長にもご覧いただくなど一層のご理解とご支援をお願いした。

 もちろん学校教師自身の日本語力アップも基本的な課題だ。長い夏期休暇に入る直前の今は週3回中級レベルの集中講義を行っている。教師の中には日本語力アップが少ない収入を補うアルバイト(翻訳・通訳など)に繋がらないかという切実な期待感もあり、多忙のなか熱心に通ってくる。「本当は一日中日本語を勉強したいんだ」という声には泣かされる。

ヴォルガ川中下流域で

 ニジニノブゴロド市とカザン市を訪問。ともに日本は「遠い」存在である地域だが、前者には日本政府支援の日本センターが01年秋開所、後者にも民間の日本文化情報センター「サクラ」があってともに社会人向けの日本語講座を開いており、文化活動にも熱を入れている。だが両地とも教師不足は深刻で、それぞれの中心的日本語教育機関であるニジニノブゴロド言語学大学とカザン国立教育大学で学ぶ学生たちの将来に負うところが大きい。そこで両校に派遣されている日露青年交流センターの日本人教師には教師養成を視野に入れて指導するようお願いするとともに、現在日本語教育を行っている機関やこれから始めたいと希望している機関を回り情況を視察、協力を依頼した。特にニジニノブゴロドのある初等教育機関で参観した異文化教育は教師の巧みな構成と話術で1・2年生の興味をしっかり引きつけており、その後そのカリキュラムはモスクワの研究会でも参考にさせていただくことになった。

 またカザンには日本の民間団体を通じて赴任していた教師もおり、従来お互いに面識もなかったが、アドバイザーの訪問を機に「たった三人の教師会」が結成され協力関係が期待できるようになったことも喜ばしいことの一つだ。

 この他西シベリアのノボシビルスクで現地講師と共に行ったセミナー、現地教師の学会発表・カリキュラム作成への支援などアドバイザー業務は多岐にわたるが、紙数が尽きた。要はより広い、長期的な視野に立って問題を見つめ、対策を考え、現場教師と共に解決を図ること、それが結果的に広大なロシアに散らばる拠点を結ぶ糸になってくれればと願っているのだが。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 モスクワ国立国際関係大学は、1944年にモスクワ大学の学部から独立、日本語教育は1954年9月に開始された。同大学は国際経済、国際法、国際関係、国際ジャーナリズム各学部が中心で、日本語は国際関係学部に所属し、韓国・モンゴル・インドネシア語と共に一学科をなす。今般、モスクワに派遣した専門家は、派遣先機関では週1日授業を担当しているが、他の日は、在ロシア日本国大使館と共同し日本語教育アドバイザーとしてロシア全体の日本語教育支援の見地から、教師の養成・研修、日本語教師会へのサポート等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 モスクワ国立国際関係大学
Moscow State Institute of International Relations
ハ.所在地 76 Vornadsky Prospect, Moscow 117454, Russia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

ページトップへ戻る