世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ウラジオストクで日本語を学ぶ

極東国立総合大学 東洋学大学 日本学部
坂本裕子

コンピュータールームでの聴解授業風景の写真
コンピュータールームでの聴解授業風景

 新潟空港から空路で1時間半。富山、函館への航路もあり、ウラジオストクはロシアの中でも比較的日本に近い存在といえる。アジアに接するという地理性もあり、西洋風の建築物の立ち並ぶ街にはアジアの香りも感じられる。その中でも歴史的経済的にゆかりの深い日本に対するイメージはよいと言え、ロシアの中でも親日といわれる。経済面では、特に中古自動車輸入業が盛んであり、街を走る自動車の9割までもが日本車である。最近では、食品から日常品にいたる日本製品を扱う店も増え、一般の人々が日本製品に接する機会も増えている。

 私が派遣されている極東国立総合大学は、1899年の大学創設時より日本学部が設置され、極東地域の日本学日本研究の拠点機関である。極東大学で日本語を学ぶ学生は子供のころから日本や日本文化に憧れと関心を持ち、最近ではアニメの影響から日本語を選択したという学生もいる。入学時には日本語と日本文化研究に熱い思いを持っている学生が多いが、大学で5年間日本語を学習し続けるという途上で、それぞれに異なる困難に出遭い、意欲を減退させるケースや将来的な就職の受け皿の少なさにその熱を奪われるケースも少なくない。それでも熱心に日本語や日本に関する知識を高めようと努力し、着実に学習を進めている学生がいる一方で、卒業時に日本語で自分の意思を伝えることすら苦労する学生もいる。両者の差は高学年ではすでに大きく開いており、教師はその差を埋めることはもとより、総体的な意欲とレベルの低下を食い止めることに力を注がなければならない。この問題の解決には、しっかりとした基礎作る低学年から高学年への無理のない移行が不可欠であると認識する。教師陣には優秀な研究者が多く、若手教師も自身に研究課題を持ちながら日常の授業への工夫と改善に努めている。今後、学生ェ卒業時までに着実に日本語力を身につけられるよう、教師間の情報共有等の連携が望まれる。

 ウラジオストク全体の学生に関して、ロシアの教育システムにより17歳前後で大学に入学する学生は純粋でまじめではあるが、主体的に何かをするという士気は希薄であり、全体的に受身である印象を受ける。弁論大会等で自身の学習の成果を発表する機会もあるが、そのチャンスをつかめるのは2,500人とも言われるウラジオストク日本語学習者のほんの一握りに過ぎない。個々に日本への思いを募らせながらそれを吐き出す場所もなく、課外時間をアルバイトに費やしているのを見るのは非常に残念である。

ウラジオストク学生文化祭の写真
ウラジオストク学生文化祭

 2007年5月、ウラジオストク日本語弁論大会に際し、大学で日本語を学習する学生が主体となり企画運営する「ウラジオストク学生日本文化祭」を開催した。当日会場となったウラジオストク日本センターセミナールームには、書道やおりがみ、日本に関する写真や絵画など学生の作品が展示され、ステージでは各大学の学生による日本語の歌や劇、詩の朗読、ダンスなどの発表が行われた。また会場には各機関の教師や学生など約100人が観覧に訪れ、盛況のうちに終えることができた。

 文化祭を運営した5大学の学生20名は、在ウラジオストク日本総領事館、ウラジオストク日本センター、日本人・ロシア人教師の協力も得、約2か月間、リーダーを中心に毎週集まり、準備を進めた。全てが初めてのことであり、受身の印象の強い学生の活動には不安があったが、学生達は各大学でステージ発表や展示作品を集め、招待状やポスター、日本語とロシア語での司会シナリオを作成し、当日までの作業を自分達の力でやりきった。翌々日に行われたウラジオストク日本語弁論大会では、文化祭でリーダーを務めた学生が優勝し、文化祭にかかわった学生達が各々の大学に関係なく歓声を上げ抱き合って喜び、来年も文化祭を行い、スピーチコンテストにも出場したいと意欲を高めていた。文化祭により、学生時代に大学間の垣根を超え、同じ日本語を学ぶ学生として他大学の学生と協力して活動を行い、自分達の力で何かを成し遂げたという達成感を経験できたことは有意義なことであると思う。今回集まった学生達が、今後各大学において中心的な存在となり、それぞれの大学の日本語学習活動を支えていってくれることを期待したい。

 また、ウラジオストク教師会は、ここ数年日本人教師の参加によるものしかない。待遇等の問題により日本人教師数は年々減少傾向にあり、短期間で交代する日本人教師のみによる種々のイベント維持は厳しい。しかしながら、2006年10月に当地で開催された「極東・東シベリア日本語教師セミナー」の際、5組のロシア人教師(うち1組はユジノサハリンスク教師)が発表を行い、文化祭練習時にも日本人教師だけでなくロシア人教師が関わったことは、今後ロシア人主体の日本語教育活動につながるものと期待される。

 ウラジオストクはモスクワ、サンクトペテルブルグに並ぶ日本研究、日本語教育の拠点とされ、優秀な人材も多く、日本からの情報も得やすい環境にある。しかしながら日本語教育の現場ではそれらがうまく生かされていない、あるいは整理されていないという印象を受ける。2007年度、ベテラン、中堅、若手関係なく、各機関の教師同士が顔を合わせる機会を増やすことを目的に、総領事館、日本センターのご協力のもと、さまざまなイベントを行った。ロシア人教師の中には教授法の勉強に意欲的な教師もいることから、日本人ロシア人関係なく多くの教師が顔を合わせ、互いに連携できる関係と環境作りが今後の課題である。今後、学生間の連携が徐々に教師間へと波及し、最終的にはウラジオストク日本語教師会がロシア人主体のものとなり、ウラジオストクの地に見合った日本語教育活動が継続されることが望まれる。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
極東国立総合大学は38の学部、28の分校(日本では函館に分校がある)、26の研究所、10の教育センターを有し、ロシアにおける重点大学の1つであり、その名は広く知られる。東アジア研究においてはモスクワ、サンクトペテルブルグに並びロシアを代表する機関であり、日本学研究における優秀な研究者を多く輩出、極東地域における日本研究の拠点となっている。ジュニア専門家は派遣先機関においては日常的な授業、日本語弁論大会指導、日本語能力試験等各種試験対策、現地教師サポートを行い、任地においては、日本人教師会運営、日本語弁論大会、日本語能力試験等イベントへの参画、現地教師ネットワーク作り等を行う。
ロ.派遣先機関名称 極東国立総合大学 東洋学大学
Far Eastern State University,Oriental Studies Institute
ハ.所在地 39,Okeansky,Prospect,Vladivostok,690600 RUSSIA
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1899年
(1939年~1957年閉鎖)
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻(日本語学・日本文学、日本史、日本経済を選択)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤22名(うち邦人2名、日本留学中6名)。
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   250名(1年50、2年51、3年41、4年51、5年57)
(2) 学習の主な動機 「日本文化・経済等への興味・関心」「将来の就職のため」「日本への憧れ」
(3) 卒業後の主な進路 ロシア企業、ロシア公官庁、通訳・ガイド、日ロ合弁企業等
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 年間15名程度

ページトップへ戻る