世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)現場をいかに解釈し、取り組むべきか―サハリンの日本語教育の現場から―

サハリン国立総合大学付属経済東洋学大学
竹口智之

日本におられる方々に「サハリンで日本語を教えている」と言っても、状況をご理解いただくのに、かなりの時間を要します。こちらの方は日本語を勉強しているか否かに関わらず、日本に対して隣国意識を持っています。限られた字数ですがその概略を述べ、少しでもこちらの日本語教育事情を知っていただければと思います。

(1)「日本」というコンテンツの見せ方

ユジノサハリンスク市では日本映画祭が毎年開催され、2014年の3月には領事館主催で市内一の大型ショッピングモールにて「日本文化デー」が開催されました。後者の行事においてはブースに分かれ、書道や着物、茶道や折り紙等の体験コーナーも用意されました。派遣校の学生も見学しただけではなく、色々と運営を手伝ってくれて、イベントは好評を博しました。サハリンにおいて日本人気は現在も概して高いと言えるでしょう。私たち日本語教師はこういった日本のコンテンツに支えられて日常に従事できると言えます。 こういった伝統文化への理解を深める一方で、日本社会ではいかなる潮流が起きつつあるかについて、海外にいる教師は情報収集を怠らず、感受性を磨いておかなければなりません。留学する機会は以前より格段に増えましたが、固定化された日本文化を伝えるのではなく、学生に「日本を発見させる」ということも伝えていければと思っています。

(2)行事運営

国際交流基金日本語専門家は日常の大学での授業の他に、以下の業務に携わっています。

①月1回行われる会話クラブの企画・運営

②4月~6月から始められる書道コンテスト・日本語スピーチコンテスト・詩の暗唱コンテストの準備

①はサハリンにいらっしゃるロシア人 / 日本人が、交流を楽しめる場となる行事です。サハリンにいらっしゃる日本人のご協力もあって、毎回楽しい会合をさせていただいています。また、行事によっては派遣校の学生にも一部運営を手伝ってもらったりもしています。②もサハリン州教育省、北海道、企業の皆さまの協力を得て実施しております。書道はサハリンで日本語教育が行われている初・中等教育機関では特に好評で、指導に行くと、生徒からひっきりなしに声がかかり評価や見本を求められます。

スピーチコンテストの様子
2013年5月に行われた
第14回サハリン日本語スピーチコンテスト

 

書道コンテスト作品写真
今年度の第9回書道コンテストの出展作品

(3)教育現場から

ユジノサハリンスク市では現在、3つの高等教育機関と4つの初・中等教育機関で日本語教育が実施されています。日本語教育が開始された経緯は様々ですが、ソ連時代にまで遡る歴史的背景を持つ学校もあります。一昨年、勤務校に「サハリン日本語リソースセンター」が設置され、大学だけではなく全ての日本語教育機関の先生方・学生にも一定数の教材が利用できるようになりました。これにより従来の課題であった「教材不足」は幾分か改善されたといえるかもしれません。 一方で、日本語という教科や「学び」という活動そのものに、やりがいを見出すのが従来よりも難しくなったと述べられる先生もいらっしゃいます。最早使われなくなったのかもしれませんが、「勉強したら将来役に立ちますよ」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。しかしその「役に立つ」というのが、いかなる方向を示すものなのか、教員側は何らかの形で示す必要があります。モノが豊富になったサハリンでも、日本語や教科を学ぶことによって、学習者にいかなる将来像を描かせるかが重要です。

(4)学生に関して

最後に日々対面している学生についてお話したいと思います。ロシア社会も変動を続けています。社会が変動すると、世代間の認識や考えに開きが生まれるのかもしれません。先生方(少し前は派遣校の学生であった方が多い)からは、「全体的に緩くなった」「以前の学生は本当に大人だった」という声が聞かれます。私はかつてのロシアの大学を経験したことはないのですが、「そうなのかな」と実感することもあります。

私の感触では、こちらの学生は概して色々な面で「おとなしい」青年が多いです(もちろん、少数ながらきっちり意見表明ができる学生もいます。)しかし、その中でも「内に秘めた情熱や才能」が垣間見られる学生がいるのも事実です。私たちの役割は、そういった学生の潜在能力をいかに磨き上げるかが何よりも重要であると言えます。よきスタイルを確実に残しつつも、変えうるべきところは躊躇してはいけないのかなと、日々反省しつつ取り組んでおります。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 サハリン国立総合大学付属経済東洋学大学(次年度改称予定)
Sakhalin State University, Institute of Economics and Oriental Studies
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
サハリン州内唯一の国立高等教育機関である。また、前身が教育系の大学である。州内における初・中等教育機関での日本語教育を担う者の多くが、この大学出身者である。業務内容は日常の授業運営の他、サハリン州スピーチコンテスト、詩の暗唱コンテスト、書道コンテスト等の日本語・日本文化行事を各界の協力を仰ぎつつ実施すること、現地教員との勉強会、セミナーの企画などである。
所在地 Kommunisticheski Prospect 33, Yuzhno-Sakhalinsk, 693000, Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋学部 言語学科日本語専攻/東洋学科日本語専攻
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1989年
  国際交流基金からの派遣開始年 1993年
 
コース種別
  言語学科/東洋学科:日本語専攻
 
現地教授スタッフ
  常勤9名(うち邦人2名)
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年生14、2年生18、3年生8、4年生24
  学習の主な動機 ・日本語・日本文化への興味
・日系企業就職
  卒業後の主な進路 一般企業、外資系企業、日本の大学・大学院
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
2010年度以降の日本語能力試験N2が受験可能なレベル
  日本への留学人数 25名前後

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