世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ロシア・極東で日本語教育を支援する

極東国立人文大学
小関 智子

 東京から飛行機で2時間半。アムール川の畔に拓けた街ハバロフスクは、人口約60万人の極東の中心地です。街を歩けば、日本の中古車や日本製の輸入品も多く見かけ、日本の近さを感じる半面、在留邦人は30名程度。学習者にとって、日本語を使う機会はそれほど多くありません。しかし、そのハバロフスクでも10の公的機関とその他民間学校で日本語が教えられています。

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書道体験!
-日本の書道家の手ほどきを受けました

 極東国立人文大学(以下、人文大学)はハバロフスクで唯一、日本語を主専攻として教える大学です。人文大学の日本語学科は、以前は「教師養成」を目指したコースでしたが、現在は「通訳・翻訳養成」を目的としており、学生たちは日本語と英語の通訳・翻訳技術を身につけます。卒業後の進路は様々ですが、現在ハバロフスクで日本語教育を行う教師の多くが人文大学の卒業生です。

 以上のことから、人文大学にはハバロフスクの日本語教育の中心的役割を果たすことが期待され、大学自身もそれを使命と感じています。日本語能力試験や日本語弁論大会といった日本語イベントは、総領事館と人文大学の共同主催で行われますが、その運営のほとんどを人文大学の教師で担っています。また、来年には人文大学の日本語学科が中心となり、日本語教師のための再教育研修コースが企画されています。報告者は、人文大学がハバロフスク全体の日本語教育に貢献し、教師のネットワークの中心になれるよう支援しています。

学習者支援 ~日本語環境を作る~

日本語クラブ・劇 -クスッと笑えるホームドラマの写真
日本語クラブ・劇
-クスッと笑えるホームドラマ

 授業中、学習者の発話を引き出すのはもちろんのこと、教室の外に日本語環境を作ることも大切な業務です。人文大学では、毎週土曜日に「日本語クラブ」を開き、毎週決まったテーマでディスカッションを行っています。在留邦人の方の協力、特に、今年は当地の日本人教師の方々や日本人留学生のおかげで、例年にない盛況となりました。

 日本語学習者に、「何を話したい?」と聞くと、「日本文化について話したい!」という答えがよく返ってきます。しかし、実際、彼らが「日本文化」について話せることはそれほど多くありません。それよりも、「ロシア文化」について語る楽しみを知ってもらえるよう、ディスカッションでは日本文化とロシア文化の両方を扱うようにしました。日本人が話す日本文化を日本語で理解し、ロシア文化について日本語で伝える。それが、ハバロフスクだからこその日本語環境であると考えます。また、12月と5月の2回、ロシア文化紹介イベントを学習者が企画しました。内容を考えるのはもちろんのこと、招待状の作り方、案内の仕方、おもてなし、マナー、責任…教室で教わる以上のことを学習者は考え、体験していきます。こうした教室外での学びは、学習者にとって、生き生きとしてとても印象深いものになっているようです。日本語で自ら発信する楽しさを学ぶと同時に、自分たちで考えて自主的に活動できる学生に育つよう、サポートしていきたいと思っています。

教師支援 ~言語教育の動向の紹介~

 ロシアでは、大学が5年制から4年制へと移行し、言語教育についても、新たなカリキュラムの作成が求められています。人文大学でも、新しい言語教育の動向にどのように対応し、どのように取り入れていくのかが、大きな関心事であると言えます。報告者が情報を発信するのは日本語学科に対してだけではなく、学科の所属する東洋語学部全体です。1月末には、「第三世代の言語教育」と銘打った学内学会が行われ、そこで、ヨーロッパの言語教育スタンダードや国際交流基金の開発した日本語教育スタンダードについて紹介しました。また、5月末の学会では、学習者中心の教室活動の紹介を行いました。

 ロシア人の先生方の経験、「通訳・翻訳養成」という人文大学の特性、そして学習者中心・運用力重視の言語教育…それらをどのように上手く組み合わせて学習者の日本語力を伸ばすか。ロシア人の先生方と共に試行錯誤していかなければなりません。

地域支援 ~セミナー・大学訪問~

 極東・東シベリア日本語弁論大会や日本語教育セミナーの開催協力は毎年の業務ですが、今年はイルクーツクでも、教授法ワークショップをさせていただきました。また、コムソモリスクでは、日本語教育を行う大学間の交流・協力を促すべく、各大学の国際部を訪問し、極東・東シベリア日本語弁論大会やネットワークについて紹介しました。そこでの話し合いを元に、当該大学所属の日露青年教師とロシア人教師が協力し合い、コムソモリスクでも小さな日本語弁論大会が開かれることになりました。地域の日本語教育の新たな一歩です。今後の方向性を現地の先生と共に考え、支援を続けていく予定です。

 赴任前に目指したこと…達成したこともあれば、軌道修正が必要なこともありました。ロシアという国、ロシアの学生、ロシアの教師に合った支援。常に現地に目を向け、耳を傾け、活動していきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Far Eastern State University of the Humanities
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ハバロフスク地方で唯一の日本語を主専攻とする大学として、当地の日本語教育の中心的立場にある。「通訳・翻訳者養成」を目指した日本語教育を行っている。日本語専門家は、学習者の日本語運用力の向上を図ると共に、日本語教育セミナーや学内学会にて日本語教育に関するワークショップ・発表を行い、教師への刺激となるよう努めている。また、当大学の日本語学科がハバロフスクの日本語教育ネットワークの真のリーダーになれるよう、サポートしていく。
所在地 68 Karl Marx St., Khabarovsk, Russia, 680000
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋語学部日本語学科
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1991年
国際交流基金からの派遣開始年 1993年
コース種別
主専攻
現地教授スタッフ
常勤 12名(うち休職3名、邦人0名) 非常勤 2名(うち邦人0名)
学生の履修状況
履修者の内訳   1年14名 2年14名 3年13名 4年11名 5年26名
学習の主な動機 就職、日本文化に対する興味、留学 など
卒業後の主な進路 教師(日本語・英語)、旅行会社、一般企業など
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N3~N2の受験が可能な程度
日本への留学人数 年に3~5名程度

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