世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 青空の都市ハバロフスクで輝く日本語学習者達

極東国立人文大学
原田かおり

 「ハバロフスクの空」と言われて思い浮かぶのは、澄み渡るような雲ひとつない青空と輝く太陽である。実際、ハバロフスクは世界で最も日照時間の長い地点の一つだと言われている。学生に「休みの日には何をしていますか。」と聞くと、必ずと言っていいほど、その答えの中に「散歩」というのが入っているのだが、散歩したくなるのがわかるぐらいハバロフスクの空は気持ちいいのだ。

 この明るい空と明るいハバロフスク市民との交流を求めてか、近年、特に春から夏にかけて日本からの観光客が多く、その観光客のガイドの仕事は当地の日本語学習者にとって憧れのアルバイトの一つになっている。派遣専門家が赴任している極東国立人文大学は、昨年度まではハバロフスク国立教育大学という名称で教師を養成する大学であったが、現在は日本語学科で教師養成コースが残っているのは4、5年生のみで、1~3年生は全て通訳翻訳コースである。教師養成を支援する立場としては残念なことだが、これも教師とガイドの給料の差を考えると止むを得ないのかもしれない。しかしながら、通訳翻訳コースにおいても確固としたシラバスやカリキュラムがあるわけではなく、レベルの高い通訳者、翻訳家養成のためのプログラムや教師養成、教材作成が今後の課題となっている。

 赴任地における派遣専門家の役割としては学内では中上級の学習者の授業を担当する他に、現地教師へのアドバイス、教材作成補助、日本語クラブ顧問、弁論大会・進路セミナーの運営、現地日本人とのパイプ役等がある。一方、学外ではハバロフスクの日本語教育機関の取りまとめをするという大きな役割が任せられている。月一回のハバロフスク日本語教師会の運営をするとともに、任地の日本語教育機関全体のネットワークがうまく機能するように気を配る必要もある。

弟7回ハバロフスク弁論大会の写真
弟7回ハバロフスク弁論大会

 在ハバロフスク日本国総領事館と日本語教師会が主催するハバロフスク弁論大会は、ハバロフスクの日本語教育を紹介する上で外せないものである。今回7回目を迎えた弁論大会であるが、ハバロフスクの弁論大会の特徴は初級学習者対象の暗唱の部があることだ。詩部門、物語部門があるが、ロシアの学習者は子供のころから暗唱することに慣れているからか、申込者が多く、予選に丸一日かかるほどだ。因みに今年の題材は詩部門が谷川俊太郎の「朝のリレー」、物語部門が夏目漱石の「夢十夜~第一夜~」であった。また、スピーチの部においては、今年度、新しい試みとして、これまで出場資格のなかった日本滞在90日以上の学習者を対象とした特別枠を作った。この特別枠を設けたことにより、初等教育機関の学習者や社会人、大学の夜間部の学生が始めてスピーチの部で発表することができた。このことは、ハバロフスク全体の様々な日本語学習者にスポットを当てることができたと言う点で有意義であったと考えている。

国際料理教室 たこ焼きに挑戦するロシア料理代表の学生の写真
国際料理教室 たこ焼きに挑戦するロシア料理代表の学生

 また、学内の日本語教育において自分に何ができるかを考えた結果、現地の日本人とのパイプ役になることも求められている役割の一つだと考え、学生に「日本人との交流イベントを企画、実行する」という課題を出した。学生が企画したイベントはホームページやEメール、電話で現地の日本人に紹介し、学生はそれぞれのイベントの参加希望者と共に企画を実行した。その企画は、国際料理教室、血友病の子ども達のための慈善会、ロシアのダンスレッスン、スケートレッスン、サーカスツアー、ロシアの映画招待、交流パーティーなど様々なものがあり、参加してくださった日本人の方々からも、楽しかったとの感想をいただいた。学生にも普段の授業では見られない笑顔、日本語を話そうとする意欲が見られた。そして、何より同じ興味を持つ者同士の国籍を超えての交流ができたことを学生達は喜んでいたようだ。与えた企画ではなく、自分たちが考えた企画だということもよかったのかもしれない。このような企画を実行するには相当の準備が必要であるが、生きた日本語コミュニケーション能力を身につけ、本からではなく、日本人と接することにより得た知識を増やしていくことも大切だと考えている。

 このように、派遣専門家は日本語教育の支援以外に、赴任地と日本との相互理解を促進するという大切な役割を担っている。日本から飛行機で2時間のこの地は様々な可能性を秘めている。今後も派遣専門家の業務が日本とハバロフスクの双方の発展に貢献できるよう努力を続けていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ハバロフスク地方において、当大学は、この地における日本語教育の中心的役割を担う。卒業時には日本語及び英語教師の資格が得られる。卒業後は日本語教育・日本関係機関で活躍している。2001年度からは「通訳養成コース」が設置され、より実務的な日本語の専門家養成を目指すこととなった。派遣専門家の業務は中・上級の学生の指導、現地教師へのアドバイス、教材作成補助、現地の日本人とのネットワーク形成補助が中心となる。また、週1回の課外クラブ「日本語クラブ」の顧問としても活動を行う。その他、ハバロフスク日本語教師会のまとめ役として働くことが求められる。
ロ.派遣先機関名称 極東国立人文大学
Far Eastern State University of the Humanities
ハ.所在地 Karl Marx st.68 68000 Khabarovsk, Russian Federation
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋語学部日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1991年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤 12名(うち邦人0名) 非常勤 6名(うち邦1人)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   183名(1年29、2年35、3年35、4年47、5年37)
(2) 学習の主な動機 日系企業への就職希望、留学、日本文化への興味、通訳者・翻訳家希望、日本語教師希望
(3) 卒業後の主な進路 日本語教育機関、日系企業、旅行社、ホテル、一般企業に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 3,4名程度

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