世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ロシアで日本語を教える

モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学
小栗 潔

 私は2008年6月からモスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学(以下、「ISAA」)に日本語教育専門家として派遣されています。250年余の歴史を持つモスクワ国立大学は長らくロシアの高等教育を牽引してきました。ISAAはそのモスクワ国立大学内の一機関で、1956年の設立以来(設立当時の名称は東洋大学)、ロシアにおけるアジア・アフリカ関連の研究と人材育成に大きな役割を果たしてきました。

1年生と担当の先生方の写真
1年生と担当の先生方

 日本語を学んでいるグループは3つあります。一つは文学グループ(日本文学・言語学専攻の学生)。もう一つは、経済グループ(国際関係、地域経済、政治学のいずれかを専攻する学生)。そして、歴史グループ(日本歴史・文化専攻の学生)です。学生たちは日本語を学ぶと共にそれぞれの専攻分野の知識も深めていきます。昨今は日本のアニメやマンガを通して日本に興味を持ち、日本語学習を始めるケースが多いと言われています。しかし、これはISAAの学生にはあまり当てはまらないようです。(そういった学生もいることはいます。)ここでは日本語そのもの、日本の文学、歴史、伝統文化、或いは、政治や経済といったものへの興味が日本語学習開始のきっかけになっている場合が多いのです。

 私はここで主に初級の授業を担当しています。学生の多くはとても熱心で、授業で学習したことにとどまらず、興味のあることを自分で掘り下げていく姿勢も持ち合わせています。彼らの溢れる知的好奇心に応えられるよう、日々の授業に臨んでいます。

モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学の写真
モスクワ国立大学付属
アジア・アフリカ諸国大学

 ISAAでの授業に加え、CIS諸国のアドバイザーとしての業務も行っています。具体的には主にモスクワとその周辺地域の日本語教師向け勉強会の実施、各地で実施される日本語教育関連のセミナーや研修会などへの出講、機関訪問や出張等を通した各地の日本語教育状況の把握といったことです。

 出張などで他の地方に行ってみて強く感じるのは、同じロシアの中でも場所によって日本語教育及びそれを取り巻く環境が大きく異なるということです。モスクワやサンクト・ペテルブルグといった大都市では日本語教育を実施している機関も多く、日本文化や日本人に接する機会にも比較的恵まれています。しかし、それ以外の地域では特定の機関の少数の教員が協力して、地域の日本語教育を支えている場合が殆どのようです。教材や図書なども不足しているのが現状です。

 いくらインターネットが普及したとはいえ、大都市とその他の地域では学習者が受け取れる情報量の差はまだまだ大きいと言わざるを得ません。各地を結ぶネットワークの形成を進めて情報の伝達を促し、少しでも日本語教育環境の差を解消していくのも私の役割の一つです。しかし、それは一朝一夕にできることではありません。現地の日本語教育関係の方々の協力を得つつ、これまで派遣されてきた人達が挙げてきた成果を踏まえ、良い方向に向かうようにできればと考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ロシアのモスクワ国立大学に所属する機関の一つである。研究並びに教育という2つの役割を担っているため大学と称される。文学作品の翻訳、教科書の執筆、通訳等の活動で著名な教授陣を揃え、第2次大戦後のロシアの日本研究、日本語教育を牽引してきた。日本語教育専門家はここで日本語の授業、教材作成への協力等を行う。それと共に、CIS諸国の日本語教育アドバイザーを兼務している。各地の日本語教育事情調査、モスクワ地区でのセミナー開催、研修への協力、日本語関連諸行事のサポート、各地で行われるセミナーへの出講、その他諸行事への協力などを行う。
ロ.派遣先機関名称 モスクワ国立大学付属アジアアフリカ諸国大学
Institute of Asian and African Countries, Moscow State University
ハ.所在地 Mohovaya str. 11, Moscow, 103009, Russia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
アジアアフリカ諸国大学(モスクワ国立大学の一学部)
*学習者は文学グループ、歴史グループ、経済グループに分かれる
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1956年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤19名(内邦人1名) 非常勤2名(内邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生19名 2年生28名 3年生33名 4年生31名
(2) 学習の主な動機 日本語・日本文化への関心、留学、日本での就職
(3) 卒業後の主な進路 一般企業・日系企業就職、日本留学、進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級程度
(5) 日本への留学人数 18名

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