世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) “こころを育む”日本語教育を目指して

極東国立総合大学東洋学大学日本学部
山田光子

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東洋学大学のシンボル、与謝野晶子の詩碑

 地理的条件から親日家が多く、日本との交流が盛んなウラジオストクであるが、今年から新潟・富山との定期便数も増え、ますますお互いの距離が近づいた感がある。また、この数年間に誕生したお洒落なカフェやレストラン、サービスに添えられる笑顔など…明るく新しく街のイメージは確実に変化している印象を受ける。その主役となっているのが、実に人口の2割にあたる12万人とも言われる大学生たちのパワーである。

 ジュニア専門家の派遣先機関である極東国立総合大学東洋学大学は、1899年に「東洋学院」として創設されて以来、ロシア極東地域における日本語・日本研究の拠点として多くの優れた人材を輩出してきた。日本学部においても教授歴30年以上のベテラン教師も多く、“歴史と伝統”が引き継がれている環境だと言える。こうした中でジュニア専門家に求められているのは、次代を担う若手教師の育成およびフォローである。志を持ちながらも低待遇ゆえに教職を離れる者も少なくなく、優秀な人材の定着が長年の課題となっている。したがって、日本語教育のノウハウに加え、彼らの精神的な支えとしての役割も大きいと感じている。また、ベテラン教師に対しては個々との信頼関係を築いた上で、ネイティブ教師としての視点からアドバイスを行っている。

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日本留学への関心は高い(日本留学セミナー)

 東洋学大学における日本学部は、中国学部、韓国学部と並んで人気を呼んでいるが、他の2学部に比べて卒業後の就職の機会は恵まれているとは言えない。そうした中でも毎年50名以上の学生を集めている背景には、「日本語を使った仕事がしたい」という強い意志の他に、漠然とした日本への憧れが見え隠れする。学生のモチベーションにも大きな差があり、クラスにおけるレベル格差は大きな問題となっており、携帯電話の普及等によるマナー低下も著しい。こうした学生へのモラル教育も役割の一つであると考え、学部長に進言し今年度の後期は3年・4年の全8クラスを週1回ずつ担当した。通常の授業においては「留学や就職においては、知識だけではなくマナーに対する意識が必要である」旨を伝えつつ、希望者のみによる日本語能力試験や文部科学省留学試験の対策クラスを別途設け、より熱心な学生に対するフォローに努めた。

 その“フォロー”の一つとして、力を入れたのが学生へのスピーチ指導。大学側は『全CIS学生日本語弁論大会』での優勝を意識しているが、指導する立場として留意しているのは、結果よりもプロセスである。スピーチで重要なのは学生自身の意欲と向上心であり、練習に費やす時間そのものが学生を育てていると考えている。一番の目標は「学生が自分自身のベストを尽くせる」ことであり、結果そのものではない。達成感のある学生の笑顔こそ教師の励みであり、「来年は私も!」と意欲を見せる学生が新たに出てくれることが何より嬉しい。そして、スピーチコンテストを経験した学生たちの多くが日本への長期留学のチャンスを手にしているのも、非常に喜ばしいことである。

 今年も5月21日に『第13回ウラジオストク日本語スピーチコンテスト』が開催され、大学生・社会人の部では書類選考をパスした10名が出場、日本語教育機関の多い当地ならではのレベルの高いスピーチが披露された。専攻・副専攻を問わず他大学の健闘も光り、改めて地域の各大学が良きライバルとして切磋琢磨することの大切さを痛感した。

 そうした意味で、日本人教師会の運営もジュニア専門家の重要な役割である。同じ地域で日本語教育に携わる者として、様々な情報を共有し自由に意見を交換し合い、さらに問題を解決する場として機能。教師会開催以外にも常にネットワークを保ち、サポート体制を作ることができたと考えている。これは、まさに教師会メンバーを始め、在ウラジオストク日本国総領事館、ウラジオストク日本センター等関係者の協力によるものである。微力ではあるが専門家として当地の日本語教育に携われた4年間に感謝し、当地における日本語教育のさらなる発展を今後も陰ながら見守っていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
歴史的に日本との関係が深いウラジオストクにおいて、1899年創設という長い歴史と伝統を誇る日本研究の拠点である。日本学部の学生は日本語に加え日本文学・歴史・経済といった各専攻分野を持ち、多くの優れた人材が活躍している。ロシア語学校も併設されており、日本からの留学生も多い。また、極東国立総合大学函館校があり、短期留学などの交流も定期的に行われている。国際交流基金のジュニア専門家は、大学における通常授業はもとより、日本語能力試験対策等の特別クラス開講、派遣先機関の現地教師へのサポート、地域の日本人教師会の開催、各種試験およびイベント等の運営に関わっている。
ロ.派遣先機関名称 極東国立総合大学 東洋学大学
Far Eastern State University,Oriental Studies Institute
ハ.所在地 39 Okeansky Prospect, Vladivostok, 690600 Russia
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1899年
(但し1939年~1956年閉鎖)
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻(1.言語学・日本文学 2.歴史 3.日本経済)別クラス編成
(ハ)現地教授スタッフ
常勤16名(うち日本人教師3名)、非常勤1名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   256名(1年52、2年43、3年50、4年54、5年57)
(2) 学習の主な動機 日本への親近感・憧れ、日本文化への興味、親の影響・意向、家業を手伝うため
(3) 卒業後の主な進路 大学院等に進学、観光会社に就職、日本企業に就職、大学に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級
(5) 日本への留学人数 10数名(長期のみ)

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