世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本から最も近い外国」での日本語教育(2002)

サハリン国立総合大学付属経済・東洋学大学
後藤 恵利
小野 崎亮

サハリンについて

 サハリンはロシア極東に位置する島である。北海道-サハリン間はわずか40㎞。日本から最も近い外国である。かつては「樺太」といい、北緯50度以南は日本であった。今、世界中がサハリンに熱いまなざしを注いでいる。豊かな自然、豊富な水産資源、そして石油、天然ガスである。

サハリンの日本語教育

 州都ユジノサハリンスク市には日本の水産会社、日ロ合弁会社、石油開発に携わる大手商社、そして総領事館、北海道庁事務所などの公的機関が数多く存在している。ロシアで日本とこれほど深く結びついている地はほかにないであろう。

 当然の事ながら、当地の日本語学習熱は非常に高い。理由は日系企業に就職するため、国際交流や経済交流での通訳・翻訳者になるためである。韓国・朝鮮系ロシア人の学生に関して言えば、近親者が日本人という場合がある。そのため身近な所に日本語環境があり、日本に対しての純粋な興味から日本語学習を始めた、あるいは近親者から日本語学習を薦められたという者が多い。これらのケースは他の都市と比べ、特徴的であるといえる。

サハリン国立総合大学について

 サハリン国立総合大学はサハリン(千島列島を含む)において唯一の国立高等教育機関であり、経済・東洋学大学は当地の日本語教育の中心的役割を担っている。卒業生はサハリン内外の教育界、経済界で活躍中である。

 サハリン国立総合大学に対する日本人教師の派遣が始まったのは1992年。本学講師陣はすべて過去の日本人教師に学んだ本学生え抜きの教師である。昨年度日本語教師会が発足し、またサハリン州スピーチコンテストが開催された。このように当地における日本語教育は組織化されてきている。

今年度の取り組み

 今年度は以下の二つを念頭に活動してきた。
一つ目は「マンパワー」から「サポート役」へのシフトである。これまでは専門家としてより一教師として教壇に立つことが主だった。今年度は現地教師との連携を強め、大学上層部に学科内の状況をこまめに報告し、積極的に提言を行った。また他学科の教師とも意見交換を行った。

 二つ目は学習者、大学側と在留邦人との交流である。昨年度日本人会の協力を得て「日本語会話クラブ」を発足させた。これは日本人会員有志と日本語学習者の交流会で、月1回開催している。特筆すべきは「日本語会話クラブ」の相乗効果である。参加いただいた日本人会員の多くが当地の日本語教育に関心を示し、様々な形でご協力を申し出てくださった。各事業所で本学の学生を企業実習生として受け入れてくださったり、講演を引き受けてくださったりした。また会員の夫人が、慢性的な教師不足という状況を知って、日本語教師のボランティアを申し出てくださった。この方には現在、アシスタントティーチャーとして1年生の授業に参加していただいているが、来年度は正式採用される予定である。

 本学には現地採用の日本人教師が3名いる。授業計画や教材開発、教材分析を共同で行っている。現地採用の日本人教師は日本語教授経験も、経歴も様々である。会社経営者として、またボランティアで日ロ交流、経済交流に長く携わってきたという方、大学でロシア語専攻、日本語教育副専攻したという方、教育関係の仕事を長くやってこられたという方、それぞれが豊かな経験をお持ちである。

 日本語教育は専門家によってだけ行われるというわけではない。ボランティア教師の養成と支援、そして周囲に日本語教育の現状を発信し続けることも私たち派遣専門家の大きな使命であると考えている。

来年度に向けて

 来年度の卒業論文に向けた取り組みを始めている。本学5年生は卒業論文を書くことになっているが、これまでは5年生になってから慌てて準備を始める学生が多く見受けられた。今年度は4年生のうちから卒論執筆を意識させ、卒論テーマの選び方、資料収集方法などを指導している。今回4コマ(計360分)を割いて、ブレーンストーミング(集団思考)を実施した。学生に卒論執筆の意義を理解させ、意欲を高める機会になった。実施要領は以下の通り。

  • 1コマ目
    日本語と聞いて連想するもの、日本語について思うことを自由に発言させた。学生から出た発言(例:擬音語・擬態語、あいまいさ、敬語、漢字を覚えるのが難しい)をA5版の紙に書かせ、これを木の葉に見立て、黒板に張っていった。次に各発言(木の葉)を文法、漢字、会話、音声、文化等、各研究領域(枝)に分別した。
  • 2コマ目
    1コマ目で分別した各研究領域をさらに細かく分類。それを卒論テーマとした場合、どんな資料が必要か、またどのように資料収集したらよいか、自由討議を行った。資料収集(談話収集と分析、例文収集と分析等)の重要性を強調した。
  • 3コマ目
    今年度5年生の卒論5例をケーススタディーに取り上げた。テーマの絞り方、資料収集方法について検証、自由討議を行った。
  • 4コマ目
    卒論テーマの発表会を行った。テーマや資料収集方法について自由討議。討議を通して、各自の卒論の方向性を明確にさせることと、学生間の情報共有を目的とした。

 本学の学生は卒業後、日本の大学院へ留学を希望する者が多い。また教職を希望する者もいる。将来の専門家養成を視野に入れ、日本でも通用するような、質の高い学士論文を目指し、指導をしていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 サハリン国立総合大学はサハリン州およびサハリン州管轄の千島列島(クリル諸島)において、唯一の国立総合大学であり、経済・東洋学大学は当地の日本語教育の中心的役割を担っている。平成11年度から行われているサハリン州日本語弁論大会や、平成12年度に発足した日本語教師会など、当経済・東洋学大学が中心となり運営している。毎年20人程度の学生が本学を巣立ってゆく。多くの卒業生がサハリン内外の教育界、経済界で活躍しており、社会的貢献度は高い。
 専門家は日本語教授、カリキュラム・教材作成の助言、現地教師育成、日本語会話実践の場作りを行う。
ロ.派遣先機関名称 サハリン国立総合大学付属経済・東洋学大学
Sakhalin State University, Institute of Economics and Oriental Studies
ハ.所在地 Kummunisticheski Prospect 33, Yuzhno-Sakhalinsk,69300, Russia
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:2名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
経済・東洋学大学 東洋学部 
言語学科/東洋学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1989年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
言語学部と東洋学科:主専攻。経済学部:選択科目
(ハ)現地教授スタッフ
常勤7名(うち邦人3名)。非常勤4名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻156名(20,18,16,21,18)
副専攻63名
(2) 学習の主な動機 日系企業への就職、通訳/翻訳者、
近親者が日本人、日本への興味
(3) 卒業後の主な進路 就職(一般企業、日系企業)、
他専攻への進学、兵役
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験1~2級合格レベル
(5) 日本への留学人数 4~5名

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