世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)モスクワの日本語専門家

モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学
須賀美紀

モスクワに派遣されている国際交流基金日本語専門家(以下、専門家)には、派遣先機関であるモスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学における日本語の授業の他、ロシアにおける日本語教育の普及と、日本語教育機関や教師に対する支援などが期待されています。今回は2013年8月に着任してから、この1年に私が行ってきた業務を大きく3つに分けてご紹介したいと思います。

モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学(以下、ISAA(通称イサア))での授業

ISAAは260年もの歴史を持つモスクワ国立大学の一機関で、1956年に設立されて以来、ロシアにおけるアジア・アフリカ研究と人材育成の中心的役割を果たしてきた研究教育機関です。そのISAAの日本語学科もまた、開設以来ロシア国内外の日本研究と日本語教育をリードしてきました(ロシアの日本語教育事情についてはこちらをご参照ください)。

授業の様子
ペア練習する歴史学部日本語学科の1年生

日本語学科には1年生から大学院2年生まで140名以上の学生が在籍しています。ここでは第一線で活躍する19人もの教授陣が、日本文学、翻訳・通訳法を専門に教鞭を取っており、専門家もその一員として日本語専門家育成の一翼を担っています。モスクワ大学には協定を結んでいる日本の大学が数校あり、毎年20名近くが日本に留学します。毎年の新入生は30名弱なので、入学者の3分の2以上が日本で学ぶ機会を持つということです。私が担当している1年生の授業では、彼らが将来活躍する姿を思い描きながら、学んだ知識を適切に運用して情報や意見の交換ができるようになるよう、クラス内外でのアンケートやインタビュー活動を積極的に取り入れるようにしています。

モスクワJF日本語講座の運営

講義の様子
JF講座ビジターセッションのひとコマ

ロシアにおける日本語の普及を目的として、モスクワでは国際交流基金(以下、基金)が主催するモスクワJF日本語講座(以下、JF講座)が2011年9月から開講されています。この講座では、JF日本語教育スタンダード準拠コースブック『まるごと 日本のことばと文化』を使用し、現在は5レベル10クラス、総勢約200名が週2回コミュニケーションと文化理解のための日本語を勉強しています。毎学期定員50名のところに600名近くが応募するほど大変人気のある講座ですが、開設から3年目を迎え規模が拡大するにつれて、運営上の課題も見えてきました。ここでの専門家は講座の授業を担当する傍ら、講座の運営全般を担当しています。特に今年はカリキュラムの改訂、新人講師の採用と育成に力を入れてきました。現在はロシア人9名、日本人6名の講師が従事していますが、この講師達はJF講座だけでなく、ロシアの様々な教育機関で日本語の普及と日本語教育の発展に貢献しています。講師を取りまとめ、日々の教案指導や授業観察などを通して教育の質の向上を図ることも専門家の仕事です。その他、JF講座では、毎学期日本人ゲストを招いたビジターセッションを実施しています。2014年1月にはモスクワ在住の日本人19名(延べ54名)を迎えることができ、受講生からもゲストからも好評を博しました。このようにモスクワの専門家は、ロシアと日本の懸け橋となる人材の育成に尽力すると同時に、自らも学習者と「生の日本」とを繋ぐ懸け橋であるよう努めています。

ロシアにおける日本語教育支援

ロシアでは現地の日本語教育支援の一環として、これまで様々なテーマで各地の専門家が発表を行う日本語教育セミナーが実施されてきました。2011年からは、専門家も審査員等で協力しているCIS学生日本語弁論大会の開催時期に合わせて、定期的に開催されるようになりました。このセミナーにはロシア各地のみならず、CIS諸国からも研究者や教師が参加しています。2013年10月のセミナーでは、私の発表に関心を持ってくださった参加者から出張授業とセミナーの依頼を受け、その数か月後、実際にエカテリンブルクという地方都市に出向いてセミナーとワークショップを行いました。

また、2014年3月にはモスクワ市内とその近郊の初中等教育機関を対象に詳細な実態調査を実施しました。モスクワ市では2007年9月から初中等教育段階に日本語が正式に導入されています。現在、モスクワ周辺では17の公立学校で日本語と日本文化が学ばれていますが、その多くで、ロシア人の若手教師達が十分な教材もない状況で孤軍奮闘しています。この4月からは調査結果をもとに学校訪問したり個別相談に応じるなどして、個々の教師の支援に努めるとともに、同じ志を持つ者同士が共感し合える場としてのネットワークの形成に協力しています。各現場で必要とされていることを丁寧に汲み取り、その要望に一つ一つ応えていくこと、こういったこともモスクワの専門家に求められている活動の一つです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学
Institute of Asian and African Studies, Moscow State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
本学はモスクワ国立大学を構成する諸機関の一つ。アジア、アフリカ地域を対象とした研究と教育の2つの役割を担っている。また、全ロシアのアジア・アフリカ研究の教育指導機関であるため、同国の言語教育の共通シラバス策定も行う。日本研究、日本語教育では文学作品の翻訳、教科書の執筆、通訳等の活動で著名な教授陣を揃え、1950年代からロシアの当分野を牽引してきた。日本語上級専門家はここで日本語を教えると共に、2011年からモスクワに設置されているJF日本語講座の運営全般、主にモスクワ地域における日本語の普及と日本語教育支援、セミナーの実施、教師研修、日本語教育事情調査、日本語関連行事への協力等を行っている。
所在地 Russia, 125009, Moscow, Mokhovaya Str. 11
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学  *学生はそれぞれ文学部、政治学部、経済学部、歴史学部に所属し、各学部から日本語を専門とする日本語学科を専攻している。
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1956年
  国際交流基金からの派遣開始年 1993年
 
コース種別
  専攻
 
現地教授スタッフ
  18名(うち邦人1名)
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年29名、2年28名、3年31名、4年10名、修士他各数名
  学習の主な動機 日本・日本の言語・文化・社会等への関心
  卒業後の主な進路 進学、教員、マスコミ、外務省、一般企業、日系企業
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N1~N2程度
  日本への留学人数 年間20名程度

ページトップへ戻る