世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ロシア人中心の日本語教育を支援して

極東国立人文大学
小関 智子

成田から飛行機で2時間半、アムール川の畔に広がる極東の街ハバロフスクでは、報告者の赴任している極東国立人文大学・東洋語学部(以下、人文大学)を含め6大学8講座と、4つの中等教育機関、その他民間の語学コースで日本語教育が行われています。唯一、日本語を専門として教え、多くの日本語関係者をスタッフに抱える人文大学は、総領事館の協力の下、当地の日本語教育を盛り上げるべく、様々な活動をしています。

2年生による劇「ももたろう」の写真
2年生による劇「ももたろう」― 日本語で迫真の演技!

9月-日本語能力試験願書受付け、10月-新入生歓迎コンサート、11月-菊の祭りコンサート、12月-日本語能力試験、1月-言語教育座談会、4月-ハバロフスク日本語弁論大会、5月-東洋学国際学術会議と、毎年恒例の様々なイベントがあり、1年を通して、日本語学習支援、文化活動の推進、授業内容の改善、東洋学研究の振興に努めています。日頃の授業と並行して、これだけの仕事を行うロシア人スタッフに、頭が下がる思いですが、今年は更に2つ。日本語教育に関する大きな事業がありました。

極東・東シベリア日本語弁論大会と日本語教育セミナー

極東3都市が毎年持ち回りで行うこの大会。東はカムチャツカから、西はイルクーツク、北はヤクーツクと広い地域の日本語学習者と教師が、今年はハバロフスクに集いました。学生にとっては日本語でのスピーチはもちろん、他地域の学生との交流も大きな経験です。観光ガイドコースを修了した人文大学の4年生が、ハバロフスクの観光プランを作成し、日本語でハバロフスク案内を行いました。参加者のスピーチに刺激を受けた人文大学の学生、日本語の観光案内に刺激を受けた各地の参加者。今でもインターネットで交流を続け、お互いの日本語学習を励まし合っているようです。日本語学習が結ぶ交流の輪が広がりました。

日本語教育セミナーは地方の日本語教師にとっては数少ない学びの場です。報告者やユジノ・サハリンスクの基金専門家ももちろんワークショップを行いましたが、目玉は何と言ってもノボシビルスクから招聘したロシア人講師によるJFスタンダードのワークショップでした。国際交流基金日本語国際センターでの研究成果や自身の教材製作の経験を元にした実践的な内容のワークショップで、日本人教師とロシア人教師が共同で授業案を練りました。まだまだCEFRやJFスタンダードについての情報が不足している極東の教師は、同じロシア人からレベルの高い言語教育の実践を聞いて、かなり刺激を受けていました。

日本語教師のための再教育研修講座

研修講座修了式にての写真
研修講座修了式にて― 教師二世代写真

教育の現場で困っている若手日本語教師に改めて学びの場を提供する――現役教師のための研修コースを実施しました。コンセプトは、「経験の共有」。ベテラン講師の経験を若手に伝えてほしい、という願いで計画しました。担当講師は報告者以外は全てロシア人。顔ぶれも多彩で、教師歴・翻訳歴25年のベテラン教師から、日本の博士課程で研究を続ける人文大学の卒業生まで。モスクワ、ウラジオストクといったロシアにおける日本研究の中心大学出身の教師から、人文大学生え抜きの教師まで。日本語教育の歴史がそれほど長くはない当地で、ロシア各地の日本語教育の歴史を背負うメンバーを集めることができました。2月~3月初旬の5週に渡り、18:30~20:30の2時間・全24回。各講師が得意な分野と参加者の希望を踏まえて、外国語教育理論、日本語文法、聴解指導、翻訳指導、漢字・語彙教育、音声指導、日本事情、IT利用術などさまざまな講義・演習を行いました。

唯一の日本人である報告者は、話す力を伸ばす文法授業の組み立てと進め方について、自身の普段の教え方を実演を交えながら紹介しました。ロシアにはロシアの言語教育観があり、日本的な授業運営は、すぐに100%受け入れられるわけではありませんが、違った角度の教え方に触れることによって、参加者が自身の言語教育を見直し、改善するきっかけにはなったようで、早速授業に取り入れたという嬉しい声も聞きました。

実施後の参加者アンケートでは、「研修で得た情報を既に授業に生かしている」、「今後もこのようなコースがあれば、ぜひ参加したい」「授業の内容だけでなく、色々な教師との交流も役に立った」など、肯定的な評価をもらい、運営側の講師陣も晴れやかな気持ちで修了式を迎えることができました。今回の研修コースを通じて、機関や世代を超えた教師間のネットワークが構築されつつあります。これを今後何らかの形で続けて行ければと思います。

ロシア人が主役の日本語教育で、専門家のできること

この1年、ロシア人が主役の日本語教育を目指して活動してきました。上記の教師研修も、元々は人文大学の日本語学科長のアイディアです。ただ、何かを始めるとき、どのように形にしていくのか、より効果的にするにはどうすべきかを考え、実現への道筋をつけていくことが難しいところであり、その部分が専門家として求められることだと思います。何が必要か、何が足りないか、誰の協力が必要かを考え、コーディネートしていく。他機関の教師とも関係を築き協力を取り付ける、教師と教師の関係をつなぐ、調整する、交流の場を提供する…そういった陰のサポートにこそ、心を砕いてきました。それによって、ロシア人が自身の手で当地の日本語教育を一歩前に進めることができたなら、私の目標の一つは達成できたのかもしれません。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Far Eastern State University of the Humanities
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ハバロフスク地方で唯一の日本語を主専攻とする大学として、当地の日本語教育の中心的立場にある。「通訳・翻訳者養成」を目指した日本語教育を行っている。日本語専門家は、学習者の日本語運用力の向上を図ると共に、日本語教育セミナーや学内学会にて日本語教育に関するワークショップ・発表を行い、教師への刺激となるよう努めている。また、当大学の日本語学科がハバロフスクの日本語教育ネットワークの真のリーダーになれるよう、サポートしていく。
所在地 68 Karl Marx St., Khabarovsk, Russia, 680000
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋語学部日本語学科
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1991年
国際交流基金からの派遣開始年 1993年
コース種別
主専攻
現地教授スタッフ
常勤 9名(休職1名、邦人0名) 非常勤 2名(休職 2名、邦人0名)
学生の履修状況
履修者の内訳   1年13名 2年11名 3年14名 4年13名 5年12名
学習の主な動機 日本文化に対する興味、留学、就職 など
卒業後の主な進路 教師(日本語・英語)、旅行会社、一般企業など
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N3~N2の受験が可能な程度
日本への留学人数 年に3~5名程度

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