世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 『関わり』をどう意識し、今後どう形成するか、させていくか。

サハリン国立総合大学付属経済東洋学大学
竹口 智之

本州以南の方から見ると、極東サハリン州がどのような所であるか想像するのはなかなか難しいかもしれません。ましてやそこでどのような日本語教育が行われているかを知る機会などめったにないのではないでしょうか。。限られた字数ではありますが、極東サハリン州での日本語教育の状況についてご紹介したいと思います。

(1)近い「日本」の存在

州都ユジノサハリンスク市からだと、日本はそれほど遠い存在ではありません。かつては留学プログラムが限定されていたのですが、ここ数年で日本留学プログラムが多様化し、毎年一定数の学生が日本に留学したり、ボランティアに参加したりしています。これは大変恵まれたことで、教室内での「日本に行った時のシチュエーション作り」は、かなり学生にとっても身近に感じられることだと思いますし、学生に「教室外でもこれだけのことができる。」と実感させることがネイティブ教員の役割の一つとも言えます。

一方でこういった距離的近接さから、他の極東地域やロシア内陸部の学生に比べ、貪欲さに少し欠ける学生がいるのも事実です。素直に傾聴している姿勢は素晴らしいのですが、教えられるのを待っているとでもいいましょうか…。日本語だけではなく、色々な面で「自ら課題を見つけ、学習を方向付けていく。」という姿勢を、授業や課題などで培っていくことが課題の一つと考えています。

(2)「日本」というコンテンツの見せ方

月1度開催する会話クラブでの一コマの写真
月1度開催する会話クラブでの一コマ
第13回(2012年)サハリンスピーチコンテスト、第2回詩の暗唱コンテスト開催前の写真
第13回(2012年)サハリンスピーチコンテスト、
第2回詩の暗唱コンテスト開催前

私たちの日本語教育活動は以下のことが期待されていると思われます。ここで「私たち」という言葉を使ったのは、サハリンにおける日本のコンテンツの見せ方が、決して私や現地ネイティブ日本語教師だけで行われているわけでないからです。

毎月行われる会話クラブにおいては20~30名前後の方が集ります。一般企業の方(日本人、ロシア人とも)や一般教育機関の日本センターで日本語を学習している方々が「交流」を第一目標とし、この会話クラブに来てくださいます。来てくださる方には好評を博していますが、より充実した内容にするために、入念な話し合いは欠かせません。

また、毎年行われる書道コンテスト、スピーチコンテスト、詩の暗唱コンテストは、サハリン州、北海道サハリン事務所、日本領事館など各界からご協力をいただいての行事です。1人でも多くの学生がこういった行事に参加し、日本語だけではなく、日本社会や人々の関わりを実感してもらえるよう私たちは働きかけなければなりません。

(3)急変する社会と対応するべき日本語教育

ロシア社会全体で慢性的な人口減少が続いています。今の大学1~2年生にあたる学年はソ連崩壊、その後の経済混乱のため、特に出生率が低く、日本学専攻だけではなく、他の学部も同様に入学者数が少ない状況です。しかし、サハリン州に限ってはこのところ出生率が上昇し、逆に幼児教育機関が足りないほどになっています。さらに、日本語を学ぶ小~高校生も一定数見られるようになり、現地の熱心な教員によって日本語教育が実施されています。上記の行事に、大学生だけではなく様々な機関から参加してくださることは、今後の日本語教育にとっても歓迎するべきことです。

しかしながら、こういった学年相当に適した教材や現地の状況に即した教材がなかなか見当たりません。サハリン州の日本語教育全体を大きく考えると、今後はこういった層が段階的に学習できる教材の作成が課題と言えるかもしれません。

(4)学習をどう結び付けるか

各学年の中には私が指導する側になるのが恥ずかしいぐらい、優秀な学生がいます。が、こういった学生の受け皿は必ずしも広いわけではありません。学生時代に学んだことを生かす学生が一人でも多く輩出することが高等教育機関の狙いの一つです。しかし、諸々の事情で大学での学習事項とその後の就職に一貫性が見られないことが多いのが現状です。

派遣専門家の日本語教育は、教室内での活動を充実されることも確かに重要ミッションの一つです。しかしながら、今後はそれにとどまらず、広くサハリン・ロシアを見渡し、人・言語・社会を結び付けられる視野や活動も求められているように思われます。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 サハリン国立総合大学付属経済東洋学大学
Sakhalin State University, Institute of Economics and Oriental Studies
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
サハリン州内唯一の国立高等教育機関である。また、前身が教育系の大学である。州内における初・中等教育機関での日本語教育も多くが、この大学出身者である。業務内容は日常の授業運営の他、サハリン州スピーチコンテスト、詩の暗唱コンテスト、書道コンテスト等の日本語・日本文化行事を各界の協力を仰ぎつつ実施すること、現地教員との勉強会、セミナーの企画などである。
所在地 Kommunisticheski Prospect 33, Yuzhno-Sakhalinsk, 693000, Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋学部 言語学科日本語専攻/東洋学科日本語専攻
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1989年
国際交流基金からの派遣開始年 1993年
コース種別
言語学科/東洋学科:日本語専攻
現地教授スタッフ
常勤9名(うち邦人2名)
学生の履修状況
履修者の内訳   1年生19、2年生7、3年生26、4年生11、5年生18
学習の主な動機 ・日本語・日本文化への興味
・日系企業就職
卒業後の主な進路 一般企業、外資系企業、日本の大学・大学院
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
2010年度以降の日本語能力試験N2が受験可能なレベル
日本への留学人数 25名前後

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