世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)人的交流で進める西シベリア地域日本語教育

ノボシビルスク国立大学
奥村朋恵

ノボシビルスクはシベリア中央に位置する人口150万人のロシア第三の都市です。この町は19世紀末、シベリア鉄道のオビ河鉄橋建設の際に誕生し、後にロシア語で「新しいシベリア」を意味するノボシビルスクと改名されました。札幌市との姉妹都市交流が盛んではあるものの在外公館はなく、日系企業が1社、在留邦人は日本語教師3名を含め約10名というこの地で、ロシア人中心の日本語教育と日本研究、日露文化交流が行われています。当地での日本語専門家(以下、専門家)の任務は派遣先大学にて日本語教育の側面支援を行うことと、周辺地域の日本語教育の普及・発展に努めることです。

①ノボシビルスク国立大学

ノボシビルスク国立大学新校舎の画像
ノボシビルスク国立大学新校舎

派遣先機関であるノボシビルスク国立大学は市内から南東へ20キロ、白樺と針葉樹の森に囲まれた研究学園都市(アカデムゴロドク)にあります。人文学部東洋学科で日本語を学ぶ学生の半分はノボシビルスク市周辺の出身ですが、他にもオムスク市、ケメロボ市、サレハルド市、チェリャビンスク市、チタ市、トゥヴァ共和国、ハカス共和国、ブリヤート共和国などシベリア各地から学生が集まっています。東洋学科の専攻は歴史、言語、芸術に分かれており、歴史専攻の学生の中には考古学や民俗学といったシベリアの特性を生かした研究アプローチを用いる学生もいます。専門家が担当する日本語会話・口頭発表の授業では、学んだ知識を最大限に運用して学生自身の意見や考えを伝える授業をロシア人教師と連携して作り上げていくこと、卒業国家試験に向けて卒業論文概要を日本語で発表できるよう指導することが主に期待されています。卒業後に研究を継続する学生は決して多くはありませんが、シベリア地域の日本研究を支える立場としてノボシビルスク大学が発展し続けるために貢献できればと思います。

②ノボシビルスク周辺地域

ノボシビルスクでは毎年3月にシベリア日本語教育シンポジウム、5月に西シベリア地域日本語弁論大会、12月に日本語能力試験が開催されます。これら日本語教育行事を主催するシベリア日本語教育協会(以下、教育協会)にはシベリア地域の19の日本語教育機関が加盟しています。中でも教育協会運営業務の大半を担い、今年新たに開発した初級教材を用いて市民向けに日本語講座を実施しているシベリア・北海道文化センターは、ノボシビルスク市の文化・教育・青年対策局の行政機関として日本文化体験プログラムを提供する、日露市民文化交流事業の窓口です。

ラヴレンツェフ名称130番リツェイにおける「日本の日」の様子の画像
ラヴレンツェフ名称130番リツェイ「日本の日」

今年度は西シベリア地域の高等教育機関(ノボシビルスク国立教育大学、ノボシビルスク国立経済・経営大学、シベリア連邦大学)への授業訪問と日本語教育セミナー開催に加え、初中等教育機関(小学校~高等学校、ギムナジウム、リツェイ)を訪問する機会がありました。ラヴレンツェフ名称130番リツェイでの日本文化イベントでは、「有名な侍の子孫は現在何をしていますか」、「現代の日本に忍者はいますか」、「日本の高校生の間では今どのようなことが人気ですか」などの質問を日本語学習経験のない13、14歳の生徒から受けました。日本・日本語・日本文化の紹介や文化体験イベントでロシア人教師に同行、協力するとともに、生徒にとって「まずは初めて会った日本人」になるのも業務の一環です。というのも、当地の日本語教師が抱える問題として日本語母語話者不足が挙げられます。対策としては邦人留学生や駐在員の方を複数の大学、機関に招いてビジターセッションやイベントを企画したり、研究発表や調査、展覧会など別の理由で訪れた日本人研究者や芸術家の方に講義依頼をすることもあります。関係者が互いに連絡を密に取り合い、限られた機会をより多くの学習者と教師で共有できるよう工夫と協力をしています。

ロシア人教師と学習者、関連機関担当者との情報共有と意見交換を行いながら、ノボシビルスク市、トムスク市、クラスノヤルスク市、トゥヴァ共和国の日本人教師ともネットワークを維持・強化し、シベリアの土地に適した日本語教育を皆で創りあげていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Novosibirsk State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ノボシビルスク国立大学の日本語講座は、西シベリア地域の日本文化研究・日本語教育において中心的役割を果たしている。多くの卒業生が日本語教師、翻訳・通訳家、東洋学研究者として活躍している。専門家は、人文学部東洋学科での日本語授業の他、イベント運営協力、留学相談、また現地教師への教材や授業についてのコンサルティングなどの業務を行う。
所在地 Pirogova str.2,Novosibirsk,630090,Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部東洋学科(以下、東洋学科)、外国語学部歴史と類型学学科(以下、外国語学部)、国際部日本文化センター(以下、日本センター)
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1970年
  国際交流基金からの派遣開始年 2000年
 
コース種別
  東洋学科:主専攻、外国語学部:副専攻、日本センター:夜間一般
 
現地教授スタッフ
  東洋学科:6(うち邦人1)、外国語学部:4(邦人0)、日本センター:2(邦0)
学生の履修状況
  履修者の内訳 東洋学科:約50、外国語学部:約15、日本センター:約15
  学習の主な動機 日本語や日本文化への関心、日本への留学
  卒業後の主な進路 一般企業、翻訳・通訳者、教師(家庭教師含)、大学院、留学
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
東洋学科の場合、日本語能力試験N2合格
  日本への留学人数 7名程度

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