世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ウラジオストクの日本語教育活動と日本文化活動

極東国立総合大学 東洋学大学 日本学部
坂本裕子

 ウラジオストクに派遣されて2年目となる今年度は、これまでウラジオストクの日本語教育の課題であった、機関を越えたロシア人教師の連携と学生の連携を図ることを中心に活動している。ウラジオストクでの日本語教育活動、日本文化活動に、極東国立総合大学及びウラジオストクのロシア人・日本人の先生方、在ウラジオストク日本国総領事館、ウラジオストク日本センターをはじめとする関係機関の皆様にご理解とご協力いただいており、このことを何よりも感謝している。

大学での授業

極東国立総合大学2年生のビジターセッションの写真
極東国立総合大学2年生のビジターセッション

 会話力重視という学部の方針の下、会話の授業を担当する教師達が相談し、5年間の学習期間を見越した教材選び、授業計画の作成を行っている。今年度、1~4年生でビジターセッションも行った。ビジターをお願いしているのは、日本からの留学生、在留企業や領事館の日本人の方である。ビジターセッションでは、学年のレベルに合わせ、交流、テーマトーク、講演などを行い、事前準備から終了後のまとめまでの一連の活動を通して、学習が促進されるよう努めている。

 翻訳の授業では、担当教師が、ウラジオストクに関係が深いニュースや新聞などから材料を集め、卒業後、即戦力となれるよう工夫している。日本語専攻学生の就職に関して、なかなか日本語を使う仕事に就ける機会は少ない上、新卒学生が採用されにくいというロシア事情がある。学生の就職は、基本的に大学の就職部が担当しているが、今年度、学部を通して就職活動を行い、日系企業や合弁企業などから、新卒学生を育てるということに理解が得られ、数名ではあるが新卒学生が採用された。今後、このような道が少しずつでも増えていけば、学生の日本語学習への動機づけにもつながるものと考える。

ロシア人教師を中心とした教師会活動

 これまで、ウラジオストク日本語教師会への参加は日本人教師のみにとどまり、教師会へのロシア人教師の参加や活動は、ウラジオストクの日本語教育において課題とされてきた。2007年11月第2回教師懇談会を開催し、その後、ウラジオストクの3つの大学の教師が中心となり、ロシア人教師の情報交換のための教師会の準備に当たってきた。2008年2月、4月に、ロシア人教師中心となる教師会が実現した。内容は、カリキュラムや使用教材の紹介、日本クラブの活動紹介、日本との交流プログラムの紹介など、他の大学にはない特徴的な活動の紹介が行われた。日本人教師も参加し、授業で使えるアイディアの紹介のほか、2007年9月に行われた極東・東シベリア日本語教師セミナー際、好評であった『ある教師の悩み相談』(架空の教師の悩みを題材に、参加者全員で問題の原因や解決方法をグループで討議し、総括する活動)が行われ、参加した教師の反応も非常に良かった。今後も隔月で教師会を行い、ロシア人教師同士、ロシア人教師と日本人教師のネットワーク作りのきっかけとしていきたい。

日本人教師勉強会

 今年度、月2回、テーマをもうけた勉強会を開催している。テーマは、文法研究から教授法、試験まで多岐にわたり、授業で学生から出された質問や、次の授業のために必要な知識などを、参加者全員で、ゼミ方式で行っている。ロシア人教師の参加も得られるようになり、毎回、参加者それぞれに得るところのある勉強会となっている。日常の授業準備に追われる新任教師にとって、勉強会に参加するための事前準備は大変なことであるが、年々ネイティブ教師が減少し、数少ないネイティブへの要求は高くなっている現状もあり、今後もできる限り勉強会を継続していきたい。

学生活動

 昨年に引き続き、第2回目となる『ウラジオストク学生日本文化祭』が開催された。昨年度の開催をきっかけに、学生間の横のつながりができ、他の大学の友達が日本語能力試験を受験したり、スピーチコンテストに参加することを知り、自分も参加したいと意欲的になるケースも見られた。今年度は、日本からのゲストも迎え、第2回目の文化祭を開催した。会場となった極東国立総合大学の大ホールには、200人を超す観客が訪れ、学生の一生懸命な姿に驚いたとの声が高かった。

 また、昨年まで日本人教師が中心となり作成していた『ウラジオストク日本語教育通信』を学生の手にゆだね、学生新聞として発行した。各大学より有志の学生が集まり、放課後に記事を作成、翻訳、編集作業を分担して行った。
これらの活動を通し、学生が主体的かつ最後まで責任を持って、日本語を使って何かを成し遂げるという経験を得るとともに、大学間の垣根を越えた交流が行われることが期待される。

与謝野晶子記念文学会

与謝野晶子来訪記念セミナー後の献花イベントの写真
与謝野晶子来訪記念セミナー後の献花イベント

 ウラジオストクは、ロシアでも有数の日本研究の拠点であるが、経済学、歴史学の博士号が当地で取得できるのに対し、文学・言語学分野で博士号を取得するためには、モスクワかサンクトペテルブルクまで行かなければならないと言う状況にあり、文学研究者が育ちにくい環境にある。このような背景の元、派遣先機関で文学を教えるロシア人教師から、文学研究に関する会を創設したいとの相談を受けた。在ウラジオストク日本国総領事館のご協力の下、大阪堺市にある与謝野晶子倶楽部と連絡を取りながら、会の創立準備を行い、2007年9月、与謝野晶子記念文学会が創立した。同年12月、与謝野晶子生誕記念及び会の創立記念セミナー、2008年1月、太平洋艦隊劇場で日本文学の夕べを開催、その後も、毎月活動を続け、晶子を題材とした映画の鑑賞、書道講座を開催、その模様はホームページで公開している。2008年5月、大阪の与謝野晶子倶楽部より29名の皆様をお迎えし、学生文化祭、与謝野晶子来訪記念セミナーを開催することができ、ロシア人教師が中心となり、与謝野晶子倶楽部、在ウラジオストク日本国総領事館、ウラジオストク日本センターのご協力の下、盛況のうちに終えることができた。今後も細くキい交流が続くことが期待される。

日本とウラジオストクをつなぐ活動

 ウラジオストクで隔年開催されるビエンナーレに参加される方々による『日本・ウラジオストク協会』が昨年発足した。日本とウラジオストクの文化交流を目的とした会であるが、ビエンナーレにはウラジオストクで日本語を学ぶ学生や教師も準備や随行員として多くかかわり、それぞれに貴重な経験と大切な思い出となっている。その会員の一人としてホームページ運営を担当し、ウラジオストクで日本語を学ぶ学生の様子などを紹介している。2年に一度しか会えない日本人とロシア人をつなぐ活動として、ウラジオストクの今と学生達の日本への思いを伝えていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
極東国立総合大学は38の学部、28の分校(日本では函館に分校がある)、26の研究所、10の教育センターを有し、ロシアにおける重点大学の1つであり、その名は広く知られる。東アジア研究においてはモスクワ、サンクトペテルブルグに並びロシアを代表する機関であり、日本学研究における優秀な研究者を多く輩出、極東地域における日本研究の拠点となっている。ジュニア専門家は派遣先機関においては日常的な授業、日本語弁論大会指導、日本語能力試験等各種試験対策、現地教師サポートを行い、任地においては、日本人教師会運営、日本語弁論大会、日本語能力試験等イベントへの参画、現地教師ネットワーク作り等を行う。
ロ.派遣先機関名称 極東国立総合大学 東洋学大学
Far Eastern State University,Oriental Studies Institute
ハ.所在地 39,Okeansky,Prospect,Vladivostok,690600 RUSSIA
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1899年
(1939年~1957年閉鎖)
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻(日本語学・日本文学、日本史、日本経済を選択)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤23名(うち邦人2名、日本留学中7名)。
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生55名、2年生46名、3年生48名、4年生34名、5年生49名
(2) 学習の主な動機 「日本文化・経済等への興味・関心」「将来の就職のため」「日本への憧れ」
(3) 卒業後の主な進路 ロシア企業、ロシア公官庁、通訳・ガイド、日ロ合弁企業等
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 年間15名程度

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