世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 極寒のシベリアで熱い日本語教育

ノボシビルスク国立大学
山口 紀子

ノボシビルスクと日本

 「ロシアのへそ」ノボシビルスク市は、人口が首都モスクワ、サンクトペテルブルグに次いで第3位の大都市です。一年の半分は冬。特に今年は60年ぶりの寒波で-40°C近い日々が3ヶ月ほど続きました。在外公館も日本企業もなく日本とは縁遠い土地のように見えますが、札幌市との姉妹都市提携による交流の機会が多く、市が主催する日本関連の行事も頻繁に行われ、数少ない在留邦人はその度にひっぱりだこで休む間もないのです。

 意外に知られている日本。頼まれてとある小学校で日本紹介の授業をしたときも、子ども達全員がなかなかの日本通で、中には畳の寸法まで知っているツワモノもいて驚いたこともありました。

現地機関の情熱

ノボシビルスク大学50周年記念祭茶道のブースの写真
ノボシビルスク大学
50周年記念祭茶道のブース

 こうした日本への関心の高さは、市の所属機関である「シベリア・北海道文化センター」の力によるものが大きいです。ここでは一般向け日本語講座や武道の定期講座のほか、子供向けの折り紙大会や弁論大会、大学生向けの弁論大会やカラオケコンテスト、研究発表会、教師向けシンポジウム、日本語能力試験等、娯楽的なものから学術的なものまで様々な企画を主催・運営しています。そのほとんど全ての行事に企画・立案から開催まで日本語専門家(以下、専門家)も関わりますが、実務やリーダーシップは現地機関がとっています。

 このセンターを中心に主な日本語教育機関の教師達が加わって発足した「西シベリア日本語教師協会」は法人化された教師会であり、会員教師達は非常に熱心な教育者達です。教師会主催行事だけでなく、それぞれの大学や学校でもさまざまな日本語関係の行事を競うように主催しています。これらはトムスク、クラスノヤルスク、ノボクズネツクなど近郊都市でも行われています。専門家はそういう場にも、できる限り参加・協力しなければなりません。まさに行事との追いかけっこの日々です。

ノボシビルスク大学

 日本語教育機関の多くは市の中心部にありますが、私の派遣先校「ノボシビルスク国立大学」は、市の郊外、車で小一時間ほどのアカデムガラドク学術研究地区にあります。シベリア中から集まってくる学生は優秀な上、カリキュラムが厳しいのでよく勉強します。日本語は私の所属する人文学部東洋学学科と、外国語学部歴史学科が教えています。学生たちの日本語履修の動機は、「他人とは違う、特別な自分になりたい」というのが多く、入学時の知識はアニメや桜、富士山といった誰でも知っている程度のものしかないのですが、優秀な現地教師達の厳しい教育のもと、「日本学の専門家」として成長していきます。

2年生と留学生の交歓寿司パーティの写真
2年生と留学生の交歓寿司パーティ

 大学での私の仕事は、各学年週1回の「日本語会話」の授業および書道や映画、手芸などを体験する日本文化特別講座がメインで、他に教師向け勉強会やコンサルティング、作文・スピーチ指導を行っています。最も時間を割くのは、学生の作文や論文、研究計画書、現地教師の出版原稿など様々な日本語書類のネイティブチェックでしょう。自宅で過ごす時間のほとんどは、添削業務に明け暮れています。

 また、休みの日には学生と日本人留学生・教師を集めて日本料理を作る交流会を頻繁に開いており、授業外で日本人と触れる機会を作っています。留学生も「これは日本人としての義務でもあり、チャンスでもある」と理解してくれ、積極的な協力を得られています。

若手教師たち

 前任者が立ち上げた現地若手教師のための勉強会は、今年も月1度教授法や文法をテーマに開催しました。今年からは現地教師にも発表を依頼し、また参加者を教師に限定せず、学生や卒業生にも門戸を広げた結果、昨年より多くの参加者を得ることができました。来年度は会員全員が発表することを目標にしています。

これからの課題

 現地の先生方の不安は当地が「日本語環境的に孤立状態にある」ということです。そんな中で専門家は希少な「日本との公的なつながり」として期待されています。また、各機関の日本語教育は自立的に行われていますが、機関同士の関係は弱く、それぞれに交流の機会を設けてはいるもののまだまだ有効に活かしきれていません。機関同士、またノボシビルスクと日本とをつなぐパイプラインを今以上にしっかりしたものにし、当地の日本語教育を今以上に盛り上げていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 ノボシビルスク国立大学
Novosibirsk State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
当機関の日本語科は、西シベリア地域の日本文化研究・日本語教育において中心的役割を果たしている。大学の格付けは国内でも上位であり、多くの卒業生が東洋学研究者、日本語教師、翻訳・通訳者として活躍している。専門家は東洋学学科における日本語会話授業の他、学生の興味・関心に応じた特別講義、日本語能力試験対策、スピーチ指導等を担当する。また、現地教師への教材や授業についてのコンサルティング、西シベリア地区における各種日本語教育関連行事への支援を行う。
所在地 Pirogova str.2,Novosibirsk,630090,Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部東洋学学科、外国語学部歴史と類型学学科、オリエントセンター
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1970年
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
コース種別
東洋学学科:主専攻、外国語学部:副専攻、センター:夜間一般
現地教授スタッフ
常勤8名(うち邦人1名)
学生の履修状況
履修者の内訳   主専攻で各学年10名計50名、副専攻で50名、課外で20名
学習の主な動機 日本語、日本文化への関心 (就職の手段としてではない)
卒業後の主な進路 大学院、留学、翻訳・通訳者、教師(家庭教師含)、一般企業
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
主専攻で日本語能力試験1~2級合格
日本への留学人数 年間3~5名程度

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