世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ロシアの日本語教育の広がり

モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学
荒川友幸

 モスクワで活動している専門家の主な業務の一つは、ロシアとその周辺国(一部地域を除く)における日本語教育の活性化支援である。ロシアの日本語学習者は全国の合計で1万人を越えている。特に学習者が多いのは、モスクワ、ハバロフスク、サンクトペテルブルグ、ウラジオストクなどであるが、さらにさまざまな地方都市で大きくあるいはこじんまりと日本語教育が行なわれている。各地の日本語教育の現況を知り、日本語教育関係者との係わり合いを持つためには、実際にその地に赴くのがいちばんである。だから、私は昨年8月下旬の赴任以来、モスクワでの業務の合間をぬって、できるだけ多くの街に出張することを心がけた。この間私が出張したのは次の11都市である。

  • サンクトペテルブルグ・リャザン・ニジニノブゴロド・ロストフナドヌー
  • クラスノダール・オレンブルグ・エカテリンブルグ・ノボシビルスク
  • クラスノヤルスク・イルクーツク(以上ロシアの10都市)・エレバン(アルメニア)

ノボシビルスクのシンポジウムでの写真
ノボシビルスクのシンポジウムで

 赴任するまでは聞いたこともないような都市も多く、好奇心満開で出かけた。もっとも遠いイルクーツクまでは飛行機で5時間、時差もモスクワ+5時間で日本と同じ時間になった。外国へ行くようなものである。

 出張先での「出し物」は、教授法に関するプレゼンテーション、先生たちに参考にしてもらうため私が行なう公開授業、日本の現代文化についての講演など。また、授業見学をさせてもらう場合も多かった。さらに、時間的に余裕があれば、日本語学習者の学生たちに街を案内してもらう機会を作った。こうした地方都市では、そもそも日本人と接触する機会がまれで、日本語を勉強しても使う機会がほとんどない。だから、私がそこに行く機会を利用して、日本語で話す機会を与えたいという配慮からこのような申し入れを行なった。

 私を案内する学生たちはみんな一生懸命に準備してくる。紙に書いた説明を読んでいて漢字の読み方がわからなくなり私に聞いてくる子もいれば、全部暗記してきて、ある事件の年月日まできちんと説明する子もいる。みんな健気でいじらしい。

ハンドメイドの門松の写真
ハンドメイドの門松

 ロシアの諸都市で日本語を教えているのは、大学で日本語を専攻したロシア人の先生、日露青年交流センターから派遣された若手の日本人教師、ロシア人を配偶者としその地に定住している日本人などである。

 私が出会った多くの教員たちは日本語教授をただの生活の手段としてではなく、生きがいとしてとらえている。特に、ロシア人の日本語教師は、日本に対する愛着の気持ちを持ち、「伝道師」的な感覚で日本に関わる仕事をしている人も多い。また、各都市に出張した際には、長年にわたり精力的な活動を続け、その地域の日本語教育を牽引する役割を果たしている先生に出会う。

 サンクトペテルブルグの大学では、授業を見せてもらうために教室に入ったとたん、先生が古今和歌集の和歌の朗詠を始め、私は度肝を抜かれた。

 また、シベリアのある都市の教員は、日本式に正月を祝うため、学生たちと門松、鏡餅、松飾などを作った。作り方など知っている人もおらず、材料も手に入らないので、インターネットから集めた写真を参考に見様見真似でこれらを作った。後でこれらの「作品」を見せられ、私は心が熱くなった。彼らの日本への想いを「片想い」にしてはいけないと思った。

 ロシア人には、自分の好きな物事に、見返りなどを求めず、ひたすら打ち込む美徳があると思う。私は、モスクワでの活動、地方都市への出張などを通して、献身的に活躍する、多彩で有能な教員たち、研究者たちの知己を得た。こうした先生たちの活動が、より円滑に進められるよう、私も自らの職責を全うしていきたい。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学(略称:ИСАА・イサア)
Institute of Asian and African Countries, Moscow State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
本学はモスクワ国立大学の学部を構成する諸機関の一つ。東洋、アフリカ地域を対象とした研究と教育の2つの役割を担っている。また、全ロシアの東洋・アフリカ研究の教育指導機関であるため、同国の言語教育の共通シラバス策定も行う。日本研究、日本語教育では文学作品の翻訳、教科書の執筆、通訳等の活動で著名な教授陣を揃え、1950年代からロシアの当分野を牽引してきた。専門家はここで日本語を教えると共に、ロシア連邦(極東、シベリアを除く)、旧CIS諸国の日本語教育アドバイザーを兼務。セミナーへの出講、教師研修への協力、各地の日本語教育事情調査、日本語関連行事への助言等を実施。
所在地 Russia, 125009, Moscow, 11Mokhovaya Str.
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学
*学習者は日本語・日本文学専攻、歴史専攻、社会・経済専攻の3つのグループに分かれる
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1956年
国際交流基金からの派遣開始年 1993年
コース種別
専攻
現地教授スタッフ
18人(うち邦人1)
学生の履修状況
履修者の内訳   1年39人、2年27人、3年24人、4年21人、修士18人
学習の主な動機 日本・日本語・日本文化への関心
卒業後の主な進路 進学、教員、マスコミ、外務省、一般企業、日系企業
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N1~N2級程度
日本への留学人数 年間20名程度

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