世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)モスクワの日本語専門家

モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学
須賀美紀

モスクワに派遣されている日本語専門家(以下、「専門家」)には、派遣先機関であるモスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学における日本語の授業の他、ロシアにおける日本語教育の普及と、日本語教育機関や教師に対する支援などが期待されています。今回は、それぞれの現場におけるこの1年のエピソードを少しずつご紹介したいと思います。各業務の概要については、このサイトの2014年度版をご参照ください。

モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学(以下、「ISAA」(通称イサア))での活動

昨年度、ISAAではとても喜ばしい出来事が2つありました。2014年10月、ロシアおよびCIS諸国等における50年以上に渡る日本語教育分野での貢献が高く評価され、「2014年度国際交流基金賞」を受賞しました。さらに12月には、ISAAの現日本語学科長であるステラ・ブィコワ先生が、「ロシアにおける日本語教育の発展及び相互理解の促進に寄与した」として、旭日中綬章を受章されました。在ロシア日本国大使公邸で厳かに執り行われた叙勲伝達式には私も参列させていただきましたが、ISAAの長い歴史の一幕に関わっていることを誇らしく思うと同時に、その一端とは言え、自身に負わされている重責に改めて身の引き締まる思いがしました。私は今ISAAで1年生3クラスの日本語の授業を担当しています。「あいうえお」から学び始めるこの1年は、彼らの将来の基礎となる重要な期間です。私が学生達と関われる時間は限られていますが、与えられた時間の中で、彼らに秘められた才能を最大限に引き出せるよう努力していきたいと思っています。

モスクワJF日本語講座のビジターセッションと修了式

JF講座ビジターセッションの写真
JF講座ビジターセッションのひとコマ

モスクワJF日本語講座(以下、「JF講座」)では、2015年5月現在5レベル10クラス、総勢約180名が、実際のコミュニケーションを目指した日本語を学んでいます。JF講座は2月開始の春学期と9月開始の秋学期の年2学期制ですが、毎学期、学期末にあたる6月と1月には、コミュニケーションの実践の場として、日本人をゲストに招いたビジターセッションと、文化発表会を兼ねた修了式を実施しています。2014年1月のビジターセッションでは、ロシア語を学びに来ている留学生、モスクワ日本人学校の先生や職員の方、商社の語学研修員、駐在員のご夫人、ご家族と一緒に在住しインターナショナルスクールに通う高校生など、14名(延べ36名)の方にご協力いただきました。セッション後、講座の受講者に行ったアンケートでは、「ゲストと日本語でのコミュニケーションを楽しめましたか」という質問に対して、92%が「大変満足」、8%が「満足」、つまり参加者の100%が「満足」と回答してくれました。このビジターセッションが日本や日本語に対する興味を深め、学習を継続する動機付けに貢献していることが窺われます。

JF講座の修了式は、毎回全クラス合同で、モスクワ日本文化センターが入っている外国文献図書館のイベントホールを借用して盛大に行われます。そこでは、1学期間の出席率が100%だった受講者が舞台上で一人一人修了証を授与され、その後、受講者有志による文化発表会が行われます。2014年1月の修了式では、日本の昔話の人形劇、コスプレでのダンス、琴や三味線の演奏、日本の舞踊や歌などが披露されました。その他、日本での研修報告、日本語によるスピーチやプレゼンなどをしてくれる人もいて、知識や技能の共有の場、共感の場ともなっています。以上のように、JF講座での専門家は、講座の運営全般を担当するとともに、日本語や日本文化を愛してくれる人々に日本語を通して共感し合える場を提供するという役割も担っています。

中等教育(学校)における日本語教育支援

日本語教育セミナーの写真
日本語教育セミナーの様子

モスクワの専門家はISAAという大学機関に派遣されていますが、広く一般の人々に日本語を普及したり、日本の中学校や高校にあたる学校での日本語教育を積極的に支援したりもしています。ロシアの学校教育に日本語が導入されたのは2007年のことで、まだ10年も経っていません。現在、モスクワとその近郊では17校(2015年5月時点)で日本語のクラスが開講され、約600人の生徒が学んでいます。しかし、各校には、大学で教育学と日本語を専攻した若手の教師が1名ずつしかいないのが普通です。孤立して悩みを抱えている教師達を支援し、学校での日本語学習を生徒や保護者にとってより魅力あるものにしてもらうため、これまで学校の教師を対象としたセミナーや会合を企画したり、モスクワ日本文化センターのホームページを整備して有用な情報の提供に努めたりしてきました。2015年3月には、念願だったWeb版『エリンが挑戦!にほんごできます』(国際交流基金が制作したe-learningサイト)の動画スクリプトのロシア語訳も完成し、モスクワ日本文化センターのホームページからダウンロードできるようにもなりました。学校で日本語を学ぶ生徒だけでなく、日本語がわからない子ども達や保護者の方々も家族一緒になって『エリン』に親しみ、日本文化について楽しく語り合ってくれることを期待しています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学
Institute of Asian and African Studies, Moscow State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
本学はモスクワ国立大学を構成する諸機関の一つ。アジア、アフリカ地域を対象とした研究と教育の2つの役割を担っている。また、全ロシアのアジア・アフリカ研究の教育指導機関であるため、同国の言語教育の共通シラバス策定も行う。日本研究、日本語教育では文学作品の翻訳、教科書の執筆、通訳等の活動で著名な教授陣を揃え、1950年代からロシアの当分野を牽引してきた。専門家はここで日本語を教えると共に、2011年からモスクワに設置されているJF日本語講座の運営全般、主にモスクワ地域における日本語の普及と日本語教育支援、セミナーの実施、教師研修、日本語教育事情調査、日本語関連行事への協力等を行っている。
所在地 Russia, 125009, Moscow, Mokhovaya Str. 11
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学(「ISAA」(通称イサア))日本語学科
ISAAは正式にはモスクワ大学の「一学部」だが、規模が大きく、一教育・研究機関としての独立性を保持しており、日本語では「大学」と称される。学生は日本語学科に所属する前に、専門の学部(文学部、経済学部、政治学部、歴史学部に所属し、それぞれの所属学部から日本語を専門言語として専攻している。
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1956年
  国際交流基金からの派遣開始年 1993年
 
コース種別
  専攻
 
現地教授スタッフ
  18名(うち邦人1名)
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年29名、2年28名、3年31名、4年37名(含留学中)他
  学習の主な動機 日本・日本の言語・文化・社会等への関心
  卒業後の主な進路 進学、教員、マスコミ、外務省、一般企業、日系企業
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N1~N2程度
  日本への留学人数 年間20名程度

ページトップへ戻る