世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ロシアでの日本語教育普及を願って

モスクワ市立教育大学
大田美紀

ロシアに日本語教育アドバイザーとして派遣される日本語専門家(以下、「専門家」)は派遣先大学での授業の他、ロシア全体の日本語教育支援活動(各地域教育機関訪問・コンサルティング、ネットワーク作り、教師研修実施など)を行っています。今回は派遣先である大学と、ロシアの地方の大学を訪問したときの様子をお伝えします。

将来の日本語教師を育てたい
(モスクワ市立教育大学(MGPU))

専門家の派遣先であるモスクワ市立教育大学(以下、通称である「MGPU」)では、2006年より日本語教育が行われています。当初は初中等教育機関の日本語教員の養成を目的とし、日本語教育主専攻の学生たちはモスクワ市内の学校での教育実習なども行ってきました。しかし最近は学生の就職先となる、日本語教育を導入している初中等教育機関が減少気味で、2011年には、より実用的で就職につながりやすいということから、通訳・翻訳が主専攻となり、日本語教育は副専攻になってしまいました。

そんな状況の中でも、「将来の日本語教師を育てたい」という日本語学科講師たちの思いは熱く、それを受けて日本語教育を選択し、将来日本語教師を目指す学生もいます。日本語教育を取り巻く社会の状況はすぐには変えられませんが、「日本語教師を育てたい」「日本語教師になりたい」というMGPUの講師や学生たちに少しでも応えていきたいと思い、バリエーションのある教室活動や異文化理解を取り入れた授業など、学生たちが将来の教師としても役立つ授業を心掛けています。少しでも多くの学生たちが「授業は楽しい」、「日本語教育は楽しい」と思ってくれることを願いながら・・・。

地方大学の弁論大会と日本文化祭

弁論大会入賞者の写真
弁論大会入賞者(左から2位、1位、特別賞)

5月下旬、モスクワから南東へ列車で約3時間のところにあるリャザン大学で日本語弁論大会と日本文化祭が行われ、専門家は弁論大会審査員として招かれました。リャザン大学は、ロシアの有名な詩人、エセーニン生誕の地でもあり、大学の正式名称も「エセーニン名称リャザン国立大学」です。弁論大会は8回目、日本文化祭は10回目になりますが、今年はリャザン大学創立100周年、また日本語学科創立15周年にあたり、盛大な文化祭が行われました。リャザン大学の1年生から3年生にとってこの弁論大会は10月にモスクワで行われるモスクワ国際学生弁論大会の予選に当たるため、発表する学生はとても真剣です。でも、もうすぐ卒業する4年生や、リャザン大学以外の日本語学習者の中にも、「日本語でのスピーチを皆に聞いてもらいたい」という人がいます。そういう学習者にも出場枠が与えられ、別に審査が行われました。4月から10月にかけて、ロシア各地でモスクワ国際学生弁論大会の予選大会の多くが実施されます。出場者はもちろんですが、学生を指導する教師にとっても、晴れの舞台に向けた大切な行事です。全ての弁論大会にお邪魔するのは難しいですが、専門家もできるだけ各地の弁論大会に参加したいと考えています。

生け花実演の写真
生け花実演中

文化祭では講師や学生による文化体験コーナーが設けられ、他学部や外部からの来場者に日本文化を紹介しました。生け花紹介のコーナーでは、まず生け花の講師による説明と実演が行われましたが、豪華に飾るのを好む傾向があるロシアの人々にとっては、シンプルに花を飾るのは難しいようです。「花を足すか迷ったら、足さないで引いてください」と講師が何度も説明していたのが印象的でした。文化祭には外部からの参加者も多く、地域での日本文化、日本語教育の普及につながってほしいという大学の思いが込められています。こういった各地での日本語普及活動もできるだけサポートしていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ市立教育大学(略称:MGPU
Moscow City Teachers’ Training University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
派遣先機関であるモスクワ市立教育大学は、初等・中等教育の教員養成を主目的として日本語教育が行われている。日本語専門家は同大学での授業を担当する他、ロシア全体の日本語教育状況の把握や、ネットワーク構築、教師支援といったアドバイザー業務を行っている。
所在地 Russia, 105064,Moscow, M.Kazenny per., 5
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
1~4年:東洋学部、及び言語学部  5年:言語文化教育学部
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