世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) “学生の街”に活気ある日本語教育を

極東国立総合大学 東洋学大学
山田光子

 ウラジオストクの街を歩いていると、まず感じるのがアジアの空気を纏っていることである。通りには日本車と韓国製のバスがあふれ、市場で働く東洋系の人々も多く、まさに「ロシア人とアジア人がともに生活している空間」という印象を受ける。また、若者が多いことに驚く人も多い。人口約60万人のうち、通信教育も含めると実に12万人が大学生とも言われ、“アカデミックな街”としての顔も持ち合わせている。最近ではファッショナブルな学生も増え、明るい彩りと活気を添えている。

ビデオ授業が行なわれる視聴覚教室の写真
ビデオ授業が行なわれる視聴覚教室

 そんな当地における日本語教育のリーダー的な存在が、専門家派遣先機関の極東国立総合大学東洋学大学である。派遣先機関で専門家が求められているのは、まず若手教師の育成。当機関の日本語講師陣には、教授経験30年を超えるベテランも多く、逆に若手が育ち難い環境であるとも言える。そういった意味で、単に技術・知識面だけではなく、精神的な部分でのフォローにも努めている。また、ベテラン講師陣からはネィティブの専門家としてアドバイスを求められることも多く、それぞれのプライドを考慮しつつ応えるようにしている。伝統校ゆえに急激な変化は望めないが、講師一人一人に時代に“応じた日本語教育”を考えてもらえるよう働きかけていきたいと考えている。そのためにも若手、ベテランを問わず、授業見学などを積極的に行なってる。

 当然ながら、学生のレベル向上も大きな目標であり、通常担当している学生だけではなく、より多くの学生たちへの働きかけを心掛けている。現在、日本学部だけで280名程の学生がおり、通常の授業ではごく限られたクラスしか担当できないのが実情だ。そこで、日本語能力試験対策(1、2級)、文部科学省奨学金留学生試験対策等、学年を問わず希望する学生を対象とした特別クラスを開講し、やる気のある学生へのサポートを心掛けている。特に、日本語学習者として心得て欲しいマナーも教え、「難しい知識はあるが、コミュニケーション能力がない」「プライドだけが高く、マナーを知らない」という、厳しい評価を向けられがちな当大学の学生の意識改革にも努めている。派遣3年目となり、学生達の間で少しずつ「大切なのは知識だけではない」という意識が芽生えているように感じられるのは、実に嬉しいことである。

2004年度「ウラジオストク日本語スピーチコンテスト」入賞者の写真
2004年度「ウラジオストク日本語スピーチコンテスト」入賞者

 また、2003年、2004年と「全CIS学生日本語弁論大会」において当機関から優勝者を輩出している。特に2004年は1位&2位を獲得、1位に輝いたのが2年生ということもあり、他の学生にとっても大きな刺激となっている。ただ、大学の「順位にこだわる風潮」にはやや抵抗を感じる。スピーチ指導者の1人として感じることであるが、時間をかけて学生と向き合うことで、学生たちの目がスピーチへの意欲で輝いてくる。さらに、日々の努力により自信を身に付けていくのが表情でわかる。そういった学生の成長のプロセスこそ大切なものであり評価すべきであって、「1位になることが目標」というものではないことを、大学側にも強くアピールしていきたいと思っている。

 地域全体における専門家の役割であるが、まず各大学で日本語教育に関わっている日本人教師のリーダーとして機能することである。2ヶ月に一度のペースで開催している「日本人教師会」の運営をはじめ、日常的なコンタクトにより各機関の状況把握に努めている。また、教材や授業についての相談があれば、随時応じている。当地の日本人教師は年々減少しており(待遇面の厳しさもあるが、各機関で外国人教師枠を設けている等の理由による)、お互いの協力がますます必要となっている。今後も、在ウラジオストク日本国総領事館、ウラジオストク日本センター等のご協力を得ながら、連帯を図っていくつもりである。

 3000人とも言われるウラジオストク周辺の日本語学習者数は、極東地域でも群を抜いている。しかし、残念ながら、各機関における日本語教育熱の温度差は年々開いているようにも感じる。地域全体が真のレベルアップを図るためにも、派遣先機関だけではなく、各機関のつながりを密にし、“切磋琢磨”を目指したいと考えている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1899年に創設された「東洋学院」からの長い歴史と伝統を誇る、ロシアにおける日本語教育の代表的機関である。現在は、極東国立総合大学東洋学大学日本学部として、日本語及び日本研究の極東における拠点となっている。ウラジオストクの日本語教育を支える人材の多くが当機関の出身であり、ロシア全域及び日本において、通訳・翻訳家として活躍している卒業生も多い。学内には外国人対象のロシア語学校、北海道・函館には函館分校を有し、日本人との交流の機会に恵まれた環境であると言える。専門家は、大学の日本語授業担当、現地教師サポートの他に、日本人教師会の運営、各種行事の補佐等を行なっている。
ロ.派遣先機関名称 極東国立総合大学 東洋学大学
Far Eastern State University,Oriental Studies Institute
ハ.所在地 39 Okeansky Prospect, Vladivostok, 690600 Russia
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1899年
(1939年~1956年閉鎖)
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻(1.言語学・日本文学 2.歴史 3.日本経済のクラス別)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤17名(うち邦人2名)、非常勤1名(邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   284名(1年49、2年60、3年53、4年62、5年60)
(2) 学習の主な動機 「日本文化、経済等への興味」「留学、就職希望」「親の勧め」「日本への憧れ」
(3) 卒業後の主な進路 「大学院、留学等の進学」「通訳、ガイド」「日露合弁企業」
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度(1年以上の留学経験者は1級レベル)
(5) 日本への留学人数 年間10名程度

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