世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日露の未来を担う、サハリンの学生と教師のために

サハリン国立総合大学付属経済東洋学大学
新 佳乃子

校舎遠景の写真
校舎遠景

 かつて樺太と呼ばれたサハリンは、現在、その豊富な石油、天然ガス資源に世界の注目が集まり、アメリカ、日本をはじめとする海外の大手企業が競って進出してきている。本学の卒業生も、大多数が市内の外資系企業に就職できる。その際、期待されるのは、英語と日本語の運用能力である。また、距離的に近いことから、既に一度は日本へ旅行したことがある、という学生が、毎年2~3割いる。夏休みには、外資系企業や通訳のアルバイトが引く手数多である。このような環境で日本語を学べることは、学生にとって大変恵まれたことであろう。

 しかし、一方、不利な点もある。いったん日本語教師となった者も、数年で企業に移ってしまうことが多く、教師の人材が育ちにくいという点である。もし外資系企業に就職すれば、初任給でも大学教師の給与の3倍から5倍という現状なのである。日本語教育を開始して既に15年目を過ぎた本学であるが、現在いる日本語講師のうち、常勤のロシア人教師は、教師になって8年目の学科長(但し育児休暇中)が1名いる他は、全員3年未満の若手教師たちである。これを、現地採用の日本人ボランティアで補っている。次年度の講師陣容は9月になってみなければわからない状況で、今のところ1~3名が抜けると見られている。

 このような中、日本語教育の専門家として派遣された報告者は、一週間に8コマの授業を担当するほかに、以下のような業務に取り組んできた。

  1. 1.教授法の指導、授業や教材に関するアドバイス、カリキュラムの調整、学年別会議の実施、などの、現地教師をサポートする業務。
  2. 2.教育実習、卒業国家試験、学力コンテスト、学内弁論大会などの学内行事を補助、または中心となって実施すること。
  3. 3.弁論指導、企業訪問、留学相談、日本語クラブなど、日本人専門家としてできる学生への課外指導。
  4. 4.サハリン市内の日本語教育機関を訪問するなど、地域の日本語教育に貢献するための活動。

開学記念日の様子の写真
開学記念日の様子

 特に4.では、今年3月にサハリン日本語教師会を発足させ、本学の現地教師をはじめ、他大学や、初等教育機関の教師に呼びかけて、毎月最終土曜日に集まり、教授法や、日本語力向上のための勉強会をしている。日本語の人気は、他機関にも及んでおり、多くの機関が、教師の人材不足と、教材不足に悩んでいる。それらを共有することによって、互いにサポートしながら、教師としての自覚や、やり甲斐が芽生えてくることを期待している。

 一方、将来に備えて、しておかなければならないこともある。俄か景気に沸くサハリン経済も、現在進行中の石油・天然ガス開発プロジェクトが終了する2007年には、一旦収束すると見られているからである。その時、サハリンの日本語教育の実力が問われることになるだろう。日本語以上に需要が伸びている英語や、新たに注目を浴びそうな中国語とも共存していって欲しい。そのため、サハリンでも日本語能力試験が実施できるよう、各方面に働きかけていきたいと考えている。これまでのところ、ロシア極東地域では、ウラジオストクで既に実施されているが、旅費の都合などもあり、サハリンから受験するものはほとんどいなかった。この試験を導入することで、サハリンの学生も教育機関も、自分達の日本語レベルを客観的に計ることができるようになるだろう。

 手付かずの大自然が残る一方で、大規模な国際開発プロジェクトも進行するサハリン。自分にも何かができそうだ、と学生達は感じ取っているようである。それを応援したいという気持ちが心からあるし、また、隣国日本について知り、国際社会にも目を向け、より良い選択をして欲しいと願っている。そのために日本語教育が果たす役割は、今後も大きいと感じている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
サハリン州(千島列島を含む)において唯一の国立高等教育機関で、当地の日本語教育の中心的役割を担っている。日本語弁論大会や、日本語教育セミナーは当大学が中心となって運営している。多くの卒業生がサハリン内外の教育界、経済界で活躍しており、社会的貢献度は高い。派遣専門家は日本語の授業のほかに、カリキュラム・教材作成の助言、現地教師育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 サハリン国立総合大学付属経済東洋学大学
Sakhalin State University,Institute of Economics and Oriental Studies
ハ.所在地 Prospect Kommunistichesky 33,Yuzhno-Sakhalinsk,RUSSIA
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋学部 言語学科日本語専攻/東洋学科日本語専攻
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1989年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
言語学科/東洋学科: 主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤10名(うち邦人3名) 非常勤2名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   計184名(47,47,33,38,19)
(2) 学習の主な動機 日系企業への就職希望
(3) 卒業後の主な進路 日系企業就職、他の企業へ就職、母校に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級を受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 3人程度

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