世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ハバロフスクの日本語教育事情(2004)

ハバロフスク国立教育大学
杉本 和子

日本語クラブの様子の写真
日本語クラブの様子

 ある授業の風景。「ハバロフスクは○○として有名である」という文を学生に提示して例文を作らせると、真っ先に出てくるのが、「ハバロフスクは極東地域の首都として有名である」だ。この例文が示す通り、ここハバロフスクは極東地域の政治・文化の中心であり、経済成長も目覚しい。一年の3分の1が雪と氷の世界となり、マイナス30度を下回るハ
バロフスクだが、夏は明るい日差しとまぶしいほどの緑に覆われ、プラス30度を超える時もある。この季節には、日本人観光客を連れたロシア人ガイドを街の至る所で目にすることができる。このガイドたち、実はほとんどが学生だ。
 ハバロフスクには幾つかの日本語教育機関があり、私の派遣されているハバロフスク国立教育大学はその頂点に立つ。ハバロフスクの主な日本語教育機関の講師はハバロフスク国立教育大学の卒業生だ。年々学生数が増加し、東洋語学部日本語学科という一つの学科でありながら、現在講師数は10名、学生数は200名を超える。学生は大学の授業のみならず、旅行社のガイドコースを受けたり、日本文化関係のイベントに参加したり、日本語クラブで日本人留学生と交流したりなど、積極的に活動を行っている。
 日本語を学習する学生の増加は、ハバロフスク国立教育大学だけのことではない。ハバロフスクの日本語教育機関はどこも学生数が右上がりである。これはハバロフスク地域が日本に関心が高く、日本と友好関係にあるということの現れであろう。昨年から今年にかけて、「ロシアにおける日本文化年」ということで様々な催しが行われた。狂言、歌舞伎、生け花、茶道といった伝統的なものから、日本人アーティストによる絵画展、クラッシクやジャズコンサート、日本映画際など多岐に渡っていたが、どれも会場は満員で大盛況であった。第5回を迎えるハバロフスク市内日本語弁論大会では、初級学習者の参加の場を広げようと今年初めて暗唱の部を設けたが、大学で日本語を学習している学生に加え、一般の社会人や個人的に家庭教師をつけて学習している学生、中等教育の生徒など幅広い参加があった。

大きなカブの写真
大きなカブ

 しかし、高まる日本語熱とは対象に、日本語教師の働く環境は決して快適であるとはいえない。待遇面の悪さから兼業する人が大半で、中には全く職種を変えてしまう人もいる。大学を卒業したての若手教師が多いが、仕事上の悩みや問題を相談できる指導者が見つからず、一人で抱え込んでしまうケースも多い。また大学側にも彼らを育てていこうという意識が見られず、また実際その余裕はないようだ。これらの状況の中で、派遣専門家としての私の役割は、若手教師育成と大学を超えた教師間のネットワーク作りであると考えた。若手教師には毎週勉強会を行い、授業プランの立て方から、教材の紹介とその扱い方、学習上の困難点など若手教師の要望に沿った内容を準備した。教師間のネットワーク構築のため、まず教師達が一同に会する場を設けること、問題点を共有し連帯感を持たせること、教師自身の日本語力・日本語教育能力への向上心を持たせることを目的とし、日本語教育セミナーを開催した。この日本語教育セミナーは、総領事館の協力を得て、本年度は4回開催することができた。
日々の生活に追われ、個人主義のロシア人教師たちを取りまとめていくことは容易ではない。しかし、勉強会やセミナー開催後、参加者の「役に立った」という感想はその苦労を忘れさせてくれる。「サポート」という立場を忘れず、全体を見渡し、ハバロフスクの日本語教育向上へ貢献していくことが、派遣専門家の求められる役割であろうと私は考えている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ハバロフスク地方において、当大学は、ハバロフスクの日本語教育の中心的役割を担っている。卒業時に日本語及び英語教師の資格が得られ、主な日本語教育機関で活躍する日本語講師の大半は当大学の卒業生である。2001年度からは「通訳養成コース」が設置され、より実務的な日本語の専門家養成を目指すこととなった。専門家は会話クラス担当、授業計画、授業内容、教材へのアドバイス、若手教師の育成を行う。本年度は3・4年生の授業を平均9コマ(学期によって異なる、90分/1コマ)に加え、若手教師勉強会(1コマ/週)を行った。
ロ.派遣先機関名称 ハバロフスク国立教育大学
Khabarovsk State Pedagogical University
ハ.所在地 Karl Marx st.68 68000 Khabarovsk, Russian Federation
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋語学部日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1991年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤8名(うち邦人名) 非常勤 2名(うち邦人)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   203名(1年47、2年59、3年37、4年32、5年28)
(2) 学習の主な動機 日系企業への就職、日本留学、日本文化への興味、通訳
(3) 卒業後の主な進路 日本語教育機関、日本国総領事館、旅行社、ホテルなどに就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 2名程度

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