世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) シベリアに拡大する日本語教育事業

ノボシビルスク国立大学
猪狩英美

 6月にノボシビルスクでの任期を終えました。この3年間はノボシビルスクの日本語教育において大きな転換期となりました。節目となる時期にジュニア専門家(以下、専門家)として当地の日本語教育事業に関わり、その変遷を見守ることができたことを、感慨深く思い返しています。

 以下では、それらの変化の中でも、特に重要と思われる項目を取り上げ、専門家としてどのように関わってきたかを述べます。

日本語能力試験の実施

NGUの学生の写真
カフェでも日本語!!(NGUの学生)

 2006年度より、当地でも日本語能力試験が実施される運びとなりました。ノボシビルスクだけではなく、トムスク、クラスノヤルスク等の周辺地域にも広く広報し、例年250名前後の申し込みがあります。近年は地方都市や初中等教育機関の受験者が増えています。ロシアではマークシートによる試験が普及していないため、受験者はもちろん、教師や試験監督員に対して手順を説明するのに一苦労でした。分厚い試験マニュアルに現地教師も当初は頭を抱えていましたが、実施機関である市立シベリア・北海道文化センター(以下、センター)と協力し、丁寧な説明やフォローを心がけることで、次第に日本式の実施方法が浸透していきました。能力試験の準備・実施過程で、センターとのパートナーシップが強化されたことは、他の業務においても非常に良い影響を与えました。

西シベリア地域日本語弁論大会

 それまでノボシビルスクの教育機関のみで開催されていた「日本語コンクール」は2006年度から対象地域を拡大し、「西シベリア地域日本語弁論大会」として再出発いたしました。トムスク、クラスノヤルスク、イルクーツク、ヤクーツクの大学にも呼びかけ、今年度は8機関から23名が参加しました。専門家は特に、審査基準の制定、審査員への協力依頼、大会当日の審査に関わる業務を担当します。参加地域を増やし、評価基準を明確・簡略化し、教師以外の日本人審査員を多くすることで、より公正で、しかしあまり結果重視にならない、皆が楽しめる大会を目指しました。また参加者へは審査員のコメント、審査結果の点数を記載したフィードバックシートを渡すことにし、参加の意義をより感じてもらえるように工夫しました。

 年々、発表者のレベルが高くなり、内容も充実してきており、多くの方から大会に対して高評価をいただけるようになりました。今後も参加者、聴衆が共に納得し、満足できる大会が望まれるでしょう。

教師勉強会

若手教師勉強会の写真
若手教師勉強会

 ロシアの日本語教師の多くは幾つかの仕事を掛け持ちしており、またほとんどが女性教師のため、子育てや家事に非常に多忙です。現地教師も「勉強会は必要である」と認識しながらも、実現が難しいのにはこのような事情があります。赴任当初は西シベリア日本語教育協会(以下、協会)や派遣先であるノボシビルスク国立大学(以下、NGU)の教師対象の勉強会を実施しましたが、他の議題についての話し合いで時間がなくなってしまったり、教師がなかなか集まらなかったりが続き、次第に不定期になり、継続することの難しさを痛感しました。

 しかし、今年度は新人教師が増えたため、良いタイミングであると考え、経験の浅い若手教師対象の勉強会を立ち上げました。まず、個別に参加の意思があるかどうかリサーチし、そこで、勉強会実施への希望が強く、参加者がある程度確保できそうであったため、継続の可能性を確信できました。11月から毎月定期的に開催し、毎回10名程度が参加しました。初めはお互いに知らない者同士で些か緊張した感じも見られましたが、次第に打ち解けて話ができるようになってきました。勉強会の内容は、現地教師からの要望に応えて、日本人教師が講義形式で文法や教え方について発表・解説するパターンが多くなってしまいましたが、今後はよりインタラクティブで、現地教師が積極的に参加できるものが必要であると思われます。また、状況を見極めて、協会や派遣先大学でも勉強会を実施することが期待されています。

日本語教育シンポジウム

 センターとNGU共催で今年度「第一回シベリア日本語教育シンポジウム」が開催されました。このシンポジウムは教師の専門性向上と同時にシベリア地域の日本語教育ネットワークを強化することを目的としたものであり、各教師の日本語及び日本語教育に関する研究・実践活動についての発表が行われました。センターが中心となってプログラムの仮案をまとめ、専門家は運営及び研究発表のレジュメやセミナーに関する支援を行いました。予算の問題もあり、実施が危うく思われた時もありましたが、多くの発表希望者が集まり、当日は時間が足りなくなるほどでした。参加者からは来年度も開催を希望する声が多く聞かれ、充実した二日間となりました。

 勉強会・シンポジウムの意義は教師の日本語能力・教授能力向上だけではありません。教師間の関係構築・交流促進も大きな目的です。教師同士のタテ及びヨコのつながりを強化していくことは、現在と将来の日本語教育発展に必要不可欠です。

 ノボシビルスクは日本から遠く、商業・文化的にも日本との交流は多くないにも関わらず、日本語教育のレベルは高く、協会は非常に自立したロシアの組織です。当地は今後の可能性を大きく秘めた地域といえるでしょう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
当機関の日本語科は、西シベリア地域の日本文化研究・日本語教育において中心的役割を果たしている。シベリア各地の他、モスクワ方面からの入学者もおり、多くの卒業生が東洋学研究者、日本語教師、翻訳・通訳者として活躍している。ジュニア専門家は東洋学学科における日本語会話授業の他、学生の興味・関心に応じた特別講義、日本語能力試験対策、スピーチ指導等を担当する。また、現地教師への教材や授業についてのコンサルティング、当地における各種日本語教育関連行事への支援を行う。
ロ.派遣先機関名称 ノボシビルスク国立大学
Novosibirsk State University
ハ.所在地 Pirogova str.2, Novosibirsk, 630090, Russia
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部東洋学学科(歴史学専攻・言語学専攻)、オリエントセンターおよび外国語学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1970年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2000年
(ロ)コース種別
東洋学学科:専攻、外国語学部:副専攻、課外活動
(ハ)現地教授スタッフ
常勤8名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻で各学年10名計50名、副専攻で50名、課外で20名
(2) 学習の主な動機 「日本語・日本文化への関心」「日本語文献講読」
(3) 卒業後の主な進路 「大学院進学」「日本語教育機関に就職」「一般企業に就職」
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
主専攻で日本語能力試験1~2級程度
(5) 日本への留学人数 年間2~4名程度

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