世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 極東ロシアより

サハリン国立総合大学付属経済・東洋学大学
阪上彩子

 地理的に日本からとても近い極東ロシア。サハリンは札幌からだと1時間もかかりません。しかしどことなく遠いところだと感じませんか。ビザが必要で、なかなか旅行できないからでしょうか。サハリンに派遣される前の私がそうで、ロシアのことをあまり知りませんでした。派遣されてすぐに、ハバロフスクで極東・東シベリア日本語弁論大会があり、日本語母語話者教師がいない地域でも日本語教育が行われている大学があると知りました。(ロシアで教えている日本語教師約500人のうち、8割がロシア語母語話者の先生ということを考えると、当然のことですが。)そこで、派遣先のサハリン国立総合大学の授業のほかに、極東地域のほかの機関について知る必要性を感じました。

極東地域への出張

 弁論大会で知り合った学生や教師を通じて、今年度はヤクーツク・ウラジオストク・カムチャツカへ出張する機会を得ました。 ヤクーツクでは教師セミナーを行い、日本語を勉強しても就職に結びつかず、モチベーションが低くなっている学生をどう指導するかという問題を聞きましたので、教師会を定例化し、学習者のニーズにあわせた教授法・カリキュラムを行うために、教師同士よく話し合うことなど、ワークショップの中で話しました。またカムチャツカでは、日本人が少なく、日本へ行く以外では日本語を話す機会が少ないことを聞きましたので、日本語学習に役立つサイト紹介や日本語教材についての情報提供に努めました。このような問題はおそらくほかの極東ロシアでも抱えている問題だと思います。地域を超えて、極東ロシアでの広いネットワークを強化するために、来年度ウラジオストクの極東連邦大学で日本語のセミナーを予定しています。

日本語能力の伸び悩み

2月の会話クラブにての写真
2月の会話クラブにて

 ヤクーツクやカムチャツカなどの環境を知ると、サハリンでの恵まれた環境に改めて気づきました。私費ですが1年生から北海道にホームステイをしたり、大阪の日本語学校に通ったりするプログラムがあります。学年が上がるにつれ、日本へ留学したことがある人の割合も高く、3年生では8割が留学したことがあります。またサハリンには日本人も60名ほどおり、毎月日本人とロシア人の交流の場、日本語会話クラブを行っています。ただ日本へ簡単に留学できるからか、日常会話レベルのコミュニケーションで満足してしまうからか、レベルの伸び悩みも問題です。今後、中級レベル以降の学習レベル向上を重視しなければなりません。

サハリンの初・中等教育機関の日本語教育事情

詩の暗唱大会にての写真
詩の暗唱大会にて

 またサハリンでは、シュコーラ(初・中等教育機関)でも日本語教育が行われていますが、ロシア人教員が1人で、孤立奮闘されています。大学とシュコーラの教員はスケジュールが異なり、日本語教師会としてもなかなか顔を合わせるのが難しい現状です。ですから、シュコーラの先生と連絡を取り合い、日本語母語話者として自分を利用してもらえないかと教室に赴くようにしました。その甲斐あって、今年度の弁論大会はシュコーラの参加者も多く、今年度から新たに取り組んだ詩の暗唱大会でも年若い学習者が参加してくれました。またシュコーラ用の教材が不足していると知って、サハリン国立総合大学が主となって、リソースセンターを設立することになっています。これを機に、学校の先生方の横のつながり、学校と大学と日本企業・総領事館などの他機関とのたてのつながりができ、サハリンでの日本語教育ネットワークがうまく整備されればと思います。

 今までよく知らなかった極東ロシアの現状を知り、サハリンでは、日本語学習者の日本語能力向上、日本語教育ネットワーク強化について、極東地域に関しては、問題共有のためのネットワーク強化という課題がわかりましたが、これからも今まで同様、いろいろな人の話を聞きつつ、これらの課題が解決できるように、またまだまだ奥深い極東ロシアを一層理解するためにも、引き続き活動を続けたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 サハリン国立総合大学付属経済・東洋学大学
Sakhalin State University, Institute of Economics and Oriental Studies
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
サハリン州において唯一の国立高等教育機関で、当地の高等教育の中心的役割を担っている。サハリン日本語弁論大会や、日本語教育セミナー、日本語能力試験等、日本語教育に関わる諸活動は、当大学と外部機関とが協力する形で運営されている。多くの卒業生が主にサハリン内の教育界・経済界で活躍しており、サハリン社会への貢献度は高い。日本語専門家は日本語の授業のほかに、現地教師へのアドバイスや勉強会、教師会運営等を行っている。
所在地 Prospect Kommunistichesky 33, Yuzhno-Sakhalinsk, RUSSIA
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋学部 言語学科日本語専攻/東洋学科日本語専攻
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1989年
国際交流基金からの派遣開始年 1993年
コース種別
言語学科/東洋学科:日本語専攻
現地教授スタッフ
常勤10名(うち邦人2名)
学生の履修状況
履修者の内訳   1年生33名、2年生20名、3年生30名、4年生33名、5年生16名
学習の主な動機 日本文化知識への興味、日本語でのコミュニケーション、日系企業就職
卒業後の主な進路 外資系企業就職、ロシア企業就職、日系企業就職
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2レベル
日本への留学人数 30名程度

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