世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 西シベリアの熱血教師たちに背中を押されて

ノボシビルスク国立大学
山口 紀子

ノボシビルスク国立総合大学

着付け特別講座 東洋学科中庭の日本風庭園の写真
着付け特別講座
東洋学科中庭の日本風庭園

 人口147万人、ロシア第三の都市であるノボシビルスク市は昨年札幌市との姉妹都市交流20年を迎えました。ノボシビルスク市の郊外、隣市との境に位置するのが筑波学園都市のモデルにもなった「アカデムガラドク地区」。ロシア科学アカデミーシベリア支部に属する研究機関の集合地区です。派遣先校の「ノボシビルスク国立総合大学」(以下NSU)は未来の研究者育成を目的に創立され、シベリア中から集まった優秀な学生が、「ブランド校」の名にふさわしくあるよう、厳しい教育を受けています。市内の自宅から通学する学生も多く、朝夕のラッシュ時には2時間、積雪時には3時間以上をかけて大学へ通ってきます。

 私の所属する人文学部東洋学学科では主専攻日本語を学び、他に日本の歴史、地理、経済、政治、哲学、美術など「日本専門家」に必要な知識も身につけなければなりません。専門家の仕事は1年生~5年生まで各週1回の「日本語会話」の授業、および茶道や着付け、古典芸能などを体験する日本文化特別講座がメインで、他に月2回の教師向け勉強会やコンサルティング、作文・スピーチ指導を行っています。学科の教育目的の一つには「露日翻訳者の育成」があるため、学生たちは日々相当量の翻訳をさせられますが、その原稿のネイティブチェックも日々の仕事の大きなウェイトを占めています。

 また今年度は日本語能力試験が新方式になったり、ロシアの大学のカリキュラムがヨーロッパ基準になったりと大きな変化があり、ロシア人教師も勉強会に熱が入りました。専門家は学科唯一のネイティブ教師としてだけでなく、新しい教授法や理論、日本語教育の動向の伝達者としても大きな期待を寄せられています。

 西シベリアで日本語を学ぶ、あるいは教える人々の悩みは「日本語を活かせる仕事が少ない」ということですが、NSUの卒業生達は、語学教師、通訳、翻訳、旅行会社、日本留学など何かしら身につけたものを活かしていることが多く、特に昨年の卒業生は7人全員が日本語・日本関係に進学・就職し、「快挙」となりました。

 今年度、NSUは東北大学と学術提携を結びました。共同研究プロジェクトの推進はもちろんですが、日本語を学ぶ学生にも留学や学生交流の道が開かれることになります。

シベリア教育協会

第3回シベリア日本語教育・日本学シンポジウムの写真
第3回シベリア日本語教育・日本学シンポジウム

 ノボシビルスク市及び近郊都市の教育機関所属の日本語教師によって組織されているのが「シベリア教育協会」です。日本語能力試験や弁論大会、大学生研究発表会や教育シンポジウムなどを主催しています。実務を執っているのは市立「シベリア・北海道文化センター」(以下SHC)で、このセンターの職員と協力して各行事を企画・運営するのが専門家のもう一つの大きな役割です。大きなイベントが近づくと、大学・センター間2時間以上の道のりを週に数回往復しなければならず、特に冬は辛いですが、現地教師のイニシアチブでこれだけの行事が実施されていることに、感動を覚えずにはいられません。SHCではこの他にも折り紙コンテスト、日本クイズコンテスト、日本文化の日など月に1~2度の割合で行事を行っており、また教育協会に加盟している他の教育機関や、トムスクなど近郊都市でもそれぞれに日本文化の夕べや弁論大会等を開催しています。専門家にはそれら全てにできるだけ参加協力することが求められています。このような活発な教育会活動はロシアでも他に類をみないようです。まさに現地教師に背中を押されながら駆け回る日々なのです。

 また日本語に限らず日本関係のイベントに来賓として招待されることも多いです。なにしろ当地の日本人は留学生を含めても20人足らず、どこでもひっぱりだこで、時には「寿司職人コンテスト」の審査員としておいしい思いができることもあります。

これからの課題

 熱心な若手教師達の多くが、留学や就職のためにノボシビルスクを離れて日本やモスクワへ行き、ノボシビルスクに戻りません。現在当地で教鞭を執っているのは主に教授経験10年以上の中堅か、新卒あるいは大学生です。新しい教授法や実験的な授業にも関心があり、吸収した知識をどんどん実践に活かしていく若手教師の力は、今後の日本語教育活性化に欠かすことができません。若手向け勉強会の充実を図り、次世代の教師を育て続けていくことに尽力していかなければなりません。

 また近年大学で日本語を専攻する学生数が減少傾向にありますが、総学習者数は千人程度と変動がないのは、一般向けの講座で趣味として日本語を学ぶ人々が年々増えているからです。そうした人々のニーズに合った教材を現在SHCの教師を中心に開発し、来年度中の完成を目指しています。今後はSHC以外の一般コースでも活用できるようなコース設計や教授法を現地の先生方と一緒に考えていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Novosibirsk State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
当機関の日本語科は、西シベリア地域の日本文化研究・日本語教育において中心的役割を果たしている。大学の格付けは国内でも上位であり、多くの卒業生が東洋学研究者、日本語教師、翻訳・通訳者として活躍している。専門家は東洋学学科における日本語会話授業の他、学生の興味・関心に応じた特別講義、日本語能力試験対策、スピーチ指導等を担当する。また、現地教師への教材や授業についてのコンサルティング、西シベリア地区における各種日本語教育関連行事への支援を行う。
所在地 Pirogova str.2,Novosibirsk,630090,Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部東洋学学科、外国語学部歴史と類型学学科、またそれぞれの学科に夜間一般講座であるオリエントセンター併設。
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1970年
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
コース種別
東洋学学科:主専攻、外国語学部:副専攻、センター:夜間一般
現地教授スタッフ
東洋学学科:4名、外国語学部:5名(うち邦人1名)、センター:学科教師の兼任
学生の履修状況
履修者の内訳   主専攻:10名×5学年計50名、副専攻:50名、センター:20名
学習の主な動機 日本語、日本文化への関心 (就職の手段としてではない)
卒業後の主な進路 大学院、留学、翻訳・通訳者、教師(家庭教師含)、一般企業
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
主専攻で日本語能力試験1~2級合格
日本への留学人数 年間3~5名程度

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