世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ウラジオストクの日本語教育

極東国立総合大学 東洋学大学 日本学部
坂本裕子

 ウラジオストク極東国立総合大学への教師派遣は、1993年国際交流基金の2名の青年日本語教師(現ジュニア専門家)の派遣に始まります。当初は大学での業務を中心に学生指導と教師支援が行われてきましたが、近年、地域の日本語教育普及や向上も視野に入れた活動を行なうようになりました。そのジュニア専門家の派遣も今年度をもって終了することとなりました。そこで、ウラジオストクの日本語教育の概要を総括したいと思います。

ウラジオストクの日本語教育

 ウラジオストクの日本語教育は、1899年に現在の極東国立総合大学の母体となる東洋学大学が創立したときに始まります。

 現在、高等教育では市内4機関で主専攻・副専攻で日本語教育が行われる他、第2外国語としての教育も盛んに行われています。

 初・中等教育では、シュコーラ入学時(日本の小学校1年生に相当)より日本語教育を行う特殊教育機関の第51番学校を中心に、市内のシュコーラやギムナジア(中等教育機関)で行われています。

極東国立総合大学

 派遣先である極東国立総合大学は、2009年3月現在、27の大学に41,000人の学生を有し、日本学部では約250名の学生が日本語を学んでいます。日本学部は、1899年の大学創立以来設置されている歴史ある学部として、ロシアでも有数の日本学・日本研究の拠点となっています。ロシア内外で名を知られる研究者も多く、後進の研究者育成に力が注がれています。

 日本学部で学ぶ学生は、入学時より、日本語学・日本文学、日本史学・民俗学、日本経済学の専門に分かれ、3年生からゼミ形式で指導を受けます。日本語学・文学を専攻する学生は、統語論、形態論、待遇表現、方言、女性文学、詩歌などに関する研究を行います。日本史学・民俗学では縄文・弥生時代から、現代までの政治、社会、文化考証を行い、民俗学では、日本人の生活習慣、ウラジオストクの在留邦人に関する研究など、日ロ関係に関する研究も行われています。日本経済学では、中小企業研究を中心に、産業政策、マネージメント、サービス、接客などさまざまな角度から分析し、日ロ、日欧、日米の比較研究が行われています。

地域活動

第3回ウラジオストク学生日本文化祭の写真
第3回ウラジオストク学生日本文化祭

 これまで、なかなか地域ネットワークができないことが課題とされてきました。派遣以来、在ウラジオストク日本国総領事館、ウラジオストク日本センター、日本語教育機関とその教師たちの協力を得、勉強会やセミナー、懇親会を企画し、できるだけ教師たちが顔を合わせる機会を作ってきました。

 その一貫として、2006年より『ウラジオストク学生日本文化祭』を開催、学生間のネットワークを教師へ拡げ、さらに2007年には日本文学研究を中心として活動する『与謝野晶子記念文学会』が発足、研究の地域貢献と日本との交流拡大を図ってきました。

 今後、これらの活動が続くか否かは、時代と教師、学習者のニーズによるものと思います。たとえ一時的に途切れたとしても、時代の要求で再度、活動をはじめようとなったときの経験となることを視野に入れ、長期的なスパンで活動を行ってきました。

展望

ウラジオストク第51番学校での視聴覚教材を使用した授業の写真
ウラジオストク第51番学校での
視聴覚教材を使用した授業

 これまでウラジオストクで活躍された多くの日本語教師の精力的な活動があって、現在の私の活動があります。現在、ウラジオストクには、日本語教育の専門知識を有する日本人、ロシア人の先生方が多くいらっしゃいます。このことは日本とロシアの未来を担う人材の育成において、質の高い教育が行えるいい環境であると思います。

 他方、ロシアの教師待遇の問題で、名誉職ともいえる教師の職に就きたいという人材は少なく、若い教師がなかなか育ちにくい環境でもあります。高等教育機関では、ベテランで経験豊かな教師が高齢化する中、次世代の教師育成と円滑な世代交代が共通の課題となっています。初中等教育機関でも教師人材が不足し、日本語を学ぶ大学生アルバイトで欠員を補充している状況です。

 しかしながら、最近、自ら研究授業や意見交換を行ったり、授業の提案を幅広く行う若い教師も見られるようになりました。国際交流基金の訪日教師研修を受けた教師の中には、帰国後、他の教師に呼びかけ、研究や教材開発を続けるケースも見られるようになりました。このような活動が少しずつでも増え、ロシア人教師、日本人教師問わず、いつでも協力が行えるようになることが理想と思います。

 学生や教師を取り巻く環境が日一日と変化している現在,新しい環境に追いつくために、長期的なビジョンをもつことを忘れがちですが,日本語を学ぶ学生たちが未来の人材となり,また次の人材を育ててくれることを願っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
極東国立総合大学は38の学部、28の分校(日本では函館に分校がある)、26の研究所、10の教育センターを有し、ロシアにおける重点大学の1つであり、その名を広く知られる。東アジア研究ではモスクワ、サンクトペテルブルグに並びロシアを代表する機関であり、日本学研究における優秀な研究者を多く輩出、極東地域における日本研究の拠点となっている。ジュニア専門家は派遣先機関での日常的な授業、日本語弁論大会指導、日本語能力試験等各種試験対策、現地教師サポートの他、地域の現地教師ネットワーク作りや日本語弁論大会、日本語能力試験、学生日本文化祭等のイベントへの協力を行う。
ロ.派遣先機関名称 極東国立総合大学 東洋学大学
Far Eastern State University, Institute of Oriental Studies
ハ.所在地 39,Okeansky,Prospect,Vladivostok,690600 RUSSIA
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1899年
(1939年~1957年閉鎖)
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻(日本語学・日本文学、日本史、日本経済を選択)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤23名(うち邦人2名、日本留学中8名)。
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   219名(1年51、2年48、3年35、4年44、5年41)
(2) 学習の主な動機 「日本文化・経済等への興味・関心」「将来の就職のため」「日本への憧れ」
(3) 卒業後の主な進路 ロシア企業、ロシア公官庁、通訳・ガイド、日ロ合弁企業等
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 年間15名程度

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