世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ロシアの日本語教育

モスクワ国立大学附属アジア・アフリカ諸国大学
小栗 潔

1. はじめに

 ロシアの日本語教育といえば、大都市の高等教育機関を中心に行われているイメージがあります。しかし、近年は地理的にも、教育段階の面でも広がりを見せています。

 モスクワ国立大学附属アジア・アフリカ諸国大学(以下、「ИСАА」)に派遣されている日本語専門家(以下、「専門家」)はИСААで授業を担当すると共に、ロシアに広がりつつある日本語教育の支援のため、アドバイザーとしての業務も行っています。

 ここでは、そのうちの幾つかを御紹介します。

2. セミナー&ワークショップ

 モスクワ、サンクト・ペテルブルグといった大都市や日本に近いハバロフスクやウラジオストックといった極東地域で日本語教育が盛んなことをご存知の方は多いと思います。しかし、他の地域にも日本語教育は広がりつつあります。

 地方ではまだ日本語教育の歴史も浅く、教師、学習者ともそれほど多くありません。また、大都市と比べ日本からの留学生も少なく、日系企業の進出も稀で、日本人と接する機会もあまりありません。日本語教材や日本関連の図書なども手に入りにくいようです。

 そういった状況でも、関係者は熱心に日本語教育に取り組んでいます。学校や大学での授業だけでなく、日本語弁論大会や日本語教育セミナーが開催されます。

St.ペテルブルグでのワークショップの写真
St.ペテルブルグでのワークショップ

 そのような活動を側面から支援するために、専門家はリクエストに応じて弁論大会の審査員を務めたり、セミナーに出講したりしています。例えばモスクワではよくセミナーや会議が開かれているようです。しかし、地方ではそのような機会は多くありません。そのためか、教員だけではなく、学習者も積極的に参加するので、一つ一つの行事に活気があるように感じます。そこでのワークショップや講義は、参加者の期待が大きい分、出講する側もいつも以上に力が入ります。

3. 教師研修

 モスクワ市では2007年9月から初中等教育段階に日本語が正式に導入されました。それまでも独自に日本語教育を実施していた学校はありましたが、正規の科目ではありませんでした。

 モスクワ市の初中等教育段階の教員向研修を実施しているモスクワオープン教育大学(以下、МИОО)では、それに合わせるように、2008年から初中等教育機関で働く日本語教師対象の研修コースが開講されました。期間は2年で、内容は、教育学、外国語教授法、心理学、日本語といった講義の他に、公開授業、レポート提出など多岐にわたります。

 私はこのコースに出講し、「日本語」と「日本語教授法」を担当しました。事前に取り上げて欲しい項目を参加者から聞き取った上で、コースの計画を立てました。先生方からの要望は、文法や類義語の使い分けから日本の昔話の有名な登場人物についてまで様々です。それに加えて、日本語を教える上で先生方に知っておいてもらいたい項目をこちらで選んで、取り上げていきました。

 それと並行して、機関訪問を実施しました。それまではランダムに訪問先を選んでいましたが、出講開始後はそのコースに参加している先生方が勤務する学校を優先させました。それにより、日本語教育の現場をよりよく知ると共に、研修で学んだことが授業に生かされているかどうか、研修でどのようなことを取り上げる必要があるかなど分かりました。機関訪問で得た情報をМИООでの研修コースにフィードバックすることで、授業をより効果的なものにできたのではないでしょうか。また、研修とは違った形で先生方と接する機会を持つことで、より近い関係が築けたように思います。

4. おわりに

初中等教育機関の先生方との写真
初中等教育機関の先生方と

 ロシアの日本語教育の現状について、ご理解いただけましたか?

 今後、地方や初中等教育で日本語が根付き、更に広がっていくかどうかは、教育に携わる現地の先生方や日本語を学ぶ人達にかかっています。私にできることはあくまでその手伝いです。どうすればより効果的なサポートが可能かを考えながら、業務に携わっています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学
Institute of Asian and African Countries, Moscow State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
当機関(通称ИСАА《イサア》)はモスクワ国立大学の学部の一つ。東洋、アフリカ地域を対象とした研究と教育の2つの役割を担っているため大学と称される。また、全ロシアの東洋・アフリカ研究の教育指導機関であるため、当該地域言語教育の共通シラバス策定も行う。日本研究、日本語教育では文学作品の翻訳、教科書の執筆、通訳等の活動で著名な教授陣を揃え、1950年代からロシアの当分野を牽引してきた。専門家はここで日本語を教えると共に、ロシア連邦(極東、シベリアを除く)、旧CIS諸国の日本語教育アドバイザーを兼務。セミナーへの出講、教師研修への協力、各地の日本語教育事情調査、日本語関連行事への助言等を実施。
所在地 Mohovaya str. 11, Moscow, 107031, Russia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
モスクワ国立大学附属アジアアフリカ諸国大学
*学習者は日本語・日本文学専攻、歴史専攻、社会・経済専攻の3つのグループに分かれる
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1956年
国際交流基金からの派遣開始年 1993年
コース種別
専攻
現地教授スタッフ
常勤16名(内邦人0名) 非常勤2名(内邦人1名)
学生の履修状況
履修者の内訳   1年生27、2年生32、3年生18、4年生25、修士課程7
学習の主な動機 日本・日本語・日本文化への関心
卒業後の主な進路 進学、教員、マスコミ、外務省、一般企業、日系企業
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験1~2級程度
日本への留学人数 年間20名程度

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