世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ロシアの中のアジア、ウラジオストクの日本語教育

極東国立総合大学 東洋学大学
山田光子

金角湾をのぞむの写真
金角湾をのぞむ

 "日本に一番近いヨーロッパ"の異名を持ち、韓国、中国などアジアの影響を映す街――それが、ウラジオストクである。新潟空港からわずか1時間半という距離から、人々の日本に対する感情は近く、また非常に好意的である。日本語教育においては、就職難も反映してか数年前にピークを過ぎ、現在は中国語や韓国語にリードされている感は否めない。しかし、現在でも大学のみならず、多くの機関で約3000人が日本語・日本文化を学んでおり、日本への憧れや興味は健在である。

 そのウラジオストクにおいて、派遣専門家に求められているのは、まず派遣先機関である極東国立総合大学東洋学大学を含め、5大学で日本語教育に携わる日本人教師に対するサポート、および「日本人教師会」の開催である。現在、教師会に所属している教師は11名であり、その多くが既に日本語教授法を何らかの形で学んだ経験を持っている。したがって、従来は「勉強会」という位置付けであった教師会だが、現在は各機関の状況、問題点の改善等を自由に話し合える関係作り、さらにアドバイスを目的とした「情報交換の場」として機能し、約2か月に1度のペースで開催。必要に応じて、別途会合も設けている。また、ウラジオストクでは5月の「富山県主催ウラジオストク・スピーチコンテスト」、夏の「島根県主催エッセイ&かるたコンテスト」、12月の「日本語能力試験」等の行事も多い。その際の各機関や教師への協力要請等も派遣専門家の役割である。いずれにしても、各教師とのコミュニケーションを大切にし、様々なニーズに応じる柔軟性が求められる立場と言えるだろう。

 また当地では、派遣先機関がその歴史と実績から、地域における日本語教育の中心としての役割を担っている。しかし近年、学生数の増加および教師側の指導力等、諸問題によるレベル低下が顕著となり、また専攻・副専攻を問わず他大学の健闘も目立つことから、その絶対的地位が揺れつつあることは否定できない。特に、裕福な家庭の学生の中には、学習意欲のみならず学力そのものに疑問がある学生も多く、全体的な評価として学生は「プライドが高すぎる」「知識はあるが会話力がない」「覇気がない」「マナーが悪い」等、厳しい声も外部から聞かれるのである。

それを裏付けるような出来事もある。私は各種留学試験における面接を担当することも多いが、ある面接では、他大学の学生が面接マナーを心得ているのに対し、当大学の学生は基本的なマナーを軽視している印象を持った。数年前まで、公費留学生選抜においては無条件に当大学が優遇されており、その時代の名残で大学自体に「知識があればいい」「何があってもこの大学が一番」という空気が強いのである。実はこれが、私自身が着任当初から感じていた"違和感"であった。

試験風景の写真
試験風景

 派遣専門家として2年目となる本年度、まず、大学内に流れるそういった風潮を打開することから始めた。まず、面接試験に臨む学生に対し、座り方、答え方、挨拶の仕方など基本的なことをレクチャーし、日本語力だけではなく、マナーの重要性を認識させた。また、学年を問わず学習意欲の高い学生をサポートするために、日本語能力試験や文部科学省留学生試験対策のクラスを開講。熱心に参加していた学生たちがそれぞれ結果を出し、合格証を手に嬉しそうに報告に来てくれるのは、実に嬉しいものである。
そんな中、昨年秋にモスクワで開催された「第16回全CIS学生日本語弁論大会」において、当大学の学生が優勝。学生たちの間に「やればできる」という前向きな空気が生まれたことは、何より嬉しい変化であった。

 もちろん、講師陣への働きかけという役割も大きく、昨年度に引き続き心がけてきた。当大学では日本語講座の歴史が非常に長く、日本研究の拠点でもあることから、日本語講師陣の年齢は高く、教授、助教授も多い。つまり、日本語講師というより"日本"の研究家が多いのである。したがって派遣専門家としては、こちらから"何か教える、指導する"というスタンスではなく、信頼関係に基づいたアドバイザー的な立場を築いている。また、経験の浅い教師に対しては、レクチャーを提案し個別指導を行っている。

このように、地域においては主に日本人教師全体のリーダーとして、また派遣機関においては教師・学生ともに"質"の向上を目指し、大学が地域の"真のリーダー"として機能できるよう、今後ますます専門家の役割が重要となっていくであろう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
前身である東洋学院からの日本語教育の歴史と実績は、ロシア国内でも広く知られている。1962年に極東国立総合大学東洋学大学が設立され、日本語の他にも中国語、韓国語および東南アジア地域言語の専攻を設け、ウラジオストクのみならず極東地域における研究拠点として君臨している。学内には外国人向けのロシア語学校も有し、幅広く語学留学生を受け入れており日本人留学生も多い。また、北海道・函館には極東国立総合大学函館校があり、ロシア語・ロシア文化等におけるスペシャリストを育成している。専門家は、大学の通常授業に加え、現地教師の個別指導も担当。また日本人教師会を定期的に開催している。
ロ.派遣先機関名称 極東国立総合大学 東洋学大学
Far Eastern State University,Oriental Studies Institute
ハ.所在地 39 Okeansky Prospect, Vladivostok, 690600 Russia
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1899年
(1939年~1956年閉鎖)
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻(1.言語学 2.日本史 3.日本経済の各クラス編成)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤17名(うち邦人教師3名:派遣専門家除く)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   276名(1年63、2年52、3年64、4年53、5年44)
(2) 学習の主な動機 「日本文化・歴史・文学等への興味」「留学」「日本企業への就職」
(3) 卒業後の主な進路 「大学院・留学」「日露合弁企業等への就職」他
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級合格程度(1級レベル数名)
(5) 日本への留学人数 10名程度

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