世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)変化する日本教育の現場から

極東国立人文大学
松本 茜

「ボルシチ、ピロシキ、チェブラーシカ…」みなさんが持つロシアのイメージはどうでしょうか。ハバロフスクに赴任する前はどこか遠い国のように感じていたロシアですが、ハバロフスクのある極東ロシアは、成田から約2時間半で行くことのできる日本から地理的にも近いところです。街には日本車が走り、日本食レストランや日本の食材を取り扱うスーパーも多く見かけます。日本のアニメや漫画等のポップカルチャーの人気も高く、日本や日本文化に対する興味関心は非常に高いものを感じます。

日本文化だけではなく、現在ハバロフスクでは、10の公的機関とその他民間学校で日本語が教えられており、報告者の派遣先の極東国立人文大学(以下、人文大学)はハバロフスクで唯一、日本語を主専攻として教える大学です。人文大学の東洋語学科は、「通訳・翻訳養成」を目的としており、熱い思いを持った現地教師と学生たちが、日々熱心に日本語と向き合っています。

日本語専門家の役割

国際交流基金日本語専門家(以下、専門家)が人文大学に求められている主な役割は、学内においては、1年生から5年生までの授業を担当する他に、現地教師へのアドバイス、日本語クラブの顧問、日本語能力試験や弁論大会の運営、希望者対象の日本語能力試験受験者クラスや日本語弁論大会出場者の指導等があります。一方、学外では現地日本人とのパイプ役として日本人教師会の運営やハバロフスクの日本語教育機関全体のネットワーク作りという大きな役割が任せられています。報告者は上記のような学習者、教師、地域の3つの側面から支援を行いながら、現地スタッフとともに試行錯誤の日々を繰り返しています。

第15回ハバロフスク日本語弁論大会~日本語を通して広がる輪~

ハバロフスクでの最も大きな日本語関連行事といえば、今年で15回目を迎えた日本語弁論大会だと言えます。弁論大会には「暗唱部門」と「スピーチ部門」があり、さまざまな学習段階の学生が参加しています。今年も26名の参加者と約80名の観客が集まり、大いに盛り上がりました。開催校である人文大学では、年明けから学部長を始め、東洋語学科の教師と何度も会議を重ね、国際部職員や学生たちの協力のもと、人文大学スタッフ全員で大会開催を盛り上げました。報告者は、ずっと経験も知識も豊富な現地スタッフに支えられながら、人文大学や他機関の出場学生に対するスピーチ指導を行うとともに、領事館や日本人教師会、日本人会、日本企業の方々とのパイプ役となり、地域全体で創り上げる大会を目指し、関係者がスムーズに仕事ができるよう調整することに努めました。

弁論大会は、日頃からイベントの多い大学生のみならず、児童・生徒、社会人の学習者などにも広く日本語学習の成果を発表する機会を与えることができる貴重な大会だと言えるでしょう。また、勝ち負けではなく普段はお互いに会う機会がほとんどない学習者たちが、この機会に日本語を学んでいる同じ仲間として日本語を通して、ともに刺激し合い高め合う姿は心打たれるものがあり、日本語教師として、また日本人として弁論大会に関わることのできる喜びを強く感じました。

学外での支援~専門家に求められるさまざまな能力~

授業の様子
書道体験の様子

派遣先の学内での主な業務は日本語の授業ですが、学外での支援は、日本語の授業以外の支援を求められることも少なくありません。報告者の場合、市内にあるシュコーラ(ロシアの初等・中等教育機関)で第2外国語として日本語を教えている学校から「日本語の日」のイベントや日本文化授業の一環として、書道の指導依頼を受け12歳~15歳の生徒約40名に対し、書道の授業を2回担当しました。また、毎年春に領事館が主催し開催する「カラオケ大会」に出場する生徒たちへの歌の指導も行いました。日頃、日本語を専攻している大学生と触れ合う時間が多い報告者にとって、初めて書道を体験する生徒、初めて大会で日本の歌を歌う生徒に日本語で指導することは難しい点も多かったですが、生徒たちが目を輝かせながら嬉しそうに日本文化に触れ、吸収していく姿を見ると何にも代えがたい喜びが生まれてきます。その他、人文大学の卒業生が中心となり作った日本文化に興味のあるロシア人のグループから依頼を受け、折り紙や剣道体験の場を持つ機会もありました。 このように学外での支援は、日本文化に興味関心を持っている人たちに対する様々な方面からのアプローチを受けることも多く、専門家は日本語とはまた違う方面の知識や経験、指導を求められています。それらの多様な依頼や希望に少しでも応えられるよう、常に日本語は勿論のこと、日本文化や日本についてアンテナを張り、勉強し続ける努力も必要なのではないかと思っています。

ハバロフスクにおける日本語や日本文化に対する人気はまだまだ根強いものがある一方で、近年の中国語人気に伴い日本語学習者が減少傾向にあります。このように日々変化する日本語教育の現状の中で、専門家は敏感にその変化に気づき、どのような支援ができるかをしっかり見極め、地域全体を巻き込みながら広がりを持った活動へと繋げていく必要性があると思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Far Eastern State University of the Humanities
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ハバロフスク地方で唯一の日本語を主専攻とする大学として、当地の日本語教育の中心的立場にある。「通訳・翻訳者養成」を目指した日本語教育を行っている。日本語専門家は1年生から5年生までの全学年の日本語の授業を担当し、学習者の日本語運用力の向上を図るとともに、学科運営への提案、現地教師へのアドバイス、若手教師の育成、現地の日本人とのネットワーク形成補助等を行う。また、週1回の課外クラブ「日本語クラブ」の顧問として活動をサポートしている。
所在地 68 Karl Marx St., Khabarovsk, Russia, 680000
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
歴史・東洋語学部東洋語学科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1991年
  国際交流基金からの派遣開始年 1993年
 
コース種別
  主専攻
 
現地教授スタッフ
  常勤 6名(うち邦人0名) 非常勤 2名(休職 2名、邦人0名)
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年18名 2年16名 3年12名 4年15名 5年11名
  学習の主な動機 日本語・日本文化に対する興味、留学、就職など
  卒業後の主な進路 教師(日本語・英語)、旅行会社、一般企業など
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N3~N2の受験が可能な程度
  日本への留学人数 年に2~4名程度

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